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第15話 マリー、マイア司祭と会う。

明けましておめでとうございます


本年もよろしくお願いします

 いよいよマイア司祭の来る日の朝になった。今日は宿屋でのバイトはお休みだ。


「昨日のお掃除の仕上げをしましょう。それから、身を清めないと」


 カレンディアと、マイア司祭のいるスターリーの町は二十マイルほど離れているらしい。大人の足で、丸一日かかる。司祭は朝一番の乗合馬車で来るので、お昼前ぐらいに着くとか。馬車だと、鐘二つ分(四時間)くらいだそうだ。


「皆さん、お久しぶりですね。おはようございます」


 お腹が空いてお昼が待ち遠しくなってきたころ、マイア司祭がやって来た。背が高くやせている。顔立ちはかなり整っているが、無表情のため、きつい印象だ。生前のわたしと同い年くらいだろうか? 三角形の眼鏡もきつい印象を与えていた。


「マイア司祭、おはようございます」


「それで、あなたがマリーね。初めまして。マール教司祭のマイアよ。よろしく」


 淡々と、表情をあまり変えず話す。元は大人のわたしだが、まるで小さい子のようにドキドキ……いや、ガクブルしている。


「ま、マリーです。よろよろしくお願いします!」


 よろよろしているのは、わたしだっての!


「皆さん、わたくしはマリーとお話があります。先にお昼を食べてきなさい」


「はーい」


 三人は、マルタさんの宿屋へと向かった。ちょ、ちょっと待って! わたしを置いていかないで!!


 そんなわたしにお構いなく、マイア司祭はわたしを連れて二階の司祭室に向かった。


「さて、あなたをこの孤児院で預かる以上、洗礼を受けてもらわないといけないわ。……あなた受ける気はあるかしら?」


「おか……わたしは母の洗礼を受けました。自分の聖印は持っていないです」


 やはり元大人だったからか、ちょっとなれてきたようだ。確かにきつい印象だが、とくに意地悪をされたわけでもないし、どなられたわけでもない。


「そう、あなたのお母様はマール教の信者ですってね。あとで、お墓にお参りに行きましょう。『海』へ還れるようお祈りをするわ」


 マイア司祭はそう言うと、聖印を取り出した。真新しい、きっとわたしのかな?


「あなた自分の名前のつづりは分かるかしら?」


「はい。エム・エー・アール・アイ・イー、Marieです」


 ハキハキと答えるわたしを見て、司祭は少し眉を上げた。それからひざまずくと、新しい聖印を両手で包み込み、目を閉じた。


「海の女神マリエラよ、あなたの新しい子どもマリーが生まれます。願わくは受け入れてくださいますよう」


 マイア司祭の手の中で、聖印は青い光を帯びた。そして光が消えると、司祭は目を開け立ち上がった。


「マリー、マリエラさまはあなたを受け入れたわ。あなたはマール教徒として、これから精進していかねばならないわ」


 そしてわたしに、聖印をかけてくれた。裏返すと、わたしの名前が彫ってある。彫刻刀みたいなので職人さんが彫ってたのかと思っていたけど、もしかして神さまが刻印したのかしら?


「受け入れてくれない場合もあるんですか?」


 わたしの問いに、少し眉を上げたが、


「そうね。例えばテオやエミリアは受け入れられなかったわ。彼らは歩み寄ることができなかったから。……でも、信仰というのは無理強いするものではありません。ただ本国の長老たちの手前、聖印は受け取ってもらいましたが。あの子たち大事にしているかしら」


 お、意外に優しいぞ? わたしが二人とも持ち歩いていることを伝えたら、常に無表情の口のはしっこが少し上がったような気がした。


「それからあなたには、こちらをあげましょう」


 見ると、手書きの聖典と、アルファベット表だった。まぁ、印刷技術とかなさそうだし、手書きなのは当たり前か。


「これは、マイア司祭が書かれたものですか?」


「ええ、そうよ。お昼が済んだら、アルファベットの練習をしましょう。それから聖典を読みます」


 そしてわたしたちも宿屋に向かった。道すがら、またまたわたしは質問する。


「この聖印って高いんですか? 魔道具なんでしょう?」


 マイア司祭の眉がまた、ぴくりと上がった。


「……はあ、マリー。あなたはそんなことを気にしなくて良いのです。……一般的に洗礼を受けるときは、浄財をもらい受けます。ただ、あなた方は孤児です。子どもからお金を受け取るわけにはいかないでしょう? あなた方はきちんとお祈りして、勉強して、すくすくと大人になっていけばいいのです。それ以外のことは大人に任せておきなさい」


 マイア司祭はそう言うと、すたすたと早歩きになった。何だかちょっと顔が赤かったような気がする。


 宿屋に着くと、みんなはもう食べ終えていて、いつもどおりお手伝いをしていた。


「マイア久しぶり。元気にしてたかい?」


「マルタ、一ヶ月前も会ったでしょう。マリエラさまのおかげで変わらず元気ですよ」


 司祭の口元を見ると、少し口角が上がった。マイア司祭は少し、あまのじゃくのようだ。



 昼ご飯のあとは、みんなで孤児院に戻りお勉強タイムだ。わたしはテオとエミリアとともに、アルファベットの練習だ。


「ええっと、エー、ビー、シー、ディー……」


「テオ、ビーの書き方が違います」


「エミリア、エムとエヌが逆です」


「だって、おれは冒険者になる男だぜ!? 字が書けなくたっていいじゃない……ですか!」


「だって難しいんですもの。わたくしたちが字を使うことなんてないのじゃなくって?」


 まぁ、そうなんだが。元日本人としては、字を書けるというのは当たり前だったので、けっこうカルチャーショックだ。そんなわたしはもちろんアルファベットは全部書ける。そしてテオたちにうらやましがられた。


「何でマリーは書けるんだよ!!」


「クレアさんが教えてくださったの?」


「テオ兄ちゃん、冒険者になるなら字のひとつやふたつ読めないといけないよ。ギルドの依頼書はどうやって読むの? 仲間に読んでもらうの? エミリア姉ちゃん、レディって字が読めないとなれないんじゃないの? それにソーレ教の聖典も読めないよ?」


「!!?」


 二人に発破をかけると、まじめに取り組みだした。識字率の低いこの世界で字が読めるというのは、大きな力になると思う。勉強の習慣がついていないし、必要性も感じにくいのかもしれないけれどね。


「マリーは、アルファベットが完璧ね。ではシンシアと聖典を読みましょう」


 シンシアが聖典を声に出して読んでくれた。しかしところどころ、たどたどしい。あれ、でもこれってお母さんのお話と同じ内容じゃない?


「シンシア姉ちゃん、『呪いよ(デスフェジール)解けよ(・ウフェティソ)』だよ」


「!! そうだったわ、ありがとうマリー」


 つい口を出してしまった。マイア司祭の眉が上がるのが見えた。でも何も言われなかったからセーフ? つい自分が三歳児ってことを忘れてしまう。みんなから突っ込まれないようにしないと。その点お母さんはおおらかだったから、あまり気にしてなかったんだけどね。


 たくさん勉強して、私以外の三人がヘロヘロになったころ、夕食の時間になった。マルタさんところでご飯を食べて、マイア司祭とはそこで別れた。これから女子会かな? 明日の午前中も勉強だと、テオが嘆いていた。

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