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第14話 マリー、フェルナンドのことをさぐる。

 次の朝も、サークレットは外れなかった。そしてそのまま、朝ご飯を食べる。


「お、マリー。今日は頭に何かつけてんな」


「外れなくなったんだよぅ……」


 情けなく、ほんとに情けなくわたしが言うと、みんな一生懸命外そうとしてくれた……が、もちろん外れない。


「しっかりはまっている感じね……」


「まぁ、そのままでいいんじゃないか? 魔法使いみたいでかっけーしよ」


 それから、明日のために孤児院内を掃除した。散々みんなが怖いと言っているマイア司祭が来るのだ……ちょっと、いやかなりドキドキしている。



「おやマリー、それはクレアさんのだね。聖女様ごっこかい?」


 宿屋でのバイトのときも、マルタさんに突っ込まれた。まあね、気になるよね。


「外れなくなったんだよぅ……。あ、そうだマルタさん。フェルナンドさんって名前聞いたことある?」


 もぐもぐとパンを食べながら尋ねた。今はお昼休憩中、今日はパンとシチューだ。とりあえず、何でもいいので手がかりがほしい。


「フェルナンド?? そうさねえ……ああ、フーリアの兄さんの名前がフェルナンドだったはずだよ。エルフには多い名前なんじゃないのかい?」


「フーリアさんって?」


「フーリアはエルフの魔法使いさ。今は錬金のほうがメインみたいだがね。エルフのことはエルフに聞けってね」


 フーリアさんは、商業ギルドと孤児院のちょうど間ぐらいに工房をかまえているらしい。お昼ごはんを食べ終わったら、行ってみることにしよう。そう思って、目の前のシチューをかき込んだ。


「こんにちは~。まだお昼やってる~?」


「おや、フーリアじゃないかい。残り物でいいならあるよ。そうだ、このちっこいのがマリー、あんたに聞きたいことがあるそうだよ」


 何とフーリアさんがお昼を食べにきてくれた。……わたしのエルフのイメージとはちょっとかけ離れてたけどね。なんというか、もっとキリッとした美人だと思ってた。勝手なイメージだけどね。実際のフーリアさんは、美人は美人だけど、のんびりした感じの眼鏡のお姉さんだ。


「こんにちは~、フーリアです。よろしくお願いしますねえ」


「こんにちは、マリーです」


 幼児にも丁寧に接してくれる。まぁ質問しやすくてよかったかも。


「突然ですが、フェルナンドというかたを知ってますか?」


「フェルナンド? ああ、わたしの兄もフェルナンドですよ~。エルフではよくある名前ですね~」


「マリー、名前だけじゃ分からないわよ。何か他にないの?」


「どこでその人を知ったんだ?」


 シンシアがフーリアさんにパンとシチューを運んできた。テオも興味津々といった感じだ。


「うーん、お母さんの知り合いなの。わたしは会ったことないけど、魔法が得意で声がかっこいい人。落ち着いた優しい声なのよ」


 いや、そんなんで分かるわけないだろうと、自分でツッコんでしまう。そしてもちろんフーリアさんも分からなかった。


「ちょっと難しいですね~。申し訳ないです~」


「エルフは生まれつき魔法が得意なんだぜ」


「そうなんですよ~」


 わたしは何か手がかりがなかったかと思い出そうとした。何か、何かないかしら?


「そうですね~。エルフでいちばん有名なフェルナンドさんは、イースタニアのフェルナンド王ですね~。でも驚くほど冷徹で、かなり怖い人なんですよ~。誰にも心を開かないんです~。魔道大国イースタニア随一の大魔法使いであり、賢王でもあるんですけどね~」


 だからお母さんの知り合いではないだろうと、フーリアさんは付け加えた。わたしはふと、お母さんがフェルナンドさんのことを『キラキラした王子様』と言ってたことを思い出したが……。いやきっと別人に違いない。下手にしゃべって、お母さんの本名がバレたらコトだわ。でも何でお母さんは偽名を使うのかしらね?


「そうだ、マリーさん。頭のそれって知識のサークレットですか~? 人間のお嬢さんがつけているのは珍しいですね~」


「そうだわ、フーリアさん。マリーのサークレットが、外れなくなってしまったの。取っていただけるかしら?」


 エミリアが、わたしたちの皿を洗って戻ってきた。あ、ごめんエミリア。話に夢中で手伝うの忘れてた。


「外れなくなった? おかしいですね~」


 フーリアさんはそう言うと、サークレットを調べてくれた。まずは物理的に。それから魔法を使って。


「あー、これは知識のサークレットですね~」


 そして知識のサークレットについて説明してくれた。何でも本を記憶できる魔道具で、魔法系の学校の入学のときに配られるものらしい。


「だいたい十冊前後ですかね~。研究職以外には、あんまり人気がないですね~」


 したがって、値段も魔道具のわりには高くないらしい。識字率が低いため、そもそも本の需要が低いもんね。貴族なんかのお金持ちなら、本をインテリアとして求めるけど、サークレットの中に入っているのなら周りに見せびらかせないしね。


 取れない理由が分からなかったが、スカーフでも巻いとけばいいのではと、フーリアさんがスカーフをくれた。三角巾のように結ぶと、うまくサークレットが隠れた。ちょっとスカーフがきれいな気もするけど、何だか町娘っぽいんじゃない? 私はお礼を言った。


「いいですよ~。あ、マルタさん。明日の夜は、マイアさんがここに泊まるんですよね~。わたしも来てもいいですか?」


「ああ、いいよ。久しぶりに女子会としゃれ込もうかね」


 聞くと、この三人は昔パーティーを組んでいたとか。もう二十年も昔のことだよと、マルタさんは言った。主にスターリー~カレンディア間の護衛や、シーナさんの採取がメインだったそうだ。それにしてもマルタさん冒険者だったんだ。ぽいような気もするし、ずっとおかみさんだったような気もする。


 女子会楽しそうだなと思いつつも、わたしはフーリアさんが一瞬見せた真剣な表情が気になった。でもまぁ、友だちに久しぶりに会うときはわたしも緊張したわ。でもすぐ昔のように話せるものよと思い直した。頑張って!……いや、エルフの彼女のほうが人生経験豊富だろうけどね!

今年ももう終わりですね。皆さまお体に気をつけて、良いお年を。

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