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第10話 マリー、シーナの小屋に行く。

「もう! まさかまた気を失うなんて! 何を考えていらっしゃるの!!?」


 エミリアがプリプリ怒っている。最初はツンツンした子かと思っていたが、小さい(わたし)に対する面倒見はいいようだ。


「こんなに気を失うなんて……シーナさんに診てもらった方がいいわ」


「よし、朝飯食ったらすぐ行こう! あのおばちゃんはすんげーんだぜ!!」


 わたしたちは質素な朝食をすませると、シーナさんのところへ向かった。シンシアはわたしを抱っこしていくと言って聞かなかったが、何とか思いとどまらせた。わたしだってもう三歳(プラス三十九歳)だし、華奢な彼女には、わたしは重すぎるだろう。


「おや、あんたたちかい? また薬草を採りに行ってくれるのかい?」


 町の外れにある、シーナさんの小屋に行ってドアをたたく。シーナさんはボサボサの頭で出てきた。場所は昨日行ったお墓の近くだ。


「マリーがまた気を失ったんです」


「昨日言っただろ、『それ』は寝れば治るって」


「でもあれから、()()気を失ったのですわ。朝起こしに行ったら、床に倒れていらしたですもの」


 うう、七歳に怒られるわたし……。


「なぁ、シーナのおばちゃん。マリーは病気なのか?」


 三人ともものすごくわたしのことを心配してくれている。わたしはもう家族認定してもらっているのだろうか。本当の家族がいない分、一度『家族』と見なされるとことさら大事に思うのだろうか。うれしくもあり……悲しくもある。


「またおいのりしたの……」


 神妙な顔をして言ってみる。


「ごめんなさい……」


 そして上目遣いにみんなの顔を見てみる。もっとも背の高さの関係上、どうやったって上目遣いにはなるんだけど。あざといとか言わないで!


「ああ、マリーが気を失ったのは魔力の枯渇だよ」


「コカツ? コカツって何だ?」


「魔法の使いすぎさ。魔力が少ないのに強い魔法を使っちまったんだ。そんなときは寝るに限るのさ。起きたら回復してるからね」


「おお、マリーは魔法使いなんだな!? いいぜ、おれのパーティーに入れてやる!」


「魔法使いになるためには、杖がないと話にならないさ。マリーもお前さんたちもせいぜい生活魔法が使えるくらいさ」


「「つえ?」」


「魔法ってのは魔力をたくさん使う。魔道具を使えば、少ない魔力で魔法が使えるがね。一般人には手が届かないのさ」


 そう言うと、シーナさんは中に引っ込んだ。そして真っ黒な深なべを持って出てきた。


「これも魔道具だよ。魔力を少しばかり軽減してくれる。こんな低級の魔道具だって、買えば金貨三枚はする」


「「金貨?」」


 孤児院の面々は、もちろん金貨なんて見たことない。そしてわたしは、お金自体見たことない。


「そうさねぇ、お金は銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある。銅貨はよく見るだろう?」


「はい。銅貨が三枚あれば、みんなで一日暮らせます」


「ああ、でも昼と夜はマルタんとこの残り物だろう? 三食食べるなら、大人なら銅貨は一人十枚ほしいところだね」


「銅貨は百枚で銀貨に、銀貨は百枚で金貨に。白金貨は金貨が百枚分だ。あたしゃ見たことないけどね」


「へぇえ、白金貨一枚あればどんだけ暮らせんだ?」


「計算してごらん」


 大人で考えると、一日銅貨十枚で暮らせる。銀貨なら一枚で十日間だ。なら金貨では一枚で千日? で、白金貨は一枚でじ、十万日?? この世界も一年が三百六十五日だとしたら、四人で……。


「四人が七十年近く暮らせるわ……」


 座り込んで地面に数字を書く。その様子を面白そうに見ながら、シーナさんは言った。


「ちっこい嬢ちゃんは賢いね。あんたも恩寵を受けたのかもしれないね」


「「おんちょう??」」


 みんなで首をかしげる。


「ああ、神さまが特別に授ける力のことさ。たまにいるんだ、神さまに愛されているとしか思えないような能力を持つ人物が。ほら、クレアとか」


「クレアさんは、カレンディアに来てからいろいろな方の怪我を治していらっしゃいましたわね。その中に大怪我をしたマルタさんのご子息がいらしたから、お二人を無償で宿に泊めていたと聞きましたわ」


 ふむ、そうだったのか。宿代とかどうなっていたんだろうとは思ってたけど……ほんとよ?


「薬草やポーションの知識も豊富、神聖魔法もありゃ高司祭クラスじゃないのかい? しかもおまけに剣技もあり得ないときたもんだ」


「ああ、マリーの母ちゃん、すげかったよな! でっけえ犬どもをのしてたからな!」


 ……ああ、わたしが寝ていた一週間で、お母さん武勇伝を積み上げてたのね。ところで、何で本名のグレイツィアを名乗ってないのかしら? これって聞いてもいいやつなのかな?


「でだ、マリーは恩寵があったとしても、無理するのは良くないね。みんなが心配するだろ?」


「ごめんなさい……」


 そんな話を続けていると、鐘が三回鳴った。


「おや、もう三の鐘の時間かい。あんたたち、マルタのとこへ行かなくていいのかい?」


「!! 仕事に遅れちゃう! シーナさんありがとうございました」


 シンシアは慌てて、シーナさんの小屋を飛び出した。そして宿屋へと走って行く。テオとエミリアは、走らずに歩きだ。わたしも一緒に歩く。


「マリーはまだ仕事無理だろうな。孤児院に送ってやるよ。五の鐘が鳴ったら迎えに来てやる」


「仕事って何?」


「お皿を洗うのですわ。テオ兄様は給仕をなさって、シンシア姉様はお料理をなさいます」


「マルタの飯はまずいからな」


 テオが笑いながら言った。


「五の鐘っていつ鳴るの?」


「五の鐘は昼の二時だぜ」


 話を聞くと、一の鐘は午前六時に鳴るそうだ。だいたい町のみんなが起きる時間らしい。二の鐘は八時。仕事が始まる時間だ。そうやって二時間おきに鐘が鳴る。四の鐘(十二時)がお昼どきで、食堂なんかは五の鐘(十四時)の時にお昼を食べる。六の鐘(十六時)まで仕事をして、七の鐘(十八時)までが夕食どき。だいたい八の鐘(二十時)までには眠る、明かりがもったいないからね。時計は高級品なので、みんな鐘の音を頼りに時間を知る。


「だいたい時計をよめるやつなんて、あんまいねーよ」


 ……うん。つい前世の日本を基準にしてしまう。この世界には学校はないのかしら。あ、でもお母さんはイースタニアで学校に通ったって言ってたし。イースタニアってどこだろう?


「教会の学校に行ければいいのですけど……」


 ソーレ教の教会では、光の日に読み書きそろばんの学校を開いているらしい。まぁ、そろばんなんて無いけど! 光の日というのは、こちらの世界での曜日で、安息日だ。月の日、火の日、水の日、木の日、(かね)の日、土の日、そして光の日だ。この学校に通うためには、ひと月に銀貨一枚の寄付がいる。だから通っていない子も多いとか。もちろん孤児院にはそんなお金は無い。


「わたしもお皿洗えるよー」


 体は小さくなったが、わたしは単なる三歳児ではない。自分の子どものような年齢の子たちを働かせて自分は何もしないなんて、女がすたるわ!


 仲間はずれにするのもかわいそうだと思ったのか、話し合いの結果、わたしも連れていってもらえることになった。やったね。


21/6/1 テオのセリフを訂正しました。聖女様がのしたのは、酔っ払いどもから犬どもにしました。申し訳ありません。

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