083 拳で語れ
ブックマークや評価を貰い、更には感想も頂きました。
とても嬉しかったです。ありがとうございます。
『……………………ぬう』
俺の構想を聞いて、ボルケーノドラゴンは腕を組んで唸り始めた。どうやら悩んでいるようだ。
頭ごなしに否定されるだろう。と思っていたのに悩んでいる。これは良い傾向である。
『正直、面白そうだ。…………我ら『自然龍』は滅びない。この世界がある限り存在し続ける。…………だからこそ、退屈はしているのだ。我らとまともに戦える者も居らんしな』
俺は、ボルケーノドラゴンの空いたぐい呑みに新しい酒を注いでやった。ボルケーノドラゴンはそれをグイッと飲み干し、俺をじっと見つめた。
『…………我はお前が好ましい。我と酒を飲もうなんて者は初めて現れた。この時間が、ここ数百年で一番楽しい』
「俺も、お前と飲むのは楽しいぞ。お前みたいな飲みっぷりは、人間には無理だからな」
『クハハ…………。しかし、だ。我が領主となる話、それは我が家臣となり、王となるお前の下につくという話であろう。それは容認出来ん! 』
「…………容認出来ない理由は? 人間だからか? 」
『もっと単純だ』
そう言うと、ボルケーノドラゴンは翼を広げ、俺達を掴んで空を飛んだ。そして、王都と火山の中間にある広野に降り立つ。
俺達をその場に下ろし、少し離れて。…………地面を四つ足で踏みしめた!
ズズン!! という地響きと共に、激しい威圧感が吹き荒れる!
『我は最強種族、自然龍『ボルケーノドラゴン』!! 我を従わすは、我よりも強き者だ!! 』
目の前にボルケーノドラゴン、後ろを見れば海が広がっている。王都やらに被害が出ない配置なわけだ。
「…………お前を従わせるには、戦って認めさせるしかないって事だな? 」
『…………お前達を気に入っていたが、ここまでだ。…………酒! 大変に美味であった!! 』
ボルケーノドラゴンが翼を広げると、一対の翼の上下に、二対の光の翼が現れた。そして、翼を中心に大気が渦巻く。
これは、ここいら一帯の魔力が集まっているのか。
ボルケーノドラゴンの四つ足の爪が地面に食い込み、尻尾も地面に突き刺さる。…………そして、その口が大きく開かれ、そこには光が集束していた。
「…………やっぱりこう来たか。セバス!! 」
「はっ!」
『消え去るがいい!! 『ボルケーノ・ブラスト・ロア』!! 』
巨大な光の奔流と、強烈な熱量が俺達を飲み込んだ!
…………なるほど、こんなモノを喰らえば、軍隊などひとたまりもないだろう。何の抵抗も出来ずに蒸発だ。これを間近で見て生きてる奴はいないだろう。
まさに山をも消し飛ばす熱量。ドラゴンブレスとは、ここまで凄まじいモノなのか。
…………だが、全てを焼き尽くす奔流にも、終わりはある。光が徐々に細くなり、そして潰える。
ボルケーノドラゴンの体から魔力が抜けきり、その赤く燃える鱗から、輝きが消えていた。
ドラゴンブレスとは、ボルケーノドラゴンの全身全霊の一撃なのだろう。すぐに回復するのだろうが、今は満身創痍だ。
俺の狙い通りである。
『な、なに!? なぜ無事なのだ! 貴様ら!? 』
先程のドラゴンブレスで、広野の地面も抉れている。しかし、俺達の立っている場所だけは無事だ。そこだけ、四角く残っている。
「いやはや、雄一様の言う通りでしたな。どうやら、『神様の絨毯』の上は、別世界のようです」
「ああ。世界が違うなら、影響も受けない。まぁ、駄目だったら即死の大博打だったけどな」
そう、俺達はドラゴンブレスを『神様の絨毯』の上で乗り切った。困った時の神頼みである。
『何が…………。一体何をした!! 』
「後で教えてやるよ、ボルケーノドラゴン。…………悪いが、俺達がお前に勝つには、全てを出しきった今しかない。遠慮なく行かせて貰う!! 」
メリケンサックをガントレットに変えて『ゴブリンジェネラル』の結晶をはめる。そしてトンファーを装備して、俺は跳んだ!
ゴブリンジェネラルの『剣激』スキルを発動して殴りかかる!
ドゴン!! という凄まじい音と共に、ボルケーノドラゴンがガードの為に出した腕を跳ね上げた。
『ぬぐぅ!? 何という衝撃! 』
そのまま腹を殴るが、ボルケーノドラゴンは自ら後ろに跳んで威力を殺し、俺に上から頭突きを喰らわして来た!
「ぐあぁっ!? 」
しかし、飛ばされて地面にめり込む俺に代わり、セバスニャンがボルケーノドラゴンの伸びた首を、三節棍を一本の棍にして打ち据えた!
『ぐうぅ!? 』
「『サモン』! …………狙うはセバスだ! 放て!! 」
召喚した四体のゴブリンアーチャーが、セバスニャンに向けて一斉に『魔力矢』を放つ。そして、セバスニャンは三節棍でそれらをボルケーノドラゴンに打ち返した。
三節棍で弾かれる事によって強化された『魔力矢』がボルケーノドラゴンに突き刺さる。そして俺は、ガントレットの結晶を『自爆岩』に変える。
『ぐぅ!? 何なのだ貴様らは! その力は…………、ガァッ!?』
俺の拳が当たった瞬間に爆発が起きる。
…………くぅぅ!? 『魄』をまとっていてもかなりのダメージだな。怪我するわけじゃないが、これは駄目だな。
しかし、ボルケーノドラゴンは爆発を喰らった脇腹を押さえている。結構効いたようだ。
「『サモン』! 」
「『サモン』! 」
俺達は、召喚したモンスターの力も借りつつボルケーノドラゴンを攻め立てていく。
……………………そして数時間後。
『ぬぐぅ!? 』
ボルケーノドラゴンの足元を四体の『地割れモグラ』が崩し二体の『ゴブリンジェネラル』が渾身の力で払う。
宙に浮いたボルケーノドラゴンを、三体の『ロックシープ』が十体を越える『自爆岩』を打ち上げて、自爆の爆風でボルケーノドラゴンの体を押し上げた。
四体の『ネットスパイダー』を四体の『火爪カラス』が上空へ運び、『ネットスパイダー』の糸でボルケーノドラゴンの視力を奪い。
ボルケーノドラゴンの意識が糸に向いた所で、俺とセバスニャンがボルケーノドラゴンの頭の角を掴んで、渾身の力で投げ飛ばした。
「「せいやあぁぁーーーーーー!! 」」
『ぬわあぁぁーーーー!? 』
宙を舞い、地面に叩きつけられるボルケーノドラゴン。
うつ伏せに地面にメリ込んだその光景を見て、俺達はやりきった達成感を感じていた。
…………ここまでの攻防で、ボルケーノドラゴンが受けたダメージは微々たるものだろう。ボルケーノドラゴンには『自然治癒』の力もあるらしく、最初に与えたダメージは既に無い。
それにボルケーノドラゴンの体は、既にドラゴンブレスを撃つ前の輝きを取り戻していた。それに比べて、俺達は満身創痍である。
『……………………』
ボルケーノドラゴンが立ち上がり、俺達を見下ろした。
…………参ったな。これはちょっと勝てない。
しかし、何故か楽しいのだ。俺の顔には笑みが浮かんでいる。それが、ハッキリ解るのだ。
『……………………フゥ。…………わかった、認めよう』
ボルケーノドラゴンはその場にドッカリと腰を下ろし、俺に手を差し出した。
『下につく訳ではない。しかし、我と同列の者として、お前を立ててやろう』
「…………俺が王様で、お前は家臣。同等の友人だとしても、序列はあるぞ? 」
『我を投げ飛ばしたのだ。そのくらいは呑んでやるさ』
俺は、ボルケーノドラゴンの爪に手を置き、歪な握手を交わした。
そしてその時、俺達の間に一つの大きな結晶が現れた。
『む? なんだこれは? …………中に見えるのは我か? 』
「…………倒さなくても出てくる事があるのか」
新事実だった。
その結晶は『フェンリル・ゴースト』の結晶よりも更にデカイ。
結晶の周りには金の装飾がされ、炎のように揺らめく色の中は虹色に輝き、その中心部には、堂々として威厳のある『ボルケーノドラゴン』の姿が、浮かんでいた。
そして、もう一つ。
『称号を獲得しました。新たなスキルが生まれます』




