081 王都侵入
「なるほど、こんな所があったのか」
「オイラ一人でしか乗った事ないから、三人でも大丈夫かは分かんないぞ」
「心配無用ですな。我々は強いので横転したとしても脱出できます」
トニオの母親は既に昏睡状態であり、薬はトニオが口移しで飲ませているような状態だった。なのですぐに町まで運び、後をイーデルに任せて来た。
そして、ここはプーリエから真っ直ぐ北に進んだ山脈の端である。すぐ隣は海に面した崖であり、山脈の下の森の中の這って進むしか無い様な洞窟を抜けた先に、二本の線路と一台のトロッコがあった。
このトロッコは、ケンプの王都の地下に通じているらしく。トニオはこれを使って王都へと行っていた訳だ。
「んじゃ、行こうぜ」
「ああ。…………まさか人生でトロッコに乗る事があるとはな」
「ええ、ワクワクしますな」
「………………そんないいもんじゃないぞ? 」
三人でトロッコに乗ると、トニオはトロッコの中に付いている穴に小さな魔石を一個入れて、レバーを前に倒した。すると、トロッコが徐々に進み出した。
おお! どういう仕組みなのか解らないが、このトロッコは魔道具なのだろう。これは探せば車を造っている国もあるかも知れないな。
…………そんな事を考える余裕があるのは、最初だけだった。
「うおおおおっ!? 」
スピードがあるのは良いのだが、揺れるわ跳ねるわでいつ脱線するかとヒヤヒヤした。しかも立った状態で乗るのだ、カーブのたびに遠心力がエグい。何度投げ出されると思ったか分からない。
…………王都には十五分程で着いたのだが、あまり乗りたいと思う代物ではなかったな。トロッコから降りた俺達は、取り敢えず休憩する事にした。
「…………はぁーー。まだ地面が揺れてる気がするな」
「トロッコという物の乗り心地があれほど悪いとは、思いませんでしたな」
「だらしねーな。セバス兄ちゃん、お茶もう一杯くれよ」
「よく言う。トニオはずっとトロッコの床に張り付いていただろーが! 」
しばらくセバスニャンの出したティーセットで休憩する。神様の絨毯を敷いてあるから、地面も平らだ。トロッコで負ったダメージが和らいでいった。
それから洞窟を進み、崩れた壁を抜けると地下道に出た。酷い臭いに顔をしかめる。どうやらここは下水道のようだ。あまりの臭いにセバスニャンが辛そうだ。
「兄ちゃん達、気をつけろよ。ここ、モンスターいるから」
「…………へぇ」
下水道を進むと、スライムとソナーバットが襲って来たので、投げナイフでサクッと始末する。
「兄ちゃん凄ぇ! 」
「フフン。ま、このくらいはな。…………ん? 」
「どうかなさいましたか? 」
結晶を拾い、少し驚いた。結晶の中のスライムの色が違うのだ。
「…………普通のスライムじゃないのか? 『ブック』」
「うわっ! 本が出た!? 」
驚くトニオを置いといて『バインダー』に結晶を入れてみる。すると、ただのスライムではない事が解った。『マッドスライム』スキルには『汚泥処理』というモノがあった。
この環境に適応したスライム、という事だろうか。これは良いスライムを知る事が出来た。下水の処理を任せられるスライムはかなり便利だろう。
トニオの案内で下水道を抜けると、住宅街に出た。念の為、俺は『ミストフォックス』の結晶をはめたガントレットを装備している。いきなりドラゴンブレスなんて吐かれたら堪らないからな。
…………実は、洞窟の中で休憩を終えた辺りから視線を感じているのだ。視線の主は、もちろんボルケーノドラゴンだ。嫌でも緊張する。
そんな中で元気なのはトニオだけだ。ボルケーノドラゴンの視線を感じていないらしい。
「こっちだ、兄ちゃん達」
トニオが言うには、この辺りの家にはもうお宝は無いらしい。(お前が取ったからだろ? とは言わなかった)なので、今は少し先にある商店に行っているらしい。
トニオはいつも、母親の薬と少しの食料を買えるくらいのお宝だけ持って帰るらしい。彼なりに、罪悪感があるようだ。悪い子ではないんだよ、トニオは。
移動の途中で、王城が見えた。上部の半分が崩れた城。その崩れた部分で、ボルケーノドラゴンは体を丸めて寝ていた。
その体を包む赤い鱗が、燃える様に輝いている。堂々とした姿、この世界の頂点に位置する生物の一体が、そこにいた。
「…………やっぱデケェな」
「何してんだよ兄ちゃん達! 見つかったら殺されちゃうぞ! 」
トニオが声を潜めながら、早く来いと手を振る。俺達は、苦笑してそれに従った。見つかったらも何も、もうとっくに見つかっているのだ。
商店に入る。どうやらこの店は貴金属を扱った店であるらしく、値の張るアクセサリーが大量にあった。
商品棚にアクセサリーはいっぱいあるのだが、トニオは奥に向かった。なんと最近になって、モンスターが王都の中を徘徊しているらしい。だから、なるべく外から見えない様に動いていると言っていた。
「いつもはここでお宝を持って帰るんだけど、もう必要ねぇからな。どうだ? 兄ちゃん達の頼みは、これで果たしたぞ」
「ああ、助かったよ。あのトロッコは、使わせてもらっていいか? 」
「元々オイラのじゃねぇし、オイラはもう使わねぇからな」
「そうか、ありがとうな」
「うん! じゃあ帰るか、帰りはこっちから行こうぜ! 」
と、トニオが奥の扉に手をかけた時だった。
『グオォォオオーーーー!! 』
「いけません! モンスターの反応が!! 」
ボルケーノドラゴンの咆哮と、セバスニャンの声が同時だった。
ドアを開けたトニオを、セバスニャンが腕を掴んで引き寄せ、俺はドアの外にいた、剣を降り上げたトカゲの化物をトンファーを使って吹っ飛ばした。
そのまま外に出て、サバイバルナイフを出してソード化し、三体もいた剣と鎧を身につけたトカゲをまとめて斬り捨てた。
店からセバスニャンがトニオを抱き上げて出てくる。トニオは気を失ったらしい。セバスニャンは転がっているモンスターと結晶を『ストレージ』に回収し、俺は刻印スマホを出して地図を開いた。
「…………まずいな、今の騒ぎでモンスターが移動し始めている」
「逃げましょう」
「だな」
俺達は、刻印スマホを見ながら最短を突っ切った。邪魔なモンスターは俺が狩り、セバスニャンが『ストレージ』に回収していった。
そして、何とか覚えていた地下道を抜けて、トロッコで脱出した。
トロッコが止まり、降りた辺りでトニオが目を覚ましたので、モンスターに襲われた事を説明し、もう王都には行くなと釘をさしてから、イーデルの所へと送って行った。
そして、俺達は少し海岸を散歩してくると言って、外に出た。
海を眺めながら、『バインダー』に結晶を入れる。王都で襲って来たモンスターの結晶だ。
「…………やっぱり『リザードマン』だったか。ま、だとは思っていたけどな」
「新しい結晶が手に入りましたな」
「ああ。だが、そんな事よりも、だ」
「…………アレですな? 」
トニオがドアを開ける直前。
『グオォォオオーーーー!! 』
あのボルケーノドラゴンの咆哮。あれが問題だ。他の奴にはただの咆哮だろうが『言語理解』のスキルを持つ俺達には、意味を持った言葉として聞こえた。
『駄目だ! 開けるな!! 』
ボルケーノドラゴンは、トニオを助けようとしたのだ。
「……………………作戦変更だな。まぁ、まだ何も決まってはいなかったけどな」
「…………不幸中の幸いですな」
「…………ハァ。しかし考えもしなかったな。…………あのボルケーノドラゴン、話が通じるタイプだ」




