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078 押し掛け博士

  アインの恐竜談義も一段落し、今日の予定を決めようとしていた時に、異変が起きた。


  外から聞こえてくる悲鳴。ガシャン! ガシャン! という音と共に響く地響き。俺達は何事かと廊下を走り、音がする方角、つまりは正面玄関側にある窓から外を見た。


  音の正体はすぐに判明した、そして、ソレがこの場所を目指しているのも解った。…………しかし、理由が解らない。


「おい、セバスニャン。あれって…………」

「ええ。我々に用があるのでしょうが、意味が分かりませんな」

「あ! おーい! ユーイチ!! 博士が来たよーー! 」


  俺の屋敷の前で、大荷物を担いだ『パワフルくん』に乗ったクリスタが、元気に手を振っていた。


 ◇


  とりあえず屋敷の庭に『パワフルくん』を置いておいて、クリスタを中に招いた。と、同時にアインとメルサナには無駄に怖がらせた街の人達に、心配いらないと事情説明に走ってもらっている。


「で? 急にどうしたんだ。あの大荷物は何だ? 」

「何って、引っ越しさ。博士はユーイチに雇われたからね! そりゃ本拠地だって変えるさ! あ、セバスニャン。後で博士の前の家から、残った荷物を運んでほしいんだよ。デカイゴーレムやパーツは運びきれなくてね! 」


  …………引っ越し? コイツは何を言っているのだろう。


「え? ここに住むって事か? なんでそうなるんだよ」

「博士一晩考えたのさ。『フェンリル』の魔石なんて貴重過ぎる物を前金に貰っといて、このままで良いのかってね! 良いわけがないのさ! だから博士はユーイチの近くに住んで、いつでも魔道具製作に取り掛かれるようにするのさ! 」


  …………どうしよう、よく分からない。同じ街に住んでいれば十分近いだろ。


「…………クリスタ殿。ひょっとして、昨晩寝ておられないのではないですか? 」

「え? 寝てないよ。『フェンリル』の魔石が目の前にあるのに、寝られる訳ないじゃないか」


  何当たり前の事を言ってんだ? くらいの感じでクリスタは答えた。…………なるほど、まともに頭が回ってない結果か。


「とりあえず、お茶飲んだら帰って寝て来い。話はそれからだ」


  一度寝て、スッキリすれば考えも変わるだろう。『パワフルくん』も、セバスニャンの『ストレージ』に入れて運べば問題無い。全て解決である。


「帰れないよ? 」

「…………は? なんで」

「『パワフルくん』で外に出る時に、結構色々壊しちゃったからね。一応弁償はしてきたけど、二度と顔見せるなって怒られたよ。おかげでアメジス洞窟で稼いだお金も無くなってスッカラカンさ! 」


  …………もう手遅れだったらしい。


「……………………リリアナ。後でちゃんと説明するから、クリスタの面倒を見てくれないか? 」

「わかりました。…………でも、婚約者の私に黙って早速女性を連れ込んだ事も含めて、ちゃんと説明して下さいね? 」

「……………………はい」

「では私は、クリスタ殿の荷物を取りに行くとしましょう。『パワフルくん』も、しばらくは私の『ストレージ』の中にしまって置きましょう」

「…………頼む。クリスタ、お前はとりあえず寝ておけ」


  そんなこんなで、クリスタが俺の屋敷に住む事になった。そして、俺達はクリスタの種族『ドワーフ』の凄さを思い知る事になった。


  夕方に目覚めたクリスタは、早速行動を開始した。


  まず、俺に庭の一角を貸してくれと許可を求め、俺が許可すると共に、魔法を使って穴を掘り始めた。


  何と、クリスタが前に住んでいたあの広大な地下施設は、クリスタが自分で作り上げた物だったのだ。地下空間を作る場所さえあれば、自分で穴を掘り、魔法で地盤を固め、安全な地下施設を作る事が出来るのだと言う。


「お前、凄いなクリスタ」


  と、俺が感心すると。


「こんなのドワーフなら子供でも出来るよ! 」


  と、返された。…………凄ぇなドワーフ。


  ちなみに、ほぼ寝惚けた状態でここに来た事については。「あっちゃー、博士とした事がやってしまったね! ま、いいか! 」ですんでしまった。


  俺なんかリリアナの前に正座して、二時間ほど説教されたと言うのに。…………解せぬ。


  地下施設さえ出来てしまえば、後はセバスニャンの力で、荷物を片づけるだけである。全てが終わったのは、二日後のことだ。地下三階もの施設がこんなスピードで出来るとは。


  クリスタは、中で必要な家具類も自分で作ってしまった。流石と言うか何と言うか。


  そして、クリスタから地下一階に招かれての、完成祝いと引っ越し祝いをかねた、身内だけの小さなパーティーが開かれた。


  クリスタの研究施設に初めて入った、リリアナやメイド達が目を丸くして驚いている。


  そしてその中に、皆に酒やジュースを配って歩いている、ゴーレムが一体いた。俺の膝くらいの高さしかないズングリとした形のゴーレムだ。


  何だかやけに気になるな。なんでだろう?


「ユーイチィーー。ちゃんと飲んでんのかい? 」

「お、おお。飲んでるよ。…………なぁ、クリスタ。あそこの小さいゴーレムって、新作か? 」

「うん? ああ、作業の合間にね、造ってみたのさ。おーい、こっちおいで『スラゴム』! 」

「すらごむ? 」


  クリスタに呼ばれて、ズングリとしたゴーレムがこっちにやって来た。ちゃんと言う事を聞くらしい。ホスト役もこなしていたし、凄いなコレ。


「へへー。これはね、ホラ! 」


  クリスタがゴーレムの頭の部分を上にあげると、そこにはコクピットの様な椅子に座るスラリンがいた。


「ええ!? スラリン!? こ、これってまさか!? 」

「どうだい! 『スラリン専用パワフルくん』さ! これに乗っていれば、博士の作業を色々と手伝って貰えるからね! 造ってみたのさ! 」


  フフンッ! と胸を張り、クリスタの大きな胸が災いしてボタンが弾けた。しかし、スラリンがパワフルくんを器用に操って飛んだボタンをキャッチして見せた。


  クリスタが、照れた様子で『スラゴム』からボタンを受け取っている。


「…………お前、マジで凄ぇな! これは流石に驚いたぞ!? 」


  『スラゴム』に乗っているスラリンも、どことなくドヤ顔に見える。


  これはクリスタにも結晶をいくつか預けておくべきだな。もしかしたら、モンスター達がかなり強化されるかもしれない。


  クリスタがリリアナ達の所へ話に行った時に、俺はセバスニャンを呼んだ。


「いかがしましたか? 」

「セバス、俺達の持ってる財宝の大半を使っていいから、クリスタに多めに援助しといてくれ。金があれば、研究が捗るだろうからな」

「なるほど、かしこまりました。では、合わせてモンスターの素材も渡してしまいましょう」

「ああ、そうしてくれ」


  もしかしたら、クリスタが押し掛けて来たのは良い事だったのかも知れない。あれほどの才能を、街の中とはいえただ置いとくのはマズい気がするしな。軍事転用とか考えたら、狙われていてもおかしくない人材だ。


 ◇


  その日の夜。ヒリムスがフェルドでの仕事を終えて街へと帰って来た。フェルドの瘴気はかなり薄くなり、ゾンビたちも動きを止めたので、埋葬してきたらしい。


  まだ、墓を建てたりフェルドに残った遺品や物資を回収したりは残っているが、それはアインとメルビンがやるべき仕事だ。俺は手を出さない。


「セバス、ヒリムスも帰って来たし、港町プーリエに向かうぞ」

「…………いよいよ、ケンプ王国の解放に動くのですな? 」

「ああ、まずはイーデルに話を聞こう」

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