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06 滅びそうな街

「…………何でこんな事になっているんだよ」


  まだ早朝と言っていい時間帯。俺達がいる崖の上からは、目指した街が置かれている状況がよく見えた。


  正面に広がるのは林が点在する広野だ。その向かって左側、大きな湖の手前にくだんの街がある。


  異世界の街らしく、高い塀に囲まれた大きな街で、街の中心には広大な敷地をもつ大きな屋敷があり、それを囲むように大小様々な建物が並ぶ。


  さらにその街を囲む塀の外側は広い農地になっており、そこを更に高い塀で囲んでいた。


  街の形から、この辺りにはモンスターが多く、農地を荒らされる危険が多いのだろうと推察出来た。農地を塀で囲わなければ安心出来ない程なのだろう。


  そして、その街の外側に軍隊が配備されていた。軍隊が向いている方向、つまり、俺達から見て右側の離れた所には、これまた軍隊がおり、今はにらみ合いながらもテント(……と言うより天幕だろうか? )を設営している最中だった。


  問題なのは軍隊の規模であり、街側はざっと見て五百人くらいで、対する敵側は二千人くらいに見える。つまり四倍、規模が全然違うのだ。そもそも…………。


「なんで、籠城しないで外にいるんだあいつらは? 反対側から逃げてる奴らがいるって事は、味方がいるんだろ。なんで援軍を待たない」


  そう、街を囲む塀は高く、簡単には突破出来そうにない。しかもそれが二重にあるのだ。


  街の大きさから考えても食料が無いなんて事もなさそうなのに、訳が分からない。まあ、逃げてる奴らがいる時点で不安材料はあるのだろうが、それにしてもである。


「と言いますか、あの規模の街にしては兵の数も少ないですな。陣形も少々乱れておりますし。……ふむ」


  セバスニャンがモノクルに指を充てて身を乗り出した。…………あのモノクル、望遠機能もあるのだろうか? 俺も欲しいな。


「…………これはこれは。どうやら街側の指揮官は女性ですな。それも、少女と言っても差し支えありませんな」

「はぁ? 」

「まわりの兵も装備が悪いですな。少年兵も多い。推察するに、『領主の留守を突かれた』といった所でしょうか」

「いやおかしいだろ。領主が居なくたって代行とかはいるだろ?指揮がとれる貴族の一人くらい…………」

「反対側から逃げているのが、その貴族ですかな? 随分と豪華な馬車が騎士達に護衛されております」


  どうやら思っていた以上に酷い状況のようだ。俺もよく見て見ようと目を凝らす。と、身体能力100倍が効いているのか、視界が開けていくが、途中で思い留まった。確かに良く見えるようにはなるのだが、目にかかる負担が大きいのか痛みが出てきたのだ。


  慣れていないせいもあるのだろうが、気軽に100倍は使わない方が良さそうだ。なら、と考えて、俺はスマホのカメラ機能を思い出した。


「おお! 使える! 」


  思った通り、刻印スマホのカメラにはズーム機能があった。早速覗いてみると、セバスニャンの言うように、街側の軍隊の後方には、座らされている少女の姿があった。見るからに体に合って無さそうなブカブカの甲冑を着せられている。


  あの少女はお飾りで、実際に指揮をとっているのは少女の隣に立つ、厳つい顔の老将なのだろう。兵士に向かって、なにやら声を荒げている様子が見える。


  老将の様子とは裏腹に、座らされている少女の少し気の強そうな顔は、前を睨みながらも青ざめていた。その顔を見るだけで、この方法しかないのだろうと理解出来る程に、悲壮感が漂っている。


「…………これは援軍来ないんだな。領民が逃げるまでの時間稼ぎで死ぬつもりみたいだ」

「ですな。頼れる貴族は、自前の騎士を引き連れて我先にと逃げ出したのでしょうな」


  正に反対側から逃げている奴らがそうなのだろう。確か、貴族には民を守る義務ってやつがあるはずなのだが、地球と異世界は違うのだろうか? 一緒に逃げてる民を押し退けて馬車を走らせている。


  …………まあ、あの逃げてる奴らがクソなだけなのだろうが。実際に、戦闘訓練を受けているかも怪しいあのお嬢様は、覚悟を決めて前線に居るのだから。


「見るからに領主の娘が担ぎ出されているんだ。軍隊の精鋭も領主と一緒に不在なんだろうな。……いや、でも籠城だろ。どう考えたって、兵糧の差で勝てる。あんなでかい街に食料の蓄えが無い訳がない。防御を固めれば、いくらでも戦えるだろ? 」

「…………そうしない理由は、魔法でしょうな。まだ見た訳でもありませんが、門を破るだけの高威力の魔法があるのでは? 」

「…………ああそうか、剣と魔法の世界だったな。門を魔法で破られたら、数の差で詰むのか」

「兵士が多い所を見るに、誰でも自由自在に魔法が使えるという訳では無さそうですが。メインは剣での戦いなのでしょう」


  刻印のスマホを使って、隣にはセバスニャンが居るのに魔法が頭から抜けていた。デカイ攻城兵器なんか要らないのか、この世界は。


  気を取り直して相手側に視線を向ける。こっちはこっちで不思議な奴らだった。まともに陣を敷いている兵士も多いが、見るからにボロボロの装備の、山賊のような奴らはそれに輪をかけて多かった。


  と、言うより殆どがボロボロの格好で、中には装備の無い奴や上半身裸の奴までいる。普通の、一般人のような格好の奴も多い。


  兵士に混じって、杖を持ったローブ姿の一団も見える。魔法使いだろう、そういう格好だしな。陣の一角には水場があり、そこでは馬が集まって水を飲んでいた。馬具をつけているのを見るに、騎士もいるのだろう。


  正規軍の中に山賊が混じっている。それも山賊の方が数が多いらしい。そんな事あるのか? あの山賊達が全員一つのグループなわけは無いが、これだけの数だと一体どれ程の広範囲から集められているのだろうか。


「なんだこれは? 寄せ集めか? 」

「あの山賊どもは、見るからに略奪が目的なのは確かですな。後方に固まっている兵士達は分かりませんが」

「まあ、あの街が略奪の対象になっているのは確かだな。これじゃあ降伏も出来ない」

「…………雄一様。あちらを」


  セバスニャンが右側の更に遠くを差し示す。そこには、黒煙が上がる場所があった。遠すぎてよくは分からないが、集落のようだった。


「…………既に略奪しながら、ここまで来てるのか」


  改めて見てみると、兵士山賊問わず、全員がどこかしらに血が付いているように見える。襲った相手の返り血だろう。


  さらには、天幕の一つに押し込められている人間の姿が見えた。両手を縛られている少年や少女が、荷馬車から天幕に移されている。捕虜だと思われるその子供達は、服装からして貴族の子供達のようだ。皆怯えているが、特に少女達の怯え方は、ここから見ていても分かる程に酷い。何度も殴られたのか顔が腫れている子もおり、どういう扱いを受けているのかは想像に難くない。


  頭が急速に冷えていく感覚があった。あの略奪者どもは、どうやら人間では無いようだ。


「さて、どうしますかな」


  セバスニャンが俺の方を見て問いかけた。俺も、セバスニャンを見つめ返す。


「どうするもなにも、この状況じゃあの街には入れない。今は勿論、戦いが終わってからも無理だ。どちらが勝ったとしても入れない」

「街側が勝っても警戒され、略奪者が勝ったら危険すぎて入れない。と、ではどうなさいますか? このまま捨て置いて違う街を探しますか」


  セバスニャンの眼は俺の眼から離れない。俺がどういう答えを出すか試しているようだ。だから俺も、真剣に応える。


「…………論外だ。第2の人生の一歩目を、暗い気持ちで塗り潰すなんてあり得ない」

「ならばどうなさいます」


  俺は、街を指差しながらセバスニャンに答えた。


「…………あの街に、()()()()で勝ってもらう。街を救った英雄として、迎えてもらおう」


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