073 ゴーレムマスター
「来ますぞ! 」
アメジス洞窟、地下三階。
セバスニャンの声に身構えていると、まず、ビキッと地面にヒビが入った。そしてヒビが徐々に広がり、殻を破る様に大きなセミの幼虫が飛び出した!
「キターー!! 土中セミだ! 」
セミの幼虫と言っても、芋虫的なヤツではなく。サナギの一歩手前みたいなヤツだ。まだ成虫じゃないクセに、「ミーンミーン」と鳴き声を出している。
初めて見るモンスターに大喜びする俺の前で、土中セミはクルリと縦に一回転し、遠心力も利用して爪を振り下ろしてきた。
俺がバックステップでかわすと、振り下ろされた爪は爆発を伴って地面を大きくえぐった。
「うおっ! コイツなんて破壊力を!? 」
その見た目からは想像できない破壊力に驚いていると、クリスタの解説が入って来た。
「侮るんじゃないよ! 土中セミは、鳴き声を体の中で反響させて、その振動で攻撃力を上げているのさ! 」
何でもアリだな異世界!
俺は土中セミとの距離を一気に詰めてトンファーを叩きつけた! しかし、土中セミは吹っ飛びはしたもののあまりダメージは無いようだ。固いなコイツ。
「むぅ、剣が弾かれますな」
セバスニャンの剣も通らないらしい。刻印装備を弾くとは、大した固さだ。…………スキルか? と考えていると、アインが前に出た。
「僕に任せて下さい! 」
「ふむ。では私があやつの動きを止めましょう」
アインの隣に、仕込み杖を『ストレージ』にしまったセバスニャンが並び立つ。…………どうやら、仕込み杖を弾かれた事が気にさわったらしい。
再び襲ってくる土中セミ。その攻撃を軽くかわしたセバスニャンが、爪を地面から抜いたばかりの土中セミに踵落としを叩き込んだ。
「ミミッ!? 」
ボゴォッ!! という凄まじい音をたてて地面にメリ込む土中セミに、アインの雷魔法が襲い掛かった。
「ミーーーー!? 」
雷の直撃を受けて黒焦げになって崩れる土中セミ。…………やっぱり俺も、ああいう魔法が使いたいな。などと思いながら、俺は土中セミの結晶を拾うアインを眺めていた。
「ユーイチさん! どうぞ、結晶です」
「ああ。ありがとうアイン」
アインから受け取った結晶を、早速バインダーに納めてみる。土中セミの持っているスキルが気になったからだ。
そうして見てみると、土中セミの説明に『超振動』というスキルが記されていた。なるほど、超振動か。
「…………どうやら私の剣は、固さと言うよりも振動に弾かれたのですな」
「そういう事だな。ただ固いだけで、刻印装備は弾けない気がするしな」
しかしこれは、役に立ちそうなスキルだ。多めに狩っておこう。
それからも、土中セミは定期的に襲ってきた。その度に、俺やセバスニャンが土中セミの足を止め、アインがトドメを刺していく。しかし、この方法はアインの負担が大きい。
確かにアインの魔力は底が見えていないし、魔力が尽きるとは俺も考えていない。しかしだ、魔法は精神をゴリゴリ削っていくのだ。事実、アインの顔には疲れの色が出てきている。
「うーん。アインの魔法以外で、何とか土中セミを仕留められないだろうか? 」
「そうですな。アイン殿に頼りきりではいけませんな」
「…………僕は大丈夫ですよ? 」
明らかに無理をしているアインを押し止めて、次に出て来た土中セミは、俺とセバスニャンでひたすら殴ってみた。
いやー、効率が悪い! どうやら土中セミの『超振動』は、衝撃をある程度『流す』事が出来るらしい。しかも俺とセバスニャンの二人で殴るには少々的が小さい。
結局、一体倒すのに五分近く殴り続けてしまった。
「ふふふん! これは博士の出番だね! 」
そう言いながらクリスタが胸を張り、大きな胸が災いして白衣のボタンが弾けた。
毎回恥ずかしそうにボタンを拾うくらいなら、胸を張るのをやめればいいのに。
「クリスタも魔法を使うって事か? まぁ、それなら確かにアインの負担は減るか」
「ふっふーん。まあ見てるがいいのさ! 」
クリスタは、背負っていたバックに括りつけていた三本の棒を外して、一本に組み立てた。クリスタの背よりは少し長いくらいの、一メートルちょっとある程度の金属の棒だ。
まさかアレで殴る訳じゃ無いだろうし、何をするつもりなのかと首を傾げながら先に進むと、セバスニャンがモンスターの反応を見つけた。
「来ますぞ! 」
「良し! 博士の出番だね! 皆は下がってな、巻き込まれると危ないよ! 」
自信満々で前に出るクリスタ。俺は一応、助けに入れる体勢で後ろに下がった。
ピシリと地面にヒビが入るのを見て、クリスタは持っている棒の先端を壁に突き刺した。そして壁から棒を引くと、それに吊られる様に何かがくっついて来た。…………巨大なロボットっぽい腕である。
棒の先に、まるでハンマーを思わせる形でくっついているデカイ腕。土中セミが地面から飛び出すと、クリスタは野球のスイングの様にハンマーを横に振り抜き、土中セミにロボットの拳を当てた。
「サンダーーブロォーーーー!! 」
「ミミーーーー!? 」
土中セミに拳が当たった瞬間に稲妻が走り、ぶっ飛ばされた土中セミは凄まじい勢いで壁を破壊しながらメリ込み、黒焦げになって地面に落ちた。
「良し! 完勝!! 」
「いや、ちょっと待て」
俺は、ハンマーを振り上げて喜ぶクリスタに、説明を求める事にした。
◇
「これは『雷属性魔道機兵』っていう博士が造ったゴーレムの腕さ! 凄いだろ! 」
説明を求めた俺に、クリスタはそう言って胸を張った。既にボタンは弾けた後なので、代わりとばかりに大きな胸が白衣の外に飛び出して、クリスタが白衣を着直していた。結構厚着をしているのに恥ずかしいらしい。
「そもそも、どういう力だそれ。スキルなのか? 」
「え? 当たり前だろ。依頼書を見て来たなら知ってるだろ? ちゃんと『ゴーレムマスター』って名乗ってたはずだよ? 」
「あれスキル名だったのかよ!? 」
クリスタの説明によると、『ゴーレムマスター』とは周囲の物質からゴーレムを造り出すという、とんでもないスキルらしい。
制約としては、周囲の物質の基本的な知識と、造りたいゴーレムの詳細な知識がいるらしい。つまりは、強いゴーレムを知っていれば知っている程、クリスタは自由にそのゴーレムを造れる。
クリスタがゴーレムの研究をしているのは、この『ゴーレムマスター』のスキルで造れるゴーレムを強くする為であり、いずれは数いる魔王の中で『ゴーレムの魔王』とか呼ばれている魔王を自分のゴーレムで叩き潰すのが夢らしい。
……………………ゴーレムの魔王? …………いるのか魔王。しかも、いっぱいいるのか? …………魔王。
「ちなみに、 ゴーレムに属性を持たせるには、その属性の魔力石が造る度にいるからね、ホイホイ造れないよ? 」
「ふぅん? その今造ったゴーレム(?)はどのくらい出てるんだ? 」
「魔力をどれだけ使うかによるけど、全く使わなければ半日くらいだね。さっき土中セミをぶっ飛ばしたみたいに使えば、あと二回くらいで消えるね」
ほう。三回使える必殺技って事か。
「普通に殴る分には魔力は使わないよな? 」
「だね。分かって来たじゃないか」
「造れるのは腕だけか? 」
「まさか。やろうと思えばどこだって造れるし、全身いけるさ。ただ、全身なんか造ったら消費する魔力がエグいからね、腕だけの方が効率が良いのさ! …………まぁ、全身造ったとして『パワフルくん』くらいの方がいいだろうね」
「『パワフルくん』? …………ああ、あのパワードスーツか」
なるほど。クリスタは自分のスキルを良く理解しているようだ。俺の中でクリスタの評価がうなぎ登りになった。




