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069 イーデル=ケテル

「本日は、おめでとうございます! ユーイチさん、リリアナさん」

「ワシからも、お祝い申しあげる。お二人の未来に、幸多からんことを」

「アイン、メルビン殿も、ありがとう」

「ありがとうございます」


  アインもメルビンも、控えめな貴族服で現れた。俺達が主役だから、並んだ時に目立たない様にという配慮なのだろう。


「ユーイチさんもリリアナさんも、良くお似合いですよ。いつも以上に魅力的です」

「ありがとう、アイン。ねぇ、ユーイチ様。このペンダントは、アインが作ってくれたのですよ」

「へぇ、そうだったのか。結晶をペンダント・トップにする何て俺は思いつかなかった。やるな、アイン」

「いえ、リリアナさんがユーイチさんのイメージに合うアクセサリーが欲しいと言った時、結晶を差し出したのはスラリンですよ。だから、思いついたのはスラリンです。ね、スラリン」


  アインが右腕を胸まで持ち上げると、スラリンが姿を現して誇らしげにプルプルと揺れた。…………今日は居ないと思っていたら、アインの腕に巻きついて『擬態』していたらしい。頭の良いスライムだな、本当に。


「でも作ったのはアインなんだろ? ありがとうな」


  と、思わずアインの頭を撫でると、アインは恥ずかしそうに赤くなった。…………うん。場所を考えるべきだった。すまん、アイン。


  アイン達の次は、ヒリムスだった。って事は挨拶巡りは終わったのかと安堵したが、ヒリムスは初めてみる姿の人物を何人か連れていた。


  何と言うかアレだ。ターバンとかの布を体に巻きつけた様な民族衣装を来た人達だ。明るい布を色々組み合わせているために派手だ。特に、一番前にいる褐色肌のイケメンは凄い。どこに居ても目立つだろう。


  そういえば、婚約披露宴の間中、常に目のはしに入っていた気がする。ヒリムスがその派手なイケメンを前に出した事から、どうやらこの男を紹介したいらしい。


「ユーイチ。こいつは、ケンプ王国の港街プーリエを仕切っているイーデルって男だ」

「イーデル=ケテルと申します。小さな港街で、イーデル商会という店の会頭をしております。お見知りおきの程をお願い申しあげます」

「こちらこそ、どうぞよろしく」


  慇懃に頭を下げるイーデルの印象は、掴みどころの無いってヤツだった。ヒリムスの友人で、港街を仕切っているなら貴族だろうに、商会の会頭だと名乗ったのも引っ掛かる。


「ところでヒリムス。向こうはどうだ? 」


  俺が暗にフェルドの事を聞いていると察して、ヒリムスも少し小声になった。


「一歩ずつって所だな。瘴気は薄まってきているが、まだまだ魔法で防ぐ必要がある。俺も明日には戻るさ」

「悪いが、よろしく頼む」

「ふっ、『フェンリル・ゴースト』なんて化物を倒して貰ったんだ。後は俺達の仕事だからな、悪い事なんてないさ」


  そう言ってヒリムスはイーデルと共に去っていった。


  イーデルはこの場では余り話さず、俺もリリアナと共に披露宴を楽しんだ。そして、披露宴も終わり、来客の殆んどが帰った後で、俺はイーデルともう一度会う事となった。


 ◇


  ルイツバルト家の一番良い応接室。その場に居るのは四人。テーブルを挟んで二組あるソファーの片側には俺とセバスニャンが、もう片側にはイーデルとヒリムスが座っている。


  まず口を開いたのはイーデルだった。


「ユーイチ様には、ぜひお会いしたいと思っておりました。ついこの間なのですが、私が無事であることをヒリムスに伝えた手紙の返事で面白い物を頼まれたのが切っ掛けです」


  面白い物? と首を傾げると、ヒリムスがその後を引き継いだ。


「ユーイチから貰った結晶を入れるケースだ。お前にもやったアレだ」

「ああ、成る程。妙に装飾にこだわった箱だと思っていたが、そうだったのか」

「はい。その箱を作る際に中に入れる物の見本として、ゴブリンの結晶が手紙に入っていたのです。そこでヒリムスを訪ねて詳しく聞けば、貴方様のスキルだと言うではありませんか。私はもう大興奮でありました」


  ジロリとヒリムスを見ると、脂汗をかきながらスッと眼を反らした。人のスキルの情報漏らしやがって。


「ああ、ヒリムスを責めないでやって下さい。何割かは私の推理故ですので」

「………………推理? 」

「…………ああ。どんな方法を使ったのか、コイツとんでもなく情報集めてやがってな。俺と会った時には『コレクション』の事を六割は知ってやがった」

「マジか…………」

「ああ。しかも、俺が渡して無い結晶も持っててな。結晶が出る条件とか、結晶を使える条件とか、次々的を得やがってな。…………しかしだ、元はと言えば俺が結晶を送ったせいだ。すまん! ユーイチ! 」


  テーブルに手をついて頭を下げるヒリムスだったが、俺はヒリムスをあっさり許して頭を上げさせた。なにせ、とんでもなく有能な人物を連れて来てくれた訳だからな。


  俺は、イーデルを味方に引き込む事に決めた。天才ってのは、中々いるもんじゃない。チャンスがあれば掴むべきだ。


「許してくれるのか? 」

「まぁ話を聞くに、イーデル。お前、結晶が手元に届く前に俺の事を知ってたろ。具体的には、戦争が終ったくらいのタイミングで」

「ほう、なぜそんな…………」

「俺がお前なら、攻める側の方に情報を集める間者(スパイ)を入れとくからだ。それも総大将であるヨーデルのすぐ側に。そして、戦争に負けたと知ったら、今度はカルミア側から情報を取っただろ。お前なら、あらかじめ手の者を入れとく位はしてる筈だ」


  このイーデルって男は情報収集のプロだ。なら、俺が思いつく程度の事をしていない筈がない。


「買いかぶりですよ。…………ただ、何故その話をわざわざ私に聞かせたのですか? 黙って利用すればよろしいでしょう? 居るのが分かっている間者(スパイ)を利用するくらい、ユーイチ様ならば簡単では? 」

「それこそ買いかぶりだ。俺にはそんな事は出来ないし、出来たとしてもやりたくない。大変そうだしな。そういうのは、()()()()()()よ、イーデル」

「……………………は? 」


  おお、一瞬とはいえイーデルの呆けた顔が見れるとは思わなかったな。これは収穫だろう。


「俺さ、ケンプ王国のボルケーノドラゴンをどうにかしたら王様になるらしいんだよ。だから、役に立つ家臣が欲しい」

「…………私を、家臣に出来るとお思いで? 」


  イーデルの顔から表情が抜け、目つきが鋭くなった。なるほど、コイツの沸点は自由を奪われる事か。それにコイツ、権力者が嫌いだな。


「そりゃなるさ。俺達にしか手に入らない物も、俺達にしか出来ない事もあるしな。お前なら当然、セバスニャンの事も調べた筈だ」

「……………………」

「俺の『コレクション』セバスニャンの『ストレージ』」

「…………そのくらいならば、私の人生とは釣り合いませんが? 」

「…………それじゃあダメ押し。俺はカルミアに来てから、スキルを更に三つ手に入れている」

「……………………!!? 」

「実は、結晶にしたモンスターのスキルも使える」

「まさか!? 」


  ガタンッ! と音を立てて、イーデルは立ち上がった。


「情報を集めるのが得意なお前なら、スキルの有用性は知っているよな。特にモンスターの固有スキルはヤバイ。反則級のモノがあるからな」


  イーデルは立ち上がったまま、考えを廻らせている様だ。コイツなら、俺の知らない事も山ほど知っている筈だ。


  俺はイーデルの意識をこちらに戻す為に、一度大きく柏手を打った。パァンッ!! という音で、イーデルはハッとしてこちらを見る。


「お前は俺をただ見極めに来たんだろうが、手を組んだ方が得だぞ? 」

「……………………私に何をお求めで? 」

「財務関係の全部だ」

「!!? 」

「おいユーイチ! 俺が言うのも何だが、コイツをそんな簡単に信用するのか!? 」

「大丈夫だろ。イーデルは信念ってヤツを持ってるタイプだ。俺がコイツの信念を裏切らない限りは大丈夫さ。…………どうだイーデル。一から造る新しい国一つだ。お前の人生に見合うかな? 」

「私は、貴方様が考えている以上に、好き勝手しますよ? 」

「いいよ。国の利益を第一に考えるなら」

「……………………ククク。私が私腹を肥やしたり、裏切ったりするとは考えないので? 」

「無いな。何となくだが分かる。お前、私腹を肥やす貴族とか嫌いだろ? そうでなきゃ、貴族なのに『商会の会頭』だなんて名乗らないもんな」

「…………よく、お分かりで」


  イーデルは少し黙り込んでから僅かに笑い。テーブルの横の開けたスペースで片膝をついて頭を下げた。


「改めまして、イーデル=ケテルでございます。貴方様の国が出来る際には、必ず参上いたしましょう」

「もうしばらく時間がかかるから、その間も力は借りるぞ? 」

「かしこまりました。ケンプ王国に入る際には、私を訪ねて下さい。お世話させて頂きます」

「ああ、頼む」


  こうして、イーデル=ケテルという頼もしい家臣が出来た。これは、俺にとって本当に幸運な事だった。


  日本ではパソコンばっかり使っていたからな。…………苦手なんだよ、紙の上の計算が。

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