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066 死闘が遺すモノ

「おおーー。やっぱ違うな、フェンリルともなると」


  体がボロボロなのでまだ立ち上がれないので、俺は地面に倒れたままフェンリル・ゴーストの結晶を眺めていた。


  普通の結晶が親指くらいの大きさなのに対して、フェンリル・ゴーストの結晶は手のひら大だ。デカイ。


  しかも、全体的な色は紫色なのだが、中は虹色に輝き、その中心にフェンリル・ゴーストが浮かんでいた。しかも、この結晶は銀の様な金属で装飾も入っていた。特別感が凄い。


『称号を獲得しました。新たなスキルが生まれます』


「ん? 」

「おや」


  頭に響く声と共にステータスウインドウが立ち上がった。セバスニャンも反応した所を見ると、同じモノを見ているのだろう。


「セバスも称号か? 」

「ええ。おそらくはフェンリル・ゴースト絡みでしょうな」

「まあ、そうだろうな。強敵だったからな、実際死ぬかと思ったというか、死にかけたからな」


  さっそくステータスウインドウを見てみると、『称号一覧』と『スキル一覧』それに『魔法一覧』にも『!』マークがついている。


  そう言えば魔法を覚えたものの、ステータスウインドウなんかチェックして無かったな。取り敢えず『魔法一覧』を開いてみると、『ライトベール』の魔法がポツンと載っていた。


  まぁ、そうだよな。などと考えながら、次に『称号一覧』を開く。今回増えた称号は『神獣殺し』と『ゴーストの天敵』の二つだ。


  ………………神と名がつくモノを殺したという証拠なのだが。コレ、持っていて大丈夫なのだろうか? 神様に目の敵にされないだろうか?


「取り敢えず、俺に増えていた称号は『神獣殺し』と『ゴーストの天敵』の二つだな」

「私は『神獣殺し』と『スケルトンの天敵』の二つですな」


  『神獣殺し』はフェンリル・ゴースト。『○○の天敵』は俺がフェンリル・ゴーストと主に戦い、セバスニャンは眷属のスケルトンウルフと戦っていたからか? …………いやでも、『神獣殺し』はセバスニャンも持っている。なのに『ゴーストの天敵』が手に入っていないのはどういう訳だろう?


  セバスニャンから貰ったポーションと、『健康EX』先生のお陰で大分回復し、俺はやっと起き上がる事が出来た。体を軽くほぐしながら、少しセバスニャンに質問してみた。


「なぁセバス。お前スケルトンウルフをどう倒したんだ? 」

「はい。あ奴らは倒しても魔石を破壊しても、瘴気を吸収して復活してきましたので、倒してすぐに『ストレージ』に骨を回収して復活をふせいでおりました」

「成る程。骨がなければ復活出来なかったのか。フェンリルはゴーストになったが、やはり『フェンリル』だからゴーストとして復活できた、と考えるのが良さそうだな」


  考えてみれば、スケルトンウルフが現れたのもフェンリルの力が有ればこそだったな。


「そうそう。忘れる所でしたな」


  セバスニャンはそう言うと、『ストレージ』から大量の結晶を出して見せた。その結晶は紫色をしており、中にはスケルトンウルフの姿が見えた。


「おお! スケルトンウルフも結晶が出たのか! 」


  ホクホクしながら大量の結晶を受け取り、俺は解ってしまった。『天敵』の称号は、おそらくその種族を圧倒したからだ。細かい規定は色々ある(ゴブリンなどの称号が無いため)のだろうが、そういう事だと思う。


  まあ、俺がフェンリル・ゴーストを圧倒したかと聞かれたら答えにかなり困ってしまうが。


  そして、称号を得るとスキルも得られる。俺の新たなスキルは二つ。『神獣の紋章』と『威圧〔ゴースト〕』だ。


  威圧は分かる。説明にも、ゴーストの動きを縛る。追い払う。とあるし、分かりやすい。セバスニャンのは、これのスケルトン版だろう。


  しかし『神獣の紋章』は分からない。何せ、説明も『?』で埋められているのだ。…………こんな事もあるのか。


  と、俺が悩んでいる間にも、セバスニャンはフェンリルの砕けた魔石を『ストレージ』に回収したので、俺達がここでやるべき事の大半が終わった。


  辺りを見渡してみれば、紫色の瘴気も薄まってきている。


「上に戻るぞ、セバス」

「はい。そういたしましょう」


  俺達は長い階段を登って、領主の私室へと戻った。俺達はアインの両親の遺体に、全てが終わった旨を伝えて部屋を出た。


  報告と一緒に、アインから預かった指輪を、アインの母親の手の内に置いてきた。これは、アインとの約束だったのだ。全てが終わったら、指輪を返してきて欲しい。と。


  領主の私室を出て少し歩くとゾンビに遭遇したが、明らかに動きが悪くなっていた。ゾンビの中には、床に倒れたまま起き上がれない奴もいるようだ。


「街からすぐに瘴気が無くなったりはしないか」

「フェンリル・ゴーストが居なくなったとて、時間はかかるようですな」


  だが紫色の瘴気は、確実に薄まってきている。上空にまで渦巻いていた瘴気が徐々に霧散しているのか、暗かったフェルドに光が差し込んできていた。


  依然、街はゾンビで溢れている。しかし、襲われる様な事は無い。いや、正確には襲いには来ているのだが、非常に動きが悪いため何の問題にもならないのだ。


  瘴気さえもっと薄まれば、後はヒリムス達がなんとかしてくれるだろう。俺とセバスニャンの役割はここまでだ。うん、俺は十分良くやった。早く帰ろう。


  フェルドを出て、待機しているヒリムス達に中の様子と、フェンリル・ゴーストの事を伝えると、ヒリムスは青ざめはしたが、納得もしていた。


「『フェンリル・ゴースト』か。道理でな。そんな化物がいたんじゃ、あの瘴気の量も納得だ。しかし、よく生きて帰って来たな。普通なら死んでる所だ」

「実際、死にかけたよ。ギリギリまで追い詰められた」

「……………そうか。じゃあ、後は俺達の出番だな。もうしばらく待って、人体に影響が出ない辺りで街の浄化に入る。ユーイチ達はカルミアで報告を待っていてくれ」

「ああ。そうさせて貰う」


  城塞都市フェルド。この街は、役目を終えたと言える。この街は『フェンリル』に縛られていた。だが、もう『フェンリル』は居ないのだ。魔石すら無くなったのだから、流石に打ち止めだろう。


  よって、この街は地図から消える。


  これは、メルビンやアインの望みでもある。ゾンビとなった住人達はこの近くにある高台に埋葬され、その後、魔法を惜しみなく使って破壊し尽くすと言う。


  フェンリル・ゴーストのいた広大な地下の事も伝えてあるので、あの場所が丸々埋まる事になるだろう。


  カルミアへの帰り道。馬車に揺られる俺は、バインダーを見ていた。フェンリル・ゴーストの結晶はやはり特別らしく、バインダーのページが一つ、フェンリル・ゴーストだけで埋まっていた。


  『フェンリル・ゴースト』


  所持スキル


  『眷属使役』『威圧の咆哮』『拒絶の壁』『幽体化』『魔神瘴気』


  …………………… スキルを五つも持っているとは。しかし、『フェンリル』としてのスキルではなく、『フェンリル・ゴースト』としてのスキルなのか。やはり、相当に弱体化していたのだろう。


  …………充分化物だったが。


  しかしこれは間違い無く、この世にたった一つしかない結晶だろうな。…………絶対使えないな。勿体なさすぎる。


  『フェンリル・ゴースト』が味方にいれば心強いかも知れないが、使えば無くなる、この世にたった一つの物なんて使える訳がない。


  フェンリル・ゴーストの結晶は、たまに出して眺めるだけのコレクションアイテムとして残すと、俺は心に決めた。

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