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055 ヒリムスの報せ

  翌日。俺はカルミア軍の大訓練所にて、様々なモンスターを展開し、大々的な訓練を行っていた。


  臨時で用意した観覧席はカルミアの住人でいっぱいである。なぜこんな事になっているのかと言うと。


  ハルハナ王国から離れ、心情的にも物理的にも孤立した現状に不安を覚える住人が多いので、カルミア軍の強さや味方であるモンスター達の強さを見せ、それと同時に戦闘訓練を観るという娯楽を提供しよう。


  そういうパフォーマンスである。これで少しでも住人達が安心して、ストレスが軽減されればいいのだが…………。


  まぁ一番は、さっさと城塞都市フェルドとケンプ王国を解放する事なんだけどな。


  …………しかし、俺には一つ気になる事がある。モンスター達の指揮は、何故か当たり前の様にスラリンがとっており、モンスター全体の戦い方も、いやに洗練されている気がするのである。


  例えばソルジャーマンティスである。彼らの背中には、それが当然であるかの様にゴブリンナイトと兵隊アリが乗っている。そして綺麗に整列する様は、さながら本物の騎馬隊のようである。


  …………俺は教えた覚えなど無いのだが、どこで覚えて来たのだろうか? スライム達も、何体かが一塊になってゴブリンジェネラルに投げられ、着地と同時に馬防柵になる離れ業をやってのけた。


「…………あの馬防柵はヤバイだろ。騎馬隊の進路上に突然現れる杭だぞ? 前に出てる奴らは確実に即死するだろ」

「確かに。アレを基軸に幾つか作戦を立てられますな。幸いというか、スライムもゴブリンジェネラルも大量確保が可能ですからな」

「ゴブリンジェネラルがゴブリンファイターから進化出来るのヤバイな。ただでさえ魔剣持ちなのにな」


  会場は盛り上がっているが、軍の人間は総じて青ざめている。何せ、騎馬隊が優秀であれば優秀であるほど威力が増すトラップだ、この一手で戦況がひっくり返る。


「おい、ユーイチ。あの馬防柵とゴブリンジェネラルは先に話しておいて欲しかったぞ。簡単に見せていい物じゃねーぞアレ」


  そんな文句を言いながら、ヒリムスが寄ってきた。


「スライムについては俺も知らなかったんだよ」

「…………ま、これを見たら裏切ろうなんて奴もいなくなるだろうから、良いけどな」

「…………あー、やっぱ反抗する奴はいるか」

「まあ、基本的には皆解ってくれたよ。ベッチーノのヤツが派遣して来たのがポッペンだったのが、結果的に良かった。下手したらポッペンの支配が始まってた事実に、大体の奴が青ざめてたからな」

「嫌われてんなー、ポッペン」

「金の亡者は嫌われるからな。…………そうだ、これを持って来たんだ」


  ヒリムスが腰に下げていた小さな袋から、その数倍の大きさの、パンパンになってる袋を取り出した。


  あの小さな袋はポッペンの宝物庫にあったという、かなりの量のアイテムを入れられるという魔法の袋だろう。これらの上質な宝の数々に、ヒリムスは喜び、ムースは渋い顔をしていたのを思い出した。ムースにとってみれば、自分が見えていなかったポッペンの不正の証拠だからな。色々思う所があるのだろう。


「これが、お前が居ない間に集めていた結晶だ」

「おおー!! 」


  早速袋の中を見てみると、本当に様々なモンスターの結晶が入っていた。俺の知らなかった鳥系のモンスター結晶も含まれている。


  袋に入っていたリストを見ると、『火爪カラス』『鳴きスズメ』『ゴブリンリーダー』『死毒ムカデ』『ネットスパイダー』『自爆岩』が新しく増えた結晶だ。


  ……………………自爆岩? …………メガ○テのアイツだろうか?


  それと、『ウォーターゴーレム』や『ミストフォックス』を多く狩っていてくれた事が素直に嬉しい。ミストフォックスにいたっては10個以上ありそうだ。


「サンキュー! ヒリムス!! 」

「ああ。…………で、だ。こっちの袋にはそこにある結晶と同じ種類の物がいくつか入っているのだが、貰っていいか? 」

「そうだな、約束だったしな。お前が狩って来た物だから当然の取り分だな」

「よっしゃっ!! 」


  ガッツポーズを見せたヒリムスが、魔法の袋からシックなデザインの木製の箱を出して、中に結晶を仕舞い始めた。覗き込んで見ると、…………結晶のコレクションの為に、コレクションケースを造っていたらしい。


「お、お前! ズルい! これはズルいだろ!? 」

「お前のバインダーの方がズルいだろうが!! 」

「うぐ! いやまぁ、…………そ、それは…………そうなんだけど…………」


  でも、そのケース欲しい! 俺も同じのを…………、いやでも、真似するのはヒリムスに悪い気も…………!


「…………ふっ、ユーイチならコレを欲しがるのは、解っていたさ」


  そう言って、心の友(ヒリムス)は魔法の袋からコレクションケースをもう一つ取り出して、俺に差し出した。


「…………いいのか、兄弟」

「もちろんだ兄弟。俺とお前の仲じゃないか」


  俺達は、熱い握手を交わした。


  ちなみにセバスニャンはそんな俺達を無視して、いつの間にか来ていたアインやリリアナにメルサナの四人でお茶会を開いていた。


  …………チッ、コレクションケースを自慢するのは後にしよう。


「…………ユーイチ、ちょっとコッチ来い」

「ん? …………ああ」


  コレクションケースを仕舞って、真面目な顔になったヒリムスと、少し場を離れた。ヒリムスは何やらアインを気にしている様だ。


  アインに聞かせたくない話なのだろうか? フェルド絡みか?


「ユーイチ、俺達が盗賊討伐や戦争の残党狩りをしているのは解っているよな? 」

「ああ、当然だ。何か動きがあったか」

「残党狩りは大体終わった。だから今は、盗賊討伐の方をメインでやっているんだがな。…………ハハラ村って分かるか? 」

「うん? 聞いた覚えがあるな。…………ああ、お茶が名産の村だったか。確か、盗賊被害のある村の一つだろ? 」


  今は俺の屋敷になったポッペン屋敷に、初めて入った時にそんな話が出た気がする。


「そうだ。その盗賊を調べさせていて、そいつらのアジトを発見したんだがな…………」


  そこで、ヒリムスはチラッとアインを見た。


「アジトを発見したのはフェルド出身の部下でな。ソイツによると、アインの家で執事長をしていた男が、件の盗賊達の奴隷になっているらしい」


  ヒリムスの言葉に、俺は思わず頭を抱えてしまった。


「………………何でアインばっかりそんな目に合うんだ。…………ヒリムス。当然救出するよな? 俺も行くぞ」

「もちろんだ。解っていると思うが…………」

「アインには黙っておくさ。たまには良い知らせがあってもいいだろう。助け出してから、アインに伝えよう」

「ああ」

「それに、ハックナー家で長く執事をしていた人なら、フェルドの情報も持っているだろうしな。ゾンビが溢れた原因が解るかも知れない」

「…………成る程な。それなら尚更、何が何でも助ける必要があるな」

「ああ。必ず助け出す! 」


 ◇


  モンスター達の訓練が終わり、街の住人達は家に帰って行った。しかし、モンスター達が消える訳では無い。そこで、俺はモンスター達を労う事にした。


  先程、新しく手に入ったモンスター達も召喚し、顔合わせがてら皆で過ごした。ミストフォックスをモフッたり、鳴きスズメを指に止まらせてみたり、自爆岩に触れてみたりと、思うがままに過ごす。


  例のアレとは違ったが、自爆岩は顔の付いた岩だった。当然のように『自爆』スキルを持っている。…………使い所が難しいな。だが、後で威力は見ておかなければ。


  しばらくモンスター達と戯れた後、明日以降のモンスター達の訓練をアインに任せた。ヒリムスと狩りに行くから、と話すと、しょうがないですね。と頷いてくれた。


  そして次の日。俺はセバスニャンと共に、ハハラ村へと向かったのだった。

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