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053 休息日

  カルミアに帰って来た。


  ムース達に王都であった事を話し、セバスニャンが仕入れた物資を渡した。ついでに、ベッチーノから奪ってきた王冠も渡すと、ムースは前王とカルロ王子の弔いに使わせて貰う。と言って受け取った。


  そして夜。ムースは、俺達が帰った時の為に晩餐会の準備をしていたらしく。その夜は、ムース達や街の有力者達との晩餐会があった。


  俺の為なのか、ギルド職員のガーナなんかも呼ばれており。姉御肌のガーナでも、こういう席ではドレスを着るのだな。と驚いたりして楽しく過ごした。


  そして、今日の俺はお休みである。


  ぶっちゃけ疲れたのだ。これからの事も考えると頭がパンクしそうなので、もう今日は何もしないと決めたのだ。


  俺の物となった元ポッペン屋敷で、俺が一番気に入ってるのは書斎だ。広い書斎に、豪華な家具、そして大量の本。ポッペンの奴は本をただの飾りだと思っていたのか、集めるだけ集めていたらしいが、俺には幸運だった。


  様々なジャンルが並ぶ中には、英雄の伝記などもある。これは読まない訳にいくまい。執事長のイーサンにオススメを聞いたら、アインの先祖の伝記があると言うのでそれにした。


  柔らかいソファーに横になり、伝記を手に取る。


『精霊騎士ルーザー=ハックナー』


「…………精霊騎士か。なんかスゲーな、アインの先祖」


  ちなみにセバスニャンは、書斎の中でも日が差す場所に椅子を移動させ、その上にクッションを置いて作った寝床に、猫の姿で丸くなっている。


  あいつも今日は完全に猫モードである。


  さて、自分の知らない世界の事実を元にした英雄譚だ。ワクワクしてしまうな。俺は期待に胸を膨らませて本を開いた。


 ◇


  ルーザーは子供の頃、ただのルーザーだった。


  貧しい町の、町長の三男として生まれ、長男ではない事から読み書きを覚える事もなく、ただ畑仕事の日々だった。


  そんなある日、ルーザーは父の言いつけで隣町まで行商人について行く。自分が、父に奴隷として売られたとも知らずに。


  ルーザーに運があったのは、ルーザーを買った奴隷商人が駆け出しであり、奴隷契約に不備があった為に奴隷になっていなかった事と、奴隷商人が酒飲みで酔っぱらっていた事だ。


  隣町まで行く途中で、酔っぱらった奴隷商人から自分が奴隷として売られた事実を聞かされ、ルーザーは馬車から飛び降りて逃げ出した。


  逃げたものの家族の元には帰れず、奴隷商人がいる事から隣町にも行けない。ルーザーはしょうがなく森に入った。森の中で食料を集めたりもしていた為、森なら生きられると考えたからだ。


  森の奥へ進むルーザー。護身用にと持っていたナイフ一本でモンスターと戦い、生き延びていくうちに、ルーザーは自分の中の才能(スキル)に気がついた。


  『剣術』スキル。何も持っていないと思っていた少年の希望。ルーザーは次々モンスターと戦い、スキルを伸ばしていく。ついには、ゴブリンナイトを倒す事にも成功した。


  ルーザーが森に入って一年が過ぎた頃。ルーザーは、街道でモンスターに襲われている馬車を見つけてこれを助けた。助けられたのは、ナジーナ=ハックナー騎士爵。この後、ルーザーを引き取り育ての父となる者だった。


  ナジーナに拾われたルーザーは、ハックナー家で剣術を学び、メキメキと頭角を表した。そしてナジーナに認められ、成人すると同時にナジーナの娘と結婚する事で、ルーザー=ハックナーとなり、正式にナジーナの息子となった。



「おおー、農民から奴隷落ちして、そこから一気に貴族か。成り上がり系の主人公だな」


  嫌いじゃない。そんな事を思いながら、雄一は読み進めていった。



  貴族としての生活を送り、騎士として様々な戦場で戦う日々。ルーザーの剣術の腕もメキメキと上達し、王国でも五指に入ると言われた頃。ルーザーはモンスター討伐に訪れたダンジョンで精霊と出会った。


  知能を備えたユニークモンスターに捕らわれた光の精霊。ルーザーは解放した光の精霊の力を借りて、ユニークモンスターを討伐する。精霊騎士の誕生である。


  しかし、ユニークモンスターは死の間際に、こんな事を言い残した。『ワタシはあの方の眷属にすぎない。貴様らはいずれ、真なる絶望を知るだろう』と。


  国王にその事を報告すると、どうやら他のダンジョンでも同じ様なユニークモンスターが現れ、倒しはしたものの甚大な被害があった事を聞いた。


  そして精霊騎士となったルーザーに王命が下る。『精霊の力を借りて、真なる絶望と言われる敵を倒すべし』ルーザーは敵の情報と、精霊の力を求めて旅にでる事になった。



「あ、ユーイチさん。ここに居たんですね」

「ん? おうアイン。何かあったか? 」

「いえ、何してるのかなって思っただけです。セバスさんは一緒じゃないんですね」

「いや、居るよ。…………ホラ、あそこで丸くなってる」


  俺は丸くなってると言ったが、俺が指差す場所にいるセバスニャンは、手足を伸ばして長くなっていた。クッションから垂れ下がった尻尾の先が、僅かに動いている。


「あれがセバスさんですか? …………猫の姿になれるとは聞いていましたけど、いつものセバスさんからは考えられない姿ですね」

「…………猫だからな」

「凄く可愛いんですけど………」

「構うなよ? セバスの猫パンチは、下手したら死ぬからな? 」


  アインは名残惜しそうにセバスニャンを見た後、俺の寝転ぶソファーの足下に腰かけた。


「ユーイチさんは、読書ですか? ここは本が多いですもんね」

「ふっふっふ。イーサンにこれを進められてな。俺も興味あったから読んでた」

「…………ルーザー=ハックナーって、僕のご先祖様の本ですね」

「ああ。やっぱ知ってるよな」

「僕も話を聞いたりはしてますから。城塞都市フェルドを造った方で、街の中には銅像も立っています」

「へえ、慕われてるな」


  俺は体を起こしてソファーに座り直し、アインは少し移動して距離を詰めてきた。


  近くのテーブルの上には、セバスニャンが予め置いておいたティーポットとカップがあったので、それで紅茶を入れて、カップの一つをアインに差し出した。


  アインは少し紅茶を飲んで熱さに驚いた。神様のティーポットは、イメージで中身を変えられるので、いつでも温かい紅茶を提供出来るのだ。


  俺も紅茶を一口飲んでから、アインとの会話に戻った。


「ルーザーは、どのくらい前の先祖なんだ? 」

「ルーザー様は約八百年前のご先祖様です。まだ魔道具が開発される前の人ですね。農業も進んでなくて、とても貧しい時代だったと聞いています」

「へえ、魔道具か…………」


  魔道具と言われても、俺にはピンとこなかった。まだ魔道具自体をあまり見たことが無いからだろう。


「元々魔道具は、エルフやドワーフの技術なんです。僕達の様な人間は、彼らの魔道具を元に改良して使っているんです。その大元の技術を持ち帰ってくれたのも、ルーザー様だと言われていますね」


  本には精霊。アインの口からはエルフにドワーフと聞いて、俺は少しにやけてしまった。異世界の代名詞とも言える種族の名前に、本当に居るんだな。と、嬉しくなってしまったのだ。


「なぁアイン。暇なら俺に付き合ってくれ。お前の話も聞きながらの方が面白そうだ」

「もちろんいいですよ。…………えっと、ルーザー様が王命を受けて旅立つ所からですね」


  俺はアインに本を渡し。子孫の話も聞きながら、一緒に読書を楽しむ事にしたのだった。

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