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052 閉じるカルミア

  王都から少し離れた丘の上で、俺達は一息ついていた。丘の上に絨毯を敷き、いつものティーセットでクッキーと共に紅茶を楽しむ。俺の今の気分はレモンティーだ。レモンの香りで心が落ち着く気がする。


「僕はこの紅茶は初めてですけど、香りが良いですね」

「そうね。私もこの香りは好きです」


  俺と同じくレモンティーを飲むアインとリリアナも気に入ってくれた様だ。ちなみに、アインは既にメイド服ではなく、普通の格好だ。


  今、俺達はセバスニャンの帰りを待っている所だ。セバスニャンは、物資を調達しに行っている。何せ、ハルハナ王国と断交するのだ。確実に物資は足りなくなる。


  その中でこの騒ぎを起こしたのだから、利用するべきだ。具体的には、物資とその資金を、ハルハナ王国から貰ってしまおう。と、いう事だ。


  戦争中の物資は、敵から貰うに限る。金もかからず相手に打撃を与えて、こちらの物資が増えるなら、それだけで大分有利になるからだ。王城も今は騒ぎが大きくて隙だらけだろう。


  きっと、今頃は…………。


 ◇


「早く仕留めろ! 一刻も早く陛下をお救いするのだ! 」

「雑魚など衛兵に任せてしまえ! 陛下を救えば、恩賞は思いのままぞ! 」


  バタバタと貴族やその私兵が走り回る王城。その廊下にある調度品の物陰から、一匹の猫が顔を出した。白いカイゼル髭のような模様が特徴的な黒猫だ。


  彼は等間隔で置かれた調度品の間を縫うように、スルスルと先へ進んで行く。時折、何処からともなくキーホルダー付きの鍵を取り出し、その差し示す先を目指す。


  使ってみて気づいた事だが、この鍵は隠された扉を見つける機能と、その強制的な解錠機能だけでなく。探し物を差し示す機能もあった。


  これが解っていれば、この世界に来たばかりの頃に、森の中から街を目指すのも簡単な事だったと、今さらながらに気づいたのだった。


  王都から一度出てすぐに、セバスニャンは雄一の命令で王城へと戻った。命令の内容は、王城にあるだろう財宝と、食料などの戦術物資を奪って来る事だ。


『金が無ければ戦争も出来ないからな。宝物庫の中身は全部奪って来い。戦略物資は、ある程度でいい。全部ってのは、時間的に厳しいだろうしな』


  との事で。今、セバスニャンは宝物庫から中身を全て奪って来た所である。後は食料庫と武器庫を空っぽにするだけだ。食料と武器に関しては、倉庫は複数ある筈なので、一つ空にすれば良いとセバスニャンは考えていた。


「「…………わあぁーーーーーー!! 」」

「…………! 」


  城の中に歓声が響いた。どうやら、全てのゴブリンジェネラルを討伐し終わったらしい。


「ふむ。…………それではダメ押しですな。『サモン』」


  セバスニャンは窓から中庭に結晶を投げて、二体のゴブリンジェネラルを召喚し、先を急いだ。


 ◇


  ――――その頃。雄一達のいる丘はハルハナから追って来た兵に囲まれ、魔法による集中放火を受けていた。次々に放たれる魔法が、絨毯の形成する結界にぶつかっては霧散していく。結界の周りには、無数の矢も落ちていた。


「飽きないなアイツらも。どうやったって、この結界を壊すのは不可能だろうに」


  絶え間なく続く攻撃は、徐々に俺達のいる丘を削ってもいるが、絨毯の上は相変わらず平らなままで、広さも変わっていない。おそらく、丘が針の先程度になったとしても、絨毯は何も変わらずにソコにあり続けるだろう。神様の持ち物に、常識など通じないのだ。


「ふははははっ!! 逆賊どもよ、貴様らの運命もここまでだ! 我がモヤイタール家の誇るスキル持ちが、貴様らに引導を渡してくれるわ! 」


  拡声器でも使ったかの様な大声に、そちらを見てみると、ハゲあがったオッサンが叫んでいた。オッサンの顔の前に魔方陣が浮かんでいる所を見ると、魔法の効果なのだろう。拡声魔法といったところだろうか。


「コヤツらを見よ! 一人は『必中』スキルを持つ弓矢使い! もう一人は貴様の天敵たる『結界破り』の! …………ああっ!? 」


  律儀に待ってやる必要も無いので、オッサンの横に立った二人を、投げナイフでサクッと仕留めた。


「ひ、卑怯な! 貴様には貴族の誇りは無いのか!! 」


  オッサンが何か叫んでいるが、俺は無視して椅子に座り直した。


「いいんですか? 何か叫んでますよ? 」

「…………いいんだよ。相手を殺そうってのに、隙を見せる奴が悪い。切り札があるなら、黙って攻撃するのが普通だろ」


  それからも敵は懲りる事なく魔法を打ち込んで来た。俺は隙を見せた奴を投げナイフで仕留めながらセバスニャンが帰るのを待っていた。


「お待たせいたしました。雄一様」

「やっと来たか。結構かかったな? 」

「申し訳ありません。備蓄分だけでは心許なかったので、街で塩などを購入しておりました」

「そっか、ご苦労様。…………よし、帰るぞ! 」


  敵軍をざっと見る。数は千って所だろうか? 脅威の筈だが、全く負ける気がしないな。


  俺は、バインダーから『ロックシープ』『ロックドール』『岩ネズミ』を何体か召喚し、命令を与えた。


「メェーーーー!! 」


  ロックシープ達がなんとも可愛い雄叫びを上げ、そのスキル『念動力(岩)』を使い、ロックドールと岩ネズミを放物線を描く様に敵に飛ばしていく。


「う、打ち落とせーー!! 」


  ロックドール達に魔法が放たれるが、ロックシープが念動力で僅かにずらす事でかわし、着弾していく。敵の頭上から降り注ぐモンスター。ロックシープもまた、敵の注意が逸れたと見るや敵に突撃していった。


  俺は次に『火毒ヘビ』と『鎌カエル』を出す。そして、俺がやらせてみたかった事を命令する。


「…………どうだ、出来るか? 」

「ケロッ! 」

「シャーー! 」


  まず鎌カエルが両手を上げて構え、そこに火毒ヘビが毒を吐き出した。鎌カエルに飛んだ毒は降り注ぐことなく、鎌カエルの頭上で鋭い円盤となった。


「ゲコーーーー!! 」


  気合いと共に打ち出される毒の刃。敵の内の何人かがその刃を斬ろうとして、剣同士がぶつかり火花が散る。


  確かに鎌カエルの刃は止められた。しかし、その元となったのは、火毒ヘビの()()()()()()である。火花によって毒液は一気に燃え上がり、毒ガスとなって蔓延する。


「いいぞ! 続けて打ち込め、味方は巻き込まないようにな! 」

「ゲコッ! 」

「シャーー! 」


  モンスター達が善戦していると、アインが何かを決意した表情で前に出て、杖を掲げた。


「僕はユーイチさんの従者です! だから僕も戦います! …………天駆け巡る(いかずち)よ、我が意に従い敵を穿て! 『天雷』!! 」


  アインの呪文と共に、まるで杖に貫かれているように三つの魔方陣が浮かぶと、敵軍に強烈な雷が落ちた!


「「ギィヤァァアアァーーーー!! 」」


「…………うおお。…………すげぇ」

「おや、アイン殿。それはポッペンの宝物庫で見つけた物ではないですか? 」

「はい! タリフさんに譲って貰いました! 」


  マジかよタリフ。これ本当に良かったのか?


  それから小一時間程、地獄のような戦いが続いた後。


「ひ、退けーー!! 」


  半分程が減ったところで、敵の号令と共に兵が逃げて行った。


  俺達は第二波が来る前にと、何十体かのモンスターを召喚してその場を任せて、先を急ぐ。『仙道』スキルを手に入れてから、俺の召喚でもモンスター達は三日は消えない。王城に仕掛けも打ってあるし、きっと活躍してくれるだろう。


「さあ、先を急ぐぞ! 」


  再び、俺とセバスニャンでリリアナとアインを抱えて走る。馬車や馬を使って一週間かかる道のりも、俺とセバスニャンならもっと速い。


  途中で休憩や夜営を挟みつつも、俺達は三日でカルミアまでを走りきり、カルミアの手前で先に行っていたメルサナや、王都のルイツバルト家のメイド長ターニャ と合流した。


「リリアナ様、ご無事でしたか! 」

「お嬢様! 」

「大丈夫よ、ユーイチ様が一緒なんですから」


  心配して駆け寄るメルサナとターニャに、心配ないと笑いかけるリリアナ。俺はリリアナとアインをメルサナ達に預けて、先にカルミアへ戻るように言って送り出した。


  …………そして俺とセバスニャンは、岩山の渓谷を進む。


「さて、仕上げですな」

「…………ああ。だが、本当にキツイのはここからだぞ。俺達は退路を絶つんだ。カルミアを孤立させる以上。フェルドのゾンビや、ケンプのボルケーノドラゴンなんて化物と、正面切って戦わなきゃいけなくなる」

「ふむ。…………では、ケンプのボルケーノドラゴンを倒した暁には、雄一様は国王ですかな?」

「…………言ってろ」


  俺達は、ハルハナ王国とカルミアを完全に分断するために、唯一つの路である岩山の渓谷を、モンスター達と共に崩して埋めた。

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