046 事後承諾
ポッペンが現れた理由と、俺の凶行を知った全員が、言葉を失った。皆、俺を知らない生き物を見るような眼で見てくる。
…………俺の隣に居るのはセバスニャンだけだ。
「理由は説明した通りだ。ハッキリ言って、これ以外の方法だと、俺とセバスがお前達全員を見捨てて逃げる。…………ってのしか思いつかなかった」
俺の言葉に、それぞれ顔を見合わせたり、俯いたり、考え込んだりと色んな反応を見せる中で、俯いていたアインが、一歩前に出て顔を上げた。
「…………僕達を、見捨てない方を取った。という事ですか? 」
「そうだ」
「…………なら、僕はユーイチさんを信じます」
アインが、俺の隣に移動して来た。
「………………本当に、それしかなかったのか? …………父上、本当にユーイチが言った通りになると思いますか? 」
「うう……む。…………かなり近い形には、…………なるだろう」
ヒリムスの言葉に、ムースは苦い顔で答えた。
「…………ハァ。…………ならば、乗るしかないか。だがユーイチ! お前が滅茶苦茶だとは言っとくぞ!! 」
俺を指差して非難しながら、ヒリムスが俺の側に来た。
「…………私は、貴族の娘です。家のため、望まない相手との婚姻する覚悟は、ずっと持っています! 」
リリアナは俺の眼を見ながらそう言い切り、しかしその後で、ムースに向き直って頭を下げた。
「…………ですが、例え家を守るためだと解っていても、ルイツバルト領を壊し、民達の命を奪った原因を作った男には嫁ぎたくないです! …………ごめんなさい。お父様」
「…………いや、当然だとも。私とて、ベッチーノにお前をくれてやる気など無い」
「…………ありがとうございます。お父様」
リリアナはムースに微笑んで、俺の側に立った。
「私の使命はリリアナ様を護る事です。リリアナ様の側におります」
メルサナが、ムースに一礼してリリアナの隣に立つ。
残るは、ムースとタリフの二人だけだ。
「私は、全てをムース様に預けておりますれば。…………もし、ムース様がユーイチ殿を討てと命令されるのならば、この命捨てて、相討ちに持ち込んで見せましょう! 」
…………なんつー事を言うんだアイツは。
「…………やめよタリフ。…………解っているのだ、戦うしか無い事は。陛下もカルロ様もいない今、もはやベッチーノを止める者などおるまい。私は、ベッチーノに負けた。よもや、実の父と兄を手にかけるなど、…………思ってもいなかった」
疲れきった様子で絞り出すように言って、ムースは俺の眼を見た。
「ハルハナ王国に負けないと、ユーイチ殿は言ったな。…………そんな事が本当に出来るものなのか? 」
「…………少なくとも、時間稼ぎは今の段階でも出来る。確かなのは、先手を相手に取られ、詰みの一歩前までもってかれた以上、後の先を取れなければ、そのまま詰んで終わりって事だけだ」
「…………私達は、ここから逃げられん」
「…………そうだな。だが、俺も逃げてない」
しばらくの間、俺達はお互いの眼を見続けて、ムースは諦めたように視線を下ろした。
「……………………全て、お任せする」
この瞬間、ルイツバルト領はハルハナ王国から離れる決断をした。
「…………ところで、セバスはこれで良かったのか? 」
「私は、雄一様の執事ですので」
「…………セバス? 」
「…………あの場に最初から居れば、私が斬っておりました」
「そうか。…………それでも良かったかな」
「はい」
◇
取り敢えず、やるべき事は手早く済ませよう。俺はまず、カルミアの全ての門を閉じるようにムースに頼んだ。必ずいるスパイを足止めする為だ。
同時に、ヒリムスの指揮の下、信頼のおける兵士達がスパイの炙り出しに動き出した。
まぁ、ここまでやっても出ては行くと思うのだが、少しでも足止め出来ればそれでいい。カルミアから王都につながる唯一の渓谷にはモンスターも配置した。
これで、例えモンスターを倒して渓谷を抜けたとしても、俺にはバレる。
そして、すぐさまヨーダルの処刑も行われた。本当ならば、ケンプ王国の街に出した書簡の返事を待つ所だが、時間がおしい。サクッと終わらせる事にした。生かしておく理由など無いからな。
「セバス、必要と思われる物を全部『ストレージ』に入れてしまえ。準備が出来たなら、出発する」
俺とセバスニャン、リリアナとアインの四名は、王都まで行かなければならない。ベッチーノからの書簡にそういう命令があったからだ。
ベッチーノはムースを潰そうとはしているが、どうもリリアナは欲しいらしい。どういう繋がりがあってリリアナが欲しいのかは知らないが、どうもムースに領地を返すのを条件にリリアナを手に入れようとしているのでは、と、俺は見ている。
交渉でリリアナを手に入れようとしているなら、少なくとも今は攻めて来ないだろう。しかし、俺がポッペンを殺した事がバレたら、すぐに軍を動かす筈だ。
俺達には引けない理由があるが、向こうからしたら反逆者だ。今は向こうの策略に乗っかって、軍を出させないようにするのが一番いい。
「ユーイチ! 俺も王都に行くぞ! ベッチーノを斬るのなら、俺が斬りたい!! 」
ヒリムスが完全武装で現れた。気合いが入り過ぎて空回りしているな。余程、腹に据えかねているのだろう。
「駄目だ。お前とムース殿の二人はここから動かせない。お前が簡単に王都に来たら、ポッペンがカルミアを取れていない事がバレるだろうが。それに、いざという時の指揮は誰が取るんだ! 」
「だが、お前達の護衛だって必要だろう! 」
「必要最小限だ、一小隊いればいい。隊長はメルサナだ」
本当なら、その一小隊も居ない方がいい位なのだが、一週間の旅になる。リリアナの世話をする者が必要なのだ。貴族の移動だから、どうしたって馬車もいる。
「俺の目的は、ベッチーノを軽く叩いて、王都を引っ掻き回して帰って来る事だ。心配しなくても、全員無事に帰って来る」
「…………お前の目的が良くわからん」
「要するに、戦争は割りに合わないと王都の貴族に思わせるのさ。戦っても、損がデカイってな」
「ベッチーノがそれで止まるか? 」
「数によるさ。王都貴族の大半に反対されれば、止まらざるをえない。王様は一人じゃ出来ないもんだ」
「むぅ」
「ああそうだ。一緒に行く小隊のメンバーなんだがな…………」
難しい顔で唸るヒリムスに、俺は小隊のメンバーについての頼み事をした。
「…………本気か? 」
「ああ。アイツら次第でもあるが、大丈夫だろ」
「うーむ。大丈夫なのかソレは…………」
「多分な」
◇
「……………………そ、そんな事になってるなんて」
ルイツバルト家の一室で、集められた少年達は絶句していた。
「そ、それで、ユーイチさん達が王都に行く事になって、僕達が、…………護衛? 」
しきりに首を傾げる少年達。彼らは先の戦争で捕虜になった所を、雄一とセバスニャンに救われた少年達であり、全員が、王都に住む貴族家の者達だ。
本来であれば、戦争が終わって半月以上が過ぎている今、彼らはとっくに王都の家に帰っている筈だったのだが、今回の戦争に王家の、特にベッチーノの思惑が絡んでいると考えた彼らの親に、その場に留まって情報を集めるようにと、残されていた。
その実家の判断には、彼らが長男ではないというのも関係している訳だ。
そして、ベッチーノが王位についた事で、お役御免と、家に帰って来るよう手紙を受け取った者もチラホラいる。
そんな中での、今日の話である。
「俺としては、君達の中にはユーイチがポッペンを斬った事を、家に報告するものがいるのではと疑っている」
少年達を睨みながら、ヒリムスが語る。その言葉に、少年達はムッとした顔を見せた。
「しかし、ユーイチには笑い飛ばされた。お前達は大丈夫だと。いずれユーイチの従者になる者達だ、とな」
その言葉に、今度は少年達の口の端が僅かに上がった。
「…………やれるか? 」
「「はい!! 」」
こうして、少年達の帰省が決まった。




