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043 カルミア会議

  半透明な中に、霧の様な白が揺らめく。そして、その中心にいる白キツネ。


  ミストフォックスの結晶は、物凄い美しさだった。あまりの美しさに興奮する俺。そして同じく興奮しているヒリムスが、俺の手の中にある結晶を見ようと顔を寄せてくる。


「ああ。満足! 満足だ!! 」

「くそっ! いいなぁ! 俺も欲しい。もう一体狩りに行こう! 」

「…………駄目ですよ」


  一つの結晶を取り合う様に眺める俺達を、メルサナが冷静な声で(たしな)めた。


「賊も連れて帰らねばならないんですから、もう帰らないと」

「そんな!? 」


  ヒリムスはショックを受けているが、確かにメルサナの言う通りだ。アイツらは歩かせるから、どう考えても足は遅くなる。まさかその為に殺す訳にもいかないからな。


  と、ヒリムスを見ると、腰に下げた短剣に手を置いていた。そんな訳に、…………いかないよな?


「今回はしょうがない。本当なら俺ももう一つくらい欲しいが、また狩りに来ようぜ、ヒリムス」

「むぅ…………。はぁ、そうだな。よし、戻ろう」


  セバスニャンと合流して、まずは俺の持っていた荷物を『ストレージ』に回収してもらい、帰路についた。帰り道の間、俺が出したスライムはメルサナが膝に乗せて可愛がっていた。今まで、アインが羨ましかったのかもしれない。


  街の門番に賊を引き渡し、ギルドで依頼完遂の報告をして屋敷に帰る。その頃には、空は薄暗くなっていた。


  夕食の際に、ヒリムスが今日の話や俺のスキルについて嬉しそうに話していた。それをムースは微笑ましそうに聞き、リリアナは少し拗ねたように聞いていた。


「フム。ユーイチ殿のスキルは素晴らしいな。私も何人かはスキル持ちを知っているが、ユーイチ殿やセバスニャン殿のものは群を抜いている」

「はい。特にあの結晶というのは、譲渡すれば誰でも使えて、許可が無ければ誰も使えない。というのには俺も驚きました」

「ウム。それなのだが、ユーイチ殿。その結晶の回収を手伝う代わりに、兵士達の標準装備として、少し譲ってくれないか? 」

「…………なるほど」


  流石は領主だな。その発想は無かった。譲渡する時に一人々々に渡す必要はあるだろうが、行き渡れば強力な装備だ。それがどのモンスターの結晶かによっての使い分けも出来るな。


  ……………………面白い。


「かなりの数の結晶が必要になるから、大々的にモンスター狩りをする必要があるな」

「もちろん、それは責任持ってやらせてもらう。ユーイチ殿の欲しい結晶も集めさせよう」


  万が一、敵の手に結晶が渡っても使えないし、使えたとしても俺の命令権の方が上だ。…………問題無いな。


  俺にとっても有意義な話が纏まり、この日は解散となった。


  ただ、余程に蚊帳の外が嫌だったのか、夜遅くまで、リリアナのお茶会に付き合わされてしまった。まあ、リリアナの機嫌が良くなったから、いいのだが。


 ◇


  翌日。


  大きなテーブルを囲む様に、俺達は向き合っていた。向こう側に、ルイツバルト家の三人とタリフ、それにメルサナの五人。こちら側には俺とセバスニャン、それとアインの三人だ。


  昨夜、夕食を共にした面々が集まっているのだが、昨夜とは違い、皆、深刻な表情だ。まぁ、この領地が戦争で受けた被害に関する会議だからな。当然なのだが。


  俺とセバスニャンも会議に呼ばれた。それについて不満は無い。俺達もこの街に住むからな。貴族になる訳じゃないが、出来る事はしてやりたい。


「戦争の後に、タリフが調べた事の報告を受けたが、一言で言うなら酷い。これに尽きる。敵の目的の一つが略奪だった事もあり、被害が甚大だ」


  ムースが悲痛な声で切り出した。


  ルイツバルト辺境伯爵領は、ここカルミアの街から城塞都市フェルドまでを含む、結構大きな領地だ。アインのハックナー家は、フェルドを領地としていたが、それはルイツバルト家が上に立つ、雇われ領主だったらしい。


  そして、そのフェルドを含む領内の街や村が、今回の戦争で壊滅的な被害を受けた。カルミアとフェルドの間、その直線上にある町や村は全滅。井戸に死体が入っている場所もあり、立て直す事が事実上不可能な所ばかりだという。


  もちろん、生き残っている場所もあるが、それらの集落は盗賊の被害が酷いらしい。先の戦争で逃げた敵兵や、その中にいたはぐれ者が原因だ。


「まず、今ある集落を守らねばならない。その後は新しい町の建設。どちらにもかなりの時間を有する」


  今いる領民を真っ先に護るのは当然だし、町な村を新しく作れば、生き残っている者も集まるし、それによって税収も増える。今はガタガタだろうからな。まずは地固めって話だな。


「すまないアイン。フェルドが後回しになってしまう」

「いえ、わかっていますから、大丈夫です」


  頭をさげるムースに、気丈に振る舞うアイン。だが、アイン体は小刻みに震えており、スラリンが心配そうに体を寄せている。


  何とかしてはやりたいが、ゾンビか。…………ゾンビの対処方なんてわからないな。フィクションの知識なら頭を潰すんだがな。


  それに一番の問題は、街一つ丸ごとゾンビになった原因だ。ソレを取り除かなければ、同じ事がまた起きる可能性が高い。


  不幸中の幸いと言うか、フェルドのゾンビは街から出る様子が無いらしい。時間だけはまだある訳だ。生まれ故郷がゾンビに汚染されたままになるアインからしたら、堪らないだろうが。


「よって、我らが真っ先にする事は残党の討伐だ。範囲が広いが、各集落に二小隊派遣する事にしようと思う。カルミアの戦力が減る事になるが、その埋め合わせを、ユーイチ殿にお願いしたい」


  ムースがそう言って俺に水を向けてきた。第二王子ベッチーノが色々動いている現状を考えると、カルミアの戦力を減らすのは悪手だ。だが、領民を助けないなんて選択肢はあり得ない。


  そこで俺達なのだろう。俺なら、結晶さえあれば一瞬で大軍を用意する事が出来るし、セバスニャンがいれば不測の事態にも対処出来る。


  ベッチーノがリリアナを狙っているとしても、例えばリリアナにスライムの結晶を預け、有事の際に召喚させれば、その状況は同一個体であるスラリンに一瞬で伝わる。


  ハッキリ言って俺とセバスニャンの能力は反則だ。切れる切り札が多すぎる。ムースは、それを正確に理解していそうだ。


  …………いや、現状で俺が出来る事や出来ない事を、俺よりもハッキリと認識しているかも知れない。昨日、ヒリムスが狩りについて来たのが、ムースの発案という事もあり得る。責任ある領主である以上、打てる手は打ってくるだろう。


「わかった。俺とセバスニャンはしばらくは街から出ない事にしよう。その代わり、結晶集めをお願いしたいな」

「それは俺が引き受けよう! 父上、小隊を二つ預かります! 」

「うむ。ユーイチ殿、助けられてばかりだが、よろしく頼む」


  ルイツバルト領はこれからしばらく荒れるだろう。復興には大金もかかる。戦争の時にヨーダルが略奪して溜め込んだ金や宝石も回収はしてあるがとても足りないと言うしな。


  そして、そのヨーダルの処刑も決まった。ヨーダルはまだ見苦しく命乞いをしているらしい。自分はケンプ王国の優秀な王子であり、殺すには惜しい存在だ。などと自分で言っているらしい。


  そのヨーダルの処刑は、三日後に決まった。ケンプ王国に残る街などに一応話を通すらしい。…………略奪者にまで落ちた王子に、関わりたい奴など居ないだろうが。

冷しラーメンが美味しい季節になりましたがいかがお過ごしでしょうか。


私の方はコロナの影響も弱まり、とうとう仕事が動き始めてしまいました。


休み明け初日から真夏日とか殺す気かと思いながら働いております。


仕事は始まりましたが、何とか毎日の更新を続けていけたらなぁ。と思っています。応援してくれる方がいましたら、是非とも評価をお願いします。


評価があれば頑張れる気がするのです。


あーー、あっっつい。

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