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041 ヒリムス=ルイツバルト

  冒険者ランクが、Cに上がった。


  これは、カルミアの領主であるムースのお陰だ。なにせ、冒険者ランクをCに上げる条件が酷かったのだ。


「Cランクへの上げ方は、それが出来そうだとこっちで判断したら教えてやるよ」


  と、ガーナが言っていたので、しばらくは上がらないな。と諦めていたのだが、ムースのお陰でアッサリだった。その条件とは。


  メインで所属しているギルドのある、街の領主の推薦。及び、ギルドに対する多額の寄付。だったのだ。…………金かよ。


  どうやら、ランクが上位になると、依頼主が貴族や領主どころか王家などという事もあるから、後ろ楯をつけとこう! という意味があるらしい。推薦も金も、貴族のコネを作る為の手段という訳だ。


  まあとにかく、ランクが上がった事は喜ばしい。これで、ミストフォックスの依頼が受けられる。という訳で、俺達はミストフォックスの依頼を受けたのだった。


「いやぁ、楽しみだなミストフォックス。憧れの冒険者家業だ! 腕がなるな! 」


  と、人一倍はしゃいでいる男がいた。いつも着ている貴族服ではなく、兵士の鎧を着て、長い金髪を首の後ろから鎧の中に隠している。そして、その手には城塞将軍ヘルバンが愛用した魔槍〔グラスバイダー〕が握られている。


  そう。俺の目の前にいるはしゃいだ男は次の世代の辺境伯、ヒリムス=ルイツバルトである。見た目はイケメン貴族なのだが、素のコイツは、少々残念な感じがする。


「おい。本当に着いて来る気か、ヒリムス? 」

「もちろんだ、我が友よ! 聞けばミストフォックスとは危険度の高いモンスターと言うではないか。戦力は多い方がいいに決まっている! 」


  どうやらヒリムスは、子供の頃から冒険者というものに憧れを持っていたらしく。俺が冒険者をやっていて、更に貴族家の当主でもあるアインが従者としてついて来ていると知るや、俺も行く! と、押し掛けて来た。


  その余りのはしゃぎっぷりには、護衛として来たメルサナもため息をついている。


「えーと。ヒリムス様は、槍の扱いでは騎士達の上をいっていますし、魔槍がどういったモノなのかもセバスニャン殿のおかげで判明しましたので、危険はないかと思います」


  メルサナが既に疲れた様子でそんな事を言った。


  魔槍〔グラスバイダー〕。ヘルバンが愛用していたスピアで、俺はこれが魔槍だとは知らなかった。ちなみに、名前とその効果が判明したのは、セバスニャンのモノクルに入っている『鑑定』スキルのおかげである。


  かの槍は、鹿型モンスターのグラスディアと似たような効果を持っているらしく、魔槍に魔力を込めて敵を攻撃すると、周囲の草が絡みつき、動きを阻害する。という効果があるらしい。


  それを聞いて、俺はヘルバンとの戦いを思い出した。あの時ヘルバンは、スライムの『擬態』スキルで姿を消していた俺に、魔槍を投げつけた。そして、それを弾いた俺目掛けて斬りかかって来たのだ。


  今になってヘルバンの狙いが分かった。本来であれば、魔槍を弾いた俺は、草に絡みつかれて身動きが取れない状態になる筈だったのだ。俺が無事だったのは、トンファーで弾いたおかげなのか、それとも俺の着ているスーツや靴が刻印装備だからなのか。


  何にしても、俺は刻印装備に大きく守られているようだ。


 ◇


  ミストフォックスの生息地は、カルミアの北に位置するエッペル湖の更に北側だった。俺達は湖を迂回する為に2頭立ての幌馬車に揺られる。


  いや、揺すぶられる? もっと激しい表現はないだろうか? そんな風に思う程に、馬車は最悪だった。…………サスペンションだ、サスペンションが欲しい! 車くらいの乗り心地の良さが欲しい!


「ぐぅ。…………後で本棚を見ておきましょう。車の作り方が載っている本があるかもしれません」


  セバスニャンも相当キテるな。でも俺達はまだマシな方じゃないか? 『健康EX』のおかげで、乗り物酔いは無いからな。


  そう思ってアインとメルサナを見てみると、以外に二人とも平気そうだった。御者をやってる(自ら進んでやりだした)ヒリムスも鼻唄混じりで余裕そうだ。


「大丈夫ですか? ユーイチさん。あまり、馬車に慣れて無い様ですけど」

「…………俺の国に馬車は無かったからな」

「私は、乗る機会がありませんでした…………」

「アイン達は、平気そうだな」

「ええ。よく乗りますから」


  なるほど、慣れの問題か。しかし、もっと改良出来るだろう。セバスニャンと相談しておこう。


「おっと、また出たな! それっ!! 」

「ブギィーー!? 」


  モンスターが出る度に、ヒリムスが嬉々として片付けていく。モンスターに魔槍を投擲し、一撃の元に仕留めるのだ。


  馬車から覗いて見ると、牙が鋭く、トサカのような頭をした猪。『クラウンボア』が道の先の方で槍に突かれて倒れていた。


「セバスニャン殿、また頼む」

「かしこまりました」


  ある程度近づいた所で、セバスニャンが丸ごと『ストレージ』に回収して、魔槍をヒリムスに、結晶を俺に渡して来る。


  ギルドの討伐依頼には無かったが、クラウンボアは食用として狩られるモンスターらしい。俺がルイツバルトの屋敷で良く食べていた肉は、コイツだったようだ。


「ま、俺としては新しい結晶さえ手に入れば満足だけどな」


  茶色のクラウンボアの結晶。これは既に四個目だ。この辺りが、クラウンボアの生息地らしい。


「しかし、何度見ても不思議なモノだな。スキルでそんな結晶が出てくるとは」


  御者をやりながら、ヒリムスが話かけて来た。


「ユーイチがもっているスキルは、かなり珍しいモノだな。モンスターを操るとは聞いていたが、お前のはそんな言葉で済ませちゃいけないヤツだろ」

「他の魔物を操るスキルってのはどんなのだ? 」

「そうだな。俺が聞いた事があるのは、おとなしいモンスターに荷運びさせるとか、せいぜい一時的に戦わせるとか、そんなものばかりだな。…………昨日、アインの頭にスラリンが乗っているのを見た時は、ギョッとしたぞ」


  うーん。荷物を運ばせるのは単なる調教でも出来そうだな。一時的に戦わせるのは催眠術に近い感じかな?


「それに、アインにスラリンの結晶を見せて貰ったが、とても美しいな。あの美しさに実用性まであるとは。俺も欲しいぞ、そのスキル! 」


  俺は、無言で御者台に移動して、ヒリムスの隣に座った。


「…………わかるか、この結晶の美しさが」

「もちろんだ! 良ければ幾つか分けてくれないか? 出来れば全ての色が一つずつ欲しいのだが…………」

「いいとも! 同士よ! 」

「本当か!? 」

「『ブック』」


  早速バインダーを出して結晶を取り出す俺を、ヒリムスは羨ましそうに見ていたが、急にハッとした顔をして俺の動きを止めた。


「待て兄弟! 」

「ん! どうした兄弟!? 」

「…………一緒に狩りに行き、俺が自分で仕留めたモンスターの結晶を貰うのは、可能だろうか? 」


  …………コイツ! 本当に解っている!


「もちろんだ兄弟。性能的には、一度バインダーに入れた方がいいが、まあ、それも保存用と実務用で別ければいいだけの事だ。いつでも付き合ってやろう! 」

「兄弟! 」


  俺達は、ガシッと手を握り合わせた。


「…………なんだか、ずいぶん仲良くなりましたね」

「年が近いですからなぁ。通じるモノがあったのでしょう」

「若様が、少しおかしくなってる…………」


  後ろにいる三人の呟きが気にはなったが、この世界に来て出来た親友との絆は、そんなものに負けないのだ。

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