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02 餞別はチート能力

「ふむ。では神様、私は先程頂いた能力の練習をしておきたいのですが、離れていてもよろしいでしょうか? 」

「あ、うん。あまり遠くは駄目だよ、セバスニャン」

「心得ております」


  セバスニャンは恭しく一礼をして離れていく。その後ろ姿を見ていると、神様が手を鳴らして注意を自分に向けさせた。


「ハイハイ! 時間は有限だよ。集中して! 」

「す、すいません! 」

「いいかい? 君達がここに居られる時間には限りがあるうえに、君はその時間のほとんどをベッドの上で過ごしてしまっているんだ。セバスニャンへの能力の譲渡はもう終わっているから、後は君だけなんだよ! 」

「はい! 頑張ります! 」

「よろしい! ではまず君の所持品を全て出してくれ」

「わかりました」


  神様の指示に従い、俺は持っている物を全て床に並べた。その内容は、財布、スマホ、家の鍵、ハンカチ、三節棍、メリケンサックX2、投げナイフX6、サバイバルナイフ、トンファー1セット、鉄板仕込みのブーツが一足、靴の踵の隠しナイフX2、色々仕込めるトレンチコートである。


「………………え? どういう事? 」


  俺が並べた所持品を見て、神様がキョトンとした顔で俺を見た。


「護身用に色々持っているんです」

「…………え、違うよね? 殺し屋レベルだよね? 何でコートの袖から投げナイフ出てくるの? 何で靴の踵から小さいナイフが出てくるの? 背中の三節棍は治療した時に気づいたけど、よく考えたらそれもおかしいよね? 」

「俺はよくトラブルに巻き込まれるもので…………」

「ええーーー。納得いかない」


  神様はしゃがみこんでしばらく俺の武器を弄っていたが、やがて諦めたようにため息をついた。


「まあ、君が悪い人間でない事はわかるし、時間もないからね。取り敢えずこの所持品全てに僕の刻印をあげる」

「刻印……ですか? 」

「そう、どういう風に変わるかは道具次第だけど、決して悪くはならないよ。でも財布はいらないね、向こうでは使い道ないから、使えるお金と変えてあげる」

「それは助かります」

「うん。お金の価値とか向こうの常識の類いは、ある程度だけどセバスニャンに教えてあるから、後で聞いて」

「はい」


  俺が返事をすると、神様は床に広げた俺の所持品に向けて両手を広げた。すると、神様の体が金色に輝きだし、曲線と直線が複雑に絡みあった大きな魔方陣のようなものが現れた。


  そして、神様が手を打ち鳴らすと、光の魔方陣が弾け、俺の所持品一つ一つに降り注いだ。その光の一つは俺が今着ているスーツにもあたり、一瞬スーツが目映い光に包まれたため、俺は思わず目を閉じた。


「これで良しっと」


  光が収まり手を下げた神様の言葉に、一番近くにあったトンファーを手に取って見ると、少し形が変わっていた。刻印と言うのはこの持ち手の付け根に刻まれているやつだろう。魔方陣と同じ形をしている。それと、なにやら小さな緑色の宝石が埋め込まれていた。


「じゃあ、次にスキルをあげよう」


  異世界モノによく出てくるスキルが俺のモノになるらしい。神様によると、スキルは一般レベル、レア、ユニークの三種類が主であり、俺にはユニークスキルを二つ授けてくれるそうだ。


「君には『健康EX』と『コレクション』の二つを授けよう」

「…………健康とコレクションですか? 」


  よくわからないが、ショボい気がする。


  俺がガッカリしているのが分かったのだろう。神様がスキルの説明をしてくれた。


「バカにしたものじゃないよ。まず『健康EX』これはいわゆる状態異常を無効果するスキルだ。しかも、毒やら麻痺だけじゃない。即死魔法も効かなくなるし病気にもならない。さらには各種魔法に対する抵抗力もそれなりにあるんだ! 」

「思ったより凄いですね! 」

「そう、使い道は色々ある。怖がらずにチャレンジしてみると良い。次に『コレクション』これはね、なんと、倒した魔物をアイテム化してコレクション出来て、一アイテムにつき一度、使い魔として使役できる! 効果時間の長さは君の魔力次第だから、修行に励むと良い!」


  おお、魔物がいるのか。しかも、その魔物をコレクションして使い魔にできるなら、便利そうだ。空を飛ぶ魔物なら、一緒に飛べるかもしれない。


  夢が膨らむな。ドラゴンとかもいるんだろうか? …………いや、でも倒せるのかドラゴンって? 人間の力の100倍程度じゃ無理な気がするな。


「他にも……おっと、もう時間切れのようだね。じゃあ最後に、…………僕も世界も、全てはイメージが生み出したんだ。想像力は、君達が思っているよりも遥かに強力なエネルギーなんだよ」

「想像力、ですか」

「色んな事を想像し、イメージしなさい。それはこれからの君達に、欠かせない力になるから」

「色々、ありがとうございました。まだ混乱してはいますが、精一杯頑張ります」

「うん」


  その時、神様の後にある俺が寝ていたベッドが唐突に消えた。何が起きたのかと考えていると、俺の肩がポンッと叩かれ、いつの間に側に来たのか、セバスニャンが立っていた。


「そろそろお時間のようです。星野様、所持品を身につけた方がよろしいかと」

「あ、そうか! 」


  あわてて床に並べた物を身につける俺の耳に、セバスニャンと神様の会話が聞こえてきた。


「この度は、私の願いを叶えて頂き、その上で様々なものを与えて下された事、とても感謝しております。与えられた命の限り、精一杯生きる事を約束いたします」

「ははっ、セバスニャンは本当に猫らしくないね。まるで、本物の執事みたいだよ」

「それは、最高の褒め言葉ですな。まさしくそれが、私の望んだ生き方ですので」


  ようやく全てを身につけて、柔らかく微笑むセバスニャンの隣に並ぶ。そして、神様にもう一度頭を下げた。


「神様、お名前を伺ってもよろしいでしょうか? 」

「名前? 僕自身には無いんだけど。…………うーんそうだね、これから君達がいく所では、『アルムレット』って呼ばれていたね。そういう宗教があったはずだよ」

「アルムレット……様ですか」

「宗教はあるけど、僕は無関係だから。入信とかしなくていいからね? 自由に楽しく生きなさい」


  その言葉を最後に、俺達は光に包まれた。





  強烈な光に目を閉じて腕で顔を庇っていると、ふいに匂いを感じた。次には風、そして、木々の枝葉が擦れ合う音が聞こえてきた。


  目を開けると、そこには神様の姿も、どこまでも白い世界もなく、森が広がっていた。


「ここは、森……だよな。地球じゃないのか? 」


  周囲のどこを見渡しても、森の中だった。この景色は、地球と全く変わらない。空は青空。地球と同じなら昼間なのだろう。


「ふむ。街中にいきなり現れる訳にはいかないので、少し離れた所に。とは聞いておりましたが、こんな森の中とは、いささか困りますな」


  全く困ってないような調子で呟くと、セバスニャンは少し開けた場所に、どこからともなく取り出した豪華な絨毯を敷いた。その上にオシャレなカフェにでもありそうな丸テーブルと椅子を二つ置き、更にテーブルの上にティーポットとティーカップ、クッキーの入った深皿まで取り出した。


「まず一息つきましょう。どうぞ、カモミールティーです」

「あ、ああ。ありがとう」


  一瞬、靴は脱ぐべきかと迷ったが、セバスニャンがそのまま乗っているので、靴のまま絨毯にあがった。なにやら違和感を感じたが、取り敢えず椅子に座ってお茶を飲んだ。


「…………うまい」


  なんというか、落ち着く。俺はどちらかと言えばコーヒー……いや、缶コーヒー派だが、ハーブティーがこんなに良いものだとは知らなかった。クッキーも凄くうまい。きっと高級な物なのだろう。


「ようございました。私も、失礼します」


  そう言って、セバスニャンも向かい側の椅子に座り、ハーブティーを楽しんでいる。…………このお茶、けっこう熱いのだがセバスニャンは普通に飲んでいる。その顔は完全に猫なのだが平気なのだろうか? 人間のように普通に飲んでるし。


「どうかなさいましたか? 」


  あまりにじっと見ていたため、セバスニャンと目が合ってしまった。


「あ、いや。猫舌…………ではないのかなと、すまない」

「ふふっ……。成る程、謝ることはありませんとも。前の体では確かに、熱いものは苦手でしたな。しかし、この体は大丈夫ですな。それに、コレも」

「ん? クッキーか」

「ええ、前の体では無かった味わいですな。『甘い』というのでしたか。……気にいりました」


  そういえば、猫は甘さがわからないと聞いた事があるな。成る程、セバスニャンの体は人間に近いらしい。


  そんな事を考えながら足を組み直した時、抱えていた違和感がハッキリとした。絨毯の上を、何度か足先で叩いてみる。


  …………平らだ。森の中なのに、まるで床の上に敷いてあるかのようだ。


「おかわりをどうぞ。今度はダージリンです」


  セバスニャンが俺の使っていたカップをどこかに消し去り、新しいカップを取り出してお茶を注いだ。


  ティーポットは同じ物を使っているのに、お茶の香りが違う?

 そういえば、既に何枚かのクッキーを食べているはずなのに、クッキーの数が減っていない!?


「セバスニャン! 何でお茶の香りが違うんだ? それはさっきのと同じティーポットだろう? 」

「ええ、同じ物です。注ぐ時のイメージで変わるのですよ。ハーブの種類も、温度なんかも。流石は、神様の持ち物といったところですな」

「………………え? 」




  ―――― 神界。


「行っちゃったか。楽しかったんだけどな」


  ――――二人がいなくなった神界では、人の形をした光がため息をついていた。神様の姿はそれを見る者によって変わるため、見る者がいなければ、その姿はただの光の塊でしかないのだ。


  久しぶりの客が彼らで良かった。まぁ、星野雄一君に関してはたまたまだけど。


  寂しい気持ちを振り払う。彼らは行ってしまったが、仕方がないのだ、人間は地上で生きるべきなのだ。それに、僕にだって収穫はある。


  この神界にある物は、主に地上で多くの話題となった物だ。人間の世界で流行れば流行る程、ハッキリとした形で現れる。


  今、一番多いのは漫画だ。これは僕としても嬉しい。ただ、人気が落ちて話題にならなくなると続きが現れなくなるのが玉に傷だけど。


  そして、この神界に人を呼んだ場合、その人物のお気に入りが現れる事がある。セバスニャンは猫だったから、てっきり猫缶か何かかと思っていたら、なんとティーセットが出てきたのだ。


  セバスニャンは猫の身で飼い主と一緒に紅茶やハーブティーを飲んでいたらしい。嬉しい誤算だった。


  …………だったのだが、そのティーセットが見あたらない。ティーセットどころか、気がつけばテーブルも椅子も、セバスニャンの希望で出した本棚もない。


「………………」


  唖然とした。セバスニャンだ。彼に与えたユニークスキルは『ストレージ』。彼は、無限の倉庫を持っている。どんな大きな物でも収納でき、時間の経過すらない空間系スキルの究極。


  与えたスキルの練習に色んな物を出し入れしていたのは知っていたが、この場にあった物を全て仕舞って持って行ったらしい。…………いつの間にやらベッドも無くなっていた。


「あ、あのドロボウ猫ーーーー!! 」


  ――――何も無い空間に、神の叫びが響き渡った。


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