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034 100倍の力を使うには

  タリフから第二王子ベッチーノの陰謀と、城塞都市フェルドの現状を聞いて、俺は一晩考えた。


  やはり、このままでは駄目だ。スキルと刻印装備のお陰で戦えてはいる。いや、()()()()()いる。


  このままでは、技が錆びる。余計な慢心で油断が生まれる。実際、戦場で『城塞将軍』の二つ名を持つヘルバンと戦った時、俺は油断した。このままでは、近いうちに死ぬ。


  なら俺は、もっと強くならねばならない。具体的には、あの100倍の力だ。あれを自在に使える様にする!


  そう考えた俺はセバスニャンに後の事を頼み、ルイツバルトの屋敷の一番高い屋根の上で、座禅を組んでいた。


  この場所を選んだのは、邪魔が入らない事と、俺が師匠に座禅を組まされていたのが、大体が山の崖っぷちだった事が理由だ。


「スゥーーーー…………、フゥーーーー…………」


  呼吸を静かに、心を落ち着かせる。


  …………セバスニャンは100倍の力を使いこなしている。が、俺の体は、100倍の力が使えない。その理由も、解っている。


  簡単な話だ。セバスニャンの身体は、トーマス=イベントリーが造ったフィギュアが元になっていて、神様が今の形に創り変えたモノだ。言わば、セバスニャンそのものが、刻印装備だ。


  いや、神器と言い変えてもいい。


  だからセバスニャンは、100倍の力を自在に使いこなせる。と言うより、その出力は、おそらく100倍を越えている。


  それに対して俺は生身だ。元々、この世界に来るのはセバスニャン一人だった筈で、俺は、たまたま付いてきたオマケなのだ。


  イレギュラーな存在に、神様も扱いに困った事だろう。過分なスキルと刻印装備は、その埋め合わせなのだと俺は思う。


  だが、ともすれば身を滅ぼしかねない100倍の力を、このままにはしておけない。だから、考えた。100倍に耐えられる身体を造る方法を。


  まずは『気』これは、身に付いている技術だ。呼吸法、息吹、内功、硬気功。様々にあるが、俺の認識では『気』と言うのは、身体の中で練って使うモノで、外には出せない。出したとして、すぐに霧散して意味が無い。と、思っている。


  この『気』でもって身体強化して100倍に耐える。と、いうのも考えたが、不十分だ。いや、正確には()()()()()()()位の認識だ。


  なら、もう半分をどうするか。それが『魔力』だ。


  この世界には、魔法がある。そして、空気中に『魔素』がある。だが、『気』が無い訳ではない。どっちがより深く根づいているか、という話だ。


  俺が『気』を認識していたが、『魔力』を知らなかった様に、この世界の人達は『魔力』は認識していても『気』に馴染みが無い。それぞれの世界で、『濃い』と『薄い』がある訳だ。


  だからこそ、両方を認識した俺だからこそ、出来る筈だ。 内側を『気』で、外側を『魔力』で強化し、それらを混ぜ合わせて新しい概念を造る。


「スゥーーーー…………、フゥーーーー…………」


  体内では『気』を練り続け、イメージを持って『魔力』を纏う。


「…………………………………………くぅ」


  上手くいかない。『気』と『魔力』が反発し合う。


  だが、新しく始めるモノで簡単にいくモノが無い事など、最初から解っている。試行錯誤を繰り返す覚悟が無いなら、そもそも始めていない。


  時間が、かかる事など解りきっている事だ。


  『気』の濃さを調整し、『魔力』のイメージを探る。…………時間が過ぎて行く。ふと光を感じ、外に意識を向けてみれば、日の出だった。既に、丸一日が過ぎたらしい。


  セバスニャンには3日たつか、俺の呼吸音が聴こえなくなったら回収してくれと頼んである。それがタイムリミットだ。


  俺は再び瞑想に入る。今までの人生で身につけた知識と、経験と、感覚とを総動員して研ぎ澄ます。


『いいか雄一。『気』を極めようとするなら、一番大切な概念は『魂』だ』

『魂ですか。本当にあるって事ですか? 』

『ある。少なくとも俺は、そうでないと説明出来ないような経験を持っている』

『…………むう。師匠の事は信じていますが、知らない感覚を掴むのは難しいですね』

『そりゃそうだ。だが雄一、間違えるなよ。感覚は確かに大事だ。だが、知覚して始めて使いこなせる』

『え? 』

『ほら。考えるな、感じろ。ってセリフがあるだろ。ありゃ逆だ、考えて、感じるんだ』

『意味が分かりません』

『その内分かる。そうしないと、突破出来ない壁にブチ当たった時にな』


「………………………………………………! 」


  唐突に、師匠の言葉を思い出し。俺は『魂』を認識した。


  身体の中に、『核』が生まれた気がした。それを中心に、『気』と『魔力』が渦巻き、集束していく。『魂』という核を中心に纏うモノ、これは…………!


『魂があるなら、幽霊もいるんですか、俺は見たこと無いですけど』

『あれは正確には魂じゃ無いな。近いが違う』

『いる事は否定しないんですね』

『俺は殴った事がある』

『……………………幽霊を? 』

『あれは要するに魂の残滓(ざんし)だ。魂が天に昇って残った残りカスだな』

『…………言い方』

『つまり、同じモノは今を生きている俺達の中にもある。それを解っていれば殴れるさ。ようはイメージだな』

『俺の中にもあると』

『ああ。これは何と言うか、外から集めて混ぜ合わせたモノって感覚だな。言うなれば、魂を『魂魄(こんぱく)』とも言うだろ? で、魂が天に昇るなら、残るのは…………』


「…………『(はく)』だ! 」


  知覚、そして認識。俺は『魄』を掴んだ!


『称号を獲得しました。新たなスキルが生まれます』


  瞬間、俺の頭の中に響く声。そして、俺の目の前に、久しぶりに見るステータスウインドウが現れた。


「これは…………」


  ステータスウインドウには、『称号一覧』『スキル一覧』『魔法一覧』の三つが並んでおり、その内の『称号』と『スキル』の二つに、『!』マークが付いていた。


  唐突にゲームの様になった現実に戸惑いながらも、『称号一覧』を開いてみた。すると、今までも持っていた四つ、『収集家』『格闘家』『異界渡り』『医者いらず』に加えて、『魂に触れる者』というのが増えていた。


  続いて、今度は『スキル一覧』を開いてみる。今までのは四つ。『コレクション』『格闘術』『言語理解』『健康EX』そして、新たに増えたのが『仙術』だった。


  仙術? 仙人的な事か? …………コレ、仙人の使う技術だったのか。これはおそらく、師匠も知らないだろうな。


  ちなみに『仙術』の説明は、人間の限界を突破する技術。ありとあらゆる事の、限界を超える可能性。とあった。


  まぁ、とにかく試してみよう。


  思いの外ガチガチに固まっていた身体を、ゆっくり動かしながら解きほぐす。立ち上がってみると、空気が冷たい。まだ、朝が来て間もないようだ。


「さて、どうなるか」


  新しく手に入れた力、『魄』を身体に纏う。そして、ゆっくりと力の倍率を、上げていく。10倍までは問題無し、20倍もいける。だが、30倍までいくと、制御が甘くなる。


  だが、身体に痛みは無く、使いこなせるのが解る。イメージとしては、カイ○ウケンだな。しっくりくる。


  30倍までしか上げていないのに、何故か城塞将軍ヘルバンを斬った時ほどの出力を感じる。これが、使いこなすという事なのだろうか。


  100倍の力を本当に使いこなす迄には、かなりの時間がかかるだろうが、まずは満足だ。


  俺はそのまま足を踏み出す様に屋根から飛び降りた。普通なら自殺行為の高さだが、今の俺は、問題無く着地した。


「お疲れ様でした、雄一様。上手くいかれた様で何よりですな」

「ああ、セバス。上手く…………、あれ……? 」


  セバスニャンの顔を見て力を解いた途端に膝から力が抜け、俺は倒れてしまった。…………な、何でだ? もう、喋る事も出来ない。


「飲まず、食わず、眠らずで、三日ですからな。倒れもするでしょう。後は私に任せて、ゆっくり気絶して下さい」


  どうやら、気づかない内に三日経っていたらしい…………。と、そこまで考えて、俺は意識を手放した。

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