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032 バインダー進化

  戦いも終わり、スライム騒動も一段落した所で、俺達は丘の頂上からの景色を楽しみながらティータイムと洒落こんでいた。


  ゴブリンナイトやゴブリンジェネラルの結晶も全て集まり、後はバインダーに収納するだけである。


  え? なぜすぐに収納しないのかって? 緑色の結晶がテーブルの上に山になって置かれているこの状況を、もう少し眺めていたいからだ。


  この綺麗でワクワクする光景が、俺の物欲を満たしていく。小さめの革袋とか今度探してみようかな。それに色とりどりの結晶を詰めるのも、きっとワクワクするだろう。


  ちなみに、ゴブリン達の死体は、既にセバスニャンが『ストレージ』を使って下まで運び、今は俺が出したゴブリン達が解体作業と穴掘りに勤しんでいる。帰り際に燃やす予定だ。


「ユーイチさん。このスライムって、消えてしまったとしてもまた呼び出せば、同じスライムが出て来るんですよね? 」

「そうだな。どうやら同じ個体になるらしい。記憶も経験も引き継いでいるからな。複数出しても同じだな」


  厳密に同じと言ってしまって良いのかはともかく。少なくとも俺の認識では同じスライムだ。


「じゃあ、名前つけても良いですか? 」

「名前? 」


  うーん。アインはすっかりスライムがお気に入りの様だな。しかしスライムに名前か。……………………『スラリン』しか思いつかないな。完全にあのゲームの影響である。


「はい! 『スラリン』ってどうでしょうか? 」

「ぐぶっ! 」


  思わず飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。スライムの名前は万国共通、…………いや、異世界共通なのか?


「うん、まあ。いいんじゃないか? 」

「ありがとうございます! うん、じゃあ君の名前は、『スラリン』だよ。よろしくねスラリン」


  アインの言葉に、スライム、…………もといスラリンはピョンピョンと小さく跳ねている。…………喜んでいるのだろうか?


  そして、俺達のやり取りがツボに入ったのか、セバスニャンがソッポを向いて肩を震わせていた。これも珍しい光景である。


「…………『ブック』」


  俺は、アインの護衛も兼ねて、スライムの結晶をいくつか渡しておこうとバインダーを出した。そして、見た。


  ……………………スライム〔スラリン〕…………? …………バインダーのスライムの所に名前が記載されて要るんだが。


  ま、まあいいか。本人? が名前を受け入れたって事だろう。


  アインに名実ともに『スラリン』となったスライムの結晶を三つ程渡し、ついでにゴブリンナイトとゴブリンジェネラルの結晶をバインダーに納める。


  すると、ここでも変化があった。バインダーの中のモンスターの位置が動き、今まで左上から、ゴブリンファイター → ゴブリンアーチャー → ゴブリンジェネラルだったのが。


  ゴブリンアーチャー → ゴブリンファイター → ゴブリンナイト → ゴブリンジェネラルに変化したのだ。


  何だこれ? と思い良く見てみると、ゴブリンアーチャーとゴブリンファイターの間には何も無いのだが、ゴブリンファイターからゴブリンナイトの間、ゴブリンナイトからゴブリンジェネラルの間に、それぞれ一方通行の矢印が記載されていた。


  不思議に思いながら、ゴブリンファイターからゴブリンナイトに繋がる矢印を撫でてみると、何とゴブリンファイターの結晶の数が一つ減り、ゴブリンナイトの結晶の数が一つ増えた。


「…………は? 」

「雄一様、何かありましたか? 」

「どうしたんですか」

「ん、いや…………」


  二人にバインダーに起きた変化を教えると、アインは「気に入ってくれたんだ! 」と、嬉しそうにスラリンをかまい出した。もう夢中だな。


  一方でセバスニャンは、ゴブリンの方に興味を示してくれた。


「移動出来るのは、ゴブリンファイターからゴブリンナイトと、ゴブリンナイトからゴブリンジェネラルだけなのですか? ゴブリンアーチャーからゴブリンファイターやゴブリンナイトには行けないと? 」

「ああ、無理だ。今試したが、逆も無理だな。一方通行だ」

「同種族間の変化、…………いや、進化ですかな」

「うん。…………やっぱりそうなるよな」


  今、俺の手持ちにゴブリンジェネラルは一体しかいない。これが一番分かりやすいと思い、ゴブリンナイトを何体かゴブリンジェネラルに移動させ、ゴブリンジェネラルの結晶を二つ取り出した。


「良し、試すぞ。『サモン』」


  俺の呪文と共にゴブリンジェネラルが二体、召還された。大きさは3メートル級で、手には巨大棍棒を持っている。これが、オーソドックスなタイプなのだろう。


  先程戦ったタイプは、特殊なタイプだったのだろうか? それとも、あのバスタードソードは魔剣だった様だし、…………ハッ!!


「セバスニャン! バスタードソードを! 」

「…………成る程。かしこまりました」


  セバスニャンが立ち上がり、バスタードソードを『ストレージ』から取り出す。二メートル以上の長さのデカい剣だ。


  そしてそれを、ゴブリンジェネラルに装備させる。すると、もう一体の武器もバスタードソードに変わり、二体とも、身体がムクムクと大きくなり、5メートル級のゴブリンジェネラルとなった。…………ハハハ、ヤベェ。


「上手くいきましたな」

「ああ、これはヤバイ。しかも、ゴブリンファイターを狩りまくれば、コイツを量産出来る様になった訳だ。国が滅ぶな、コレは」

「……………………ナイショにしときましょう」

「…………だな。アインも頼むぞ」

「…………言えませんよ、こんなの」


  アインは、スラリンを抱いたまま、青い顔をして二体のゴブリンジェネラルを見上げていた。


  そういえば、バインダーの方はどうなっているんだろう。と、バインダーのゴブリンジェネラルを見てみると、装備の欄に、『魔剣〔ヘカトンケイル〕』と書いてあった。


「おい。あの魔剣、『ヘカトンケイル』って名前らしいぞ」

「ほう。名のある魔剣とは、これの持ち主だった者は将軍クラスだったのかも知れませんな。それにしても、『ヘカトンケイル』とは、大層な名前ですな」

「確かにな。…………コイツら見てて気付いたんだが、コレ、消えるまで街に帰れないヤツだな」

「この二体を連れて帰ったらナイショになんて出来ませんよ。大騒ぎです」


  仕方がないのでしばらくの間、森で狩りをする事にした。…………のだが、ゴブリンジェネラル達は狩りに向いて無かった。


  何せ、コイツらが歩くだけでモンスターが逃げて行くのだ。


  だが、仕方がないから、ゴブリンジェネラルが消えるまでゆっくりしようと、狩りを諦めてくつろいでいた時。散歩に出かけたアインとスラリンが鎌カエルを捕まえて来てくれた。


  スラリンが、触手でグルグル巻きにして捕まえた鎌カエルは、一見ちょっと大きい普通のカエルだが、アインによると、水辺や沼に棲み、水を刃のように変化させて飛ばす結構危険なモンスターらしい。


「ベテラン冒険者が、油断して指を切り落とされる事があるらしいです。でも、水が無い所では無害ですよ」

「成る程な。ありがとうな、アイン、スラリン」


  鎌カエルはスラリンが美味しくいただき。その後、ペッと結晶を吐き出した。


  何にせよ今日は収穫の多い、とても良い1日となったと、俺はホクホクしながら街に戻ったのだった。

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