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029 再びギルドへ

「ギルドで冒険者登録をして来たんですか? いいなー」


  朝。部屋に付いていた、かなり広いベランダで型稽古をしながら、昨日あった事をアインに話していると、冒険者登録をした事を羨ましがられた。


  ベランダに備え付けの椅子に座るアインの膝の上では、未だに消えていないスライムがプヨプヨしている。どんだけ魔力量に差があったら、ここまで違いが出るのだろう?


「アインは登録していないのか? 」

「ええ。僕は貴族ですから、余程の理由がない限り登録させて貰えないんです」


  そういえば、ガーナがそんな事を言っていたな。でも、そうか。家族はいなくなってしまったが、アインがいる限り、ハックナー家が失くなった訳じゃないのか。


「…………ん? アインの家は男爵家だったか? 」

「はい、そうですよ」

「って事は、今はアインが当主なのか? 」

「うーん。それは難しいですね」


  アインの説明によると、確かに当主だったアインの父が亡くなった今、現当主はアインという事になるが、それはあくまでもハックナー家としての事であり、男爵位までは継げないだろうとの事だ。


  貴族の爵位を決めるのは君主であり、貴族としての活動を支えるのは領地で取れる税金だ。しかし、ハックナー家は現状、領地を追われた身の上であり、フェルドの現状がどうなっているのかも分からない。故に、ハルハナ王国の国王が、爵位の継承を認める事は無いだろうと。


「なるほどな」

「今、リリアナ様が僕の住んでいたフェルドに、兵士を派遣して調べてくれていますので、その報告次第でもありますね」


  ヨーダル達は、確かに略奪と皆殺しを繰り返しながら進軍していたが、フェルドでは領主や兵士は殺したが、基本的には住人に手を出さなかったらしい。


  まぁ、おそらくその時点では、盗賊やら山賊やらを加えていない普通の軍隊だったのだろう。住人には手を出してないからと、許される訳ではないが。


  しかし、兵士達が軒並みいなくなり、弱い一般人しか残っていない街が、何時までも無事でいられるだろうか? その付近に残った山賊に襲われるかもしれない。そうで無くとも、モンスターに襲われたなら、対抗するのも難しいだろう。


「…………無事だといいな」

「………………はい」


  少し暗い顔で頷いたアインの頭を、くしゃくしゃと撫でて俺は朝の型稽古を終える事にした。


 ◇


  朝食を食べた後。今日はアインも伴って冒険者ギルドへと出向いた。アインは冒険者登録こそ出来ないが、俺達と一緒に依頼をこなす分には問題が無いからだ。


「うぅ…………。頭が…………」


  ギルドのカウンターでガーナが潰れていた。完全に二日酔いだな。ガーナにアインを紹介するのは、次の機会にしょう。


「アインは、ギルドに来た事はないのか? 」


  キョロキョロとギルドの中を見ているアインを見て、そんな事を聞いてみた。


「いえ、フェルドにあったギルドには父に代わって依頼を出しに行った事があります。でも、こことは違い過ぎていて」

「へぇ、フェルドのギルドはどんな感じなんだ? 」

「…………そうですね。フェルドは、隣国のケンプ王国に一番近い街でしたから、有事の際に連携が取りやすい様に、フェルド軍本部のすぐ近くにギルドがありました。こんな風に酒場とかじゃなくて、もっとお堅い感じでしたね」

「てっきり、どこのギルドも酒場と一体になってると思ってましたな。それでは、あまり人気は無かったのではないですかな? 」

「確かに、いつ行ってもガラガラでしたね。ここみたいに活気がある感じではなかったです」


  考えてみれば、ギルドが酒場と一体だったなら、アインの父親が行かせる訳もないか。酔っ払った冒険者の中に、一見美少女にも見えるアインを入れたら絡まれる可能性は高そうだしな。


  危険が無いと分かっていたから、お使いをさせていたのだろう。


  昨日よりも早い時間帯に来たからなのか、掲示板の前には人が集まっていた。見るからに冒険者という出で立ちのむさ苦しい男がほとんどだ。女性もいるが少数だな。


  皆、依頼書を手に取って()()()()()()()()()カウンターに並ぶ。時おりガーナの前に並ぼうとする者もいるが、その気配を察知したガーナの一睨みで、違うカウンターの列に並び直していた。


  ………………それでいいのか? ギルド職員。


「今日は、何の依頼を受けるんですか? 」


  ある程度、人が減ったので掲示板に近くと、アインが目をキラキラさせて聞いて来た。


「もちろん討伐依頼だ! まだ見ぬモンスターが、俺を待っている! 」

「…………ふむ。我々は現在Dランクですからな、Cランクの依頼まで受けられます。昨日雄一様が見ていた依頼の、いくつかが受けられますな」


  ざっと見た所だと、めぼしい物は岩ネズミ、火毒ヘビ、鎌カエルだろうか。昨日見たウォーターゴーレムとミストフォックスはBランク、兵隊アリ、ダーツフィッシュ、ロックシープはCランクだが、5人以上のパーティーを組んでいる事が依頼を受ける条件になっている。


  ふむ。となると、岩ネズミか鎌カエルだろうか? 火毒ヘビでもいいが、アインを連れてとなると毒というのが心配だ。アインは戦えるタイプじゃ無いからな。


「アイン殿は確か魔法が使えましたな。かなりの魔力量を持っていると見えますが、どの様な魔法が使えるのですかな? 」


  そう言うセバスニャンの目は、アインの頭の上のスライムに注がれていた。 確かにこのスライムは、アインの魔力量がとてつもない事を示している。


「えっと、初級魔法の全てと、中級魔法の一部です。契約をしていないのでまだ使えませんが、精霊魔法と召還魔法にも適性がありました」


  …………? 一般的なレベルを俺は知らないが。戦争中によく使われていた魔法が、初級魔法と中級魔法だとは聞いていた。


  俺達が敵の陣地に入った時に使われたのが初級魔法。魔法使いの小競り合いの時に射たれていたのが、中級魔法。例外として、大勢で大火球を作った連携魔法なんてのもあったな。


  そこから考えると、アインはかなり優秀な魔法使いという事になるのでは? …………ああ。そう言えばコイツ、学園を主席で卒業とかって話があったな。


「それは、かなり戦えると解釈しても? 」

「魔法であれば…………、ですね。剣の方はからっきしなので」


  あはは、と照れ笑いをするアインに、俺は少し申し訳ない気持ちになった。


「なぁ、アイン。もしかしてあの森で戦った時、魔法でいってれば楽勝だったのか? 」

「あ、いえ。あの時の僕は、多分魔法が使えませんでした。…………頭の中がぐちゃぐちゃだったので。魔法は、精神状態が不安定だと発動しませんから」

「あーー、そうか。…………魔法を使うって事は、杖とかが必要なのか? 」

「無いよりはあった方が、って程度ですね」

「そうなのか」


  そんな話をしている中、セバスニャンが依頼書を一枚持って来た。何の依頼かと見てみると、ゴブリン討伐の依頼だった。


「こちらにしませんか? 」

「おい、セバス。せっかく未だ見ぬモンスターがいっぱいなのに、ゴブリンは無いだろう。しかもこれ、Dランクの依頼じゃないか」

「雄一様、よくご覧下さい」

「んーー?」


  セバスニャンに促され依頼書を手に取る。


『Dランク討伐依頼。ゴブリンの砦の殲滅。ゴブリンの砦にて、複数のゴブリンナイトと、ゴブリンジェネラルが確認されました。速やかな討伐をお願いします』


「ゴブリンナイト? 知らないゴブリンだな」

「ええ。それにアイン殿の魔法を見せて貰うのにも、丁度良い相手ではないですかな? 」


  セバスニャンの言葉に頷いて返し、俺達はこの依頼を受ける事にした。

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