028 突然の重労働
冒険者ギルドを出た俺達は、街の外に出るべく大通りを歩いていた。
取り敢えずグラスディアとホーンラビットは、ギルドに無理を言ってそのまま引き取って貰い。これによって俺達はDランクに到達した。ピンバッチの色は黄色である。
グラスディアとホーンラビットの数が多すぎて、依頼をそれぞれ三周してしまった。更には本来Cランクのバンパイアトレントを、ギルド側が是非買い取りたいと言って来たので、それも丸ごと置いた事で、特例としての昇格だった。
本来、Dランクに上がる為には、依頼をこなすのはもちろん。ギルドに多くの貢献をして、ギルドから推薦を貰わなくてはいけないらしい。
それを、俺達というかセバスニャンは、バンパイアトレントという貴重な素材を丸ごと持ってくるという、他の冒険者では成し得ない事で、ギルドに多大な貢献をしたと見なされたらしい。
「バンパイアトレントって貴重だったのか? 」
「なんでも、様々な病気に対して効果のある万能薬が作れるらしいですな。推測ですが、数々の生き物、それこそ毒のあるモンスターからも吸血しているとなると、血清と言うか、解毒薬の様な物が作れるのではないかと」
「…………成る程、ありそうだな」
「それと、木材としても有用だそうです。魔道具技師が喜ぶ、と言っておりましたからな」
「セバスの『ストレージ』から丸ごと出てきた時の、ギルド職員の大歓声は凄かったもんな。俺達も、根っこがあんな完璧な形で残っているとは思って無かったしな。それにしても、魔道具技師か…………」
魔道具技師。なんだそのワクワクする職業は。ぜひお近づきになりたいものだ。ギルドでガーナが使っていたあの水晶玉のヤツも、魔道具なのだろう。あれは凄かった。
内門で門番をしている兵士達に、軽く挨拶しながら外に出る。ここから外門に行くまでは田園風景が広がっており、今日は至る所で街の人達が畑仕事をしていた。
「この世界の畑で栽培しているモノは、地球の物と同じですな。名前こそ違いますが、それは言語が違うだけの事ですから、同じものと考えて良いでしょう」
「ああ。農作業も、基本手作業なんだな。てっきり、もっと魔法を使っているものと思ってたけどな」
「使って無いという事は、何か問題があるのでしょうな。それが何かは分かりませんが」
そんな事を話ながら、外門を出て、俺達はカルミアの街の北にある湖の近くまでやって来た。
「だいぶ街から離れましたし、この辺で良いのではないですか」
「そうだな。『ブック』『サモン』」
俺はバインダーから結晶を五個出して、ゴブリンファイターを召還した。そして、セバスニャンがその中の一体にスコップを持たせる。
すると、ゴブリンファイター達の手から棍棒が消え、全員がスコップを装備した状態になった。
「良し。お前達、ここにデカイ穴を掘ってくれ。深さはお前達の背丈くらいで、お前達が全員両手を広げて立てるくらいのヤツだ」
「ギイィ!! 」
ゴブリン達は俺の命令に、一度スコップを掲げて答えると、命令通りに穴を掘り始めた。
そしてセバスニャンは、そこから少し離れた所に、ストレージの中にたまっていたゴブリンの死体を山にして出した。更に、少し離れた所にはスライムの山ができた。
「うおぉ。多いな、かなり」
「狩りまくりましたからなぁ。しかし、スライムの方を捌く必要が無いのは助かりますな。こちらもかなりの量ですので」
ちなみに、ただのスライムは素材にならないので、依頼に上る事も無いらしい。一応、体内に魔石もあるのだが、小さく脆い為に使えないとの事だった。
「まぁ、とにかく。…………始めるか」
俺はサバイバルナイフを、セバスニャンは街で買った市販のナイフを使って、ゴブリンの胸を開いていく。
この世界のモンスターの体内には、魔力の元とも言える『魔石』と言う物が入っている。
ゴブリンの場合はそれが肋骨の中心にあり、ギルドがゴブリンから買い取るの素材は、その魔石のみだという。
なので俺達は、ゴブリンを大量に狩った者の責任を果たすべく、ゴブリンの魔石回収と死体の処理をすべく、ここまでやって来たのだ。
ゴブリン達に穴を掘らせているのは、魔石を取り出した後の死体を、燃やして埋める為である。
…………穴を掘るゴブリン達の横でゴブリンを捌くのにという行為に、思う所が無い訳ではないが、穴を掘れそうなモンスターがゴブリンしか思いつかなかったのだ。
ちなみに、セバスニャンの『ストレージ』に土を回収する事で穴を掘る。というのは既に森の中で試してある。
セバスニャンの『ストレージ』は、生き物を回収する事は出来ない。その結果、穴の底に蠢く大量の虫という、一生の思い出が俺の心に刻まれたのだ。いや、虫自体は平気だよ? ただ、ウジャウジャしてるのが無理なだけだ。
無心で作業をしていき、半分程が終わった頃には、ゴブリン達の掘った穴も大きくなっていた。
「お前達、穴から出ろ」
更に穴を広げようとしていたゴブリン達を穴から出し、死体を中に放り込んでいく。そして、その上には更にスライムの死体を重ねていった。
「これでいいんだな? 」
「ええ、スライムは魔力の固まりであるため、集めて魔法で火を着けると、全て燃やし尽くすそうです。冒険者の、一般的な処理方法だと聞いております」
俺は、あらかじめファイヤーボールを封じておいた投げナイフを、穴の中に投げた。すると、セバスニャンが言った通りにスライムの死体が激しく燃え上がる。
「取り敢えず、これで良しっと。さ、続きを…………」
穴が燃え上がっている間に、残りを片付けようと振り返ると、ゴブリン達がセバスニャンが使っていた市販品のナイフを使って、ゴブリンを解体していた。
…………ゴブリン達の近くに、スコップが落ちてるな。ふーん、後から持たせた物は消えないのか…………。
と、つい現実逃避をしてしまう程に、アレな絵面だった。
「雄一様、お気を確かに」
「………………はっ! だ、大丈夫だ。それより、おい! お前達、大丈夫なのか? 何かソレ、大丈夫なのか!? 」
「ギイィーー!! 」
俺の呼び掛けに、ゴブリン達は頭の上でナイフを降って答えた。
「問題なさそうですな」
「…………ええーー」
ゴブリン達は俺の役に立てて嬉しそうなのだが、戦いはともかく、解体をさせることには少し罪悪感を覚えた。
ちなみに、ゴブリン達が俺のサバイバルナイフではなく、セバスニャンの市販品のナイフを使っていたのは、サバイバルナイフを装備しても、他のゴブリンの装備が変わらないからだった。
流石に刻印武器は、他の武器とは一味違うらしい。
◇
全ての解体作業が終わり、ゴブリンとスライムの死体が燃え尽きたのは、日が沈みかける頃だった。
時間切れで消えていくゴブリン達に「お疲れさん」と声をかけ、穴に残った骨をそのまま埋めて、街へと帰った。
「後はこの魔石を換金して、…………そのままギルドの酒場で飯にしようか」
「いいですな。では、私は屋敷に赴いてその事を伝えて参ります」
「頼む。じゃあ、ギルドで落ち合おう」
その夜のギルドの酒場はとても盛り上がった。英雄と飲めるのは珍しいと、多くの酒飲みが集まったからだ。
『健康EX』で酔い潰れる事の無い俺達は参加しなかったが、その日、酒場で始まった呑み比べ対決を制したのはガーナの姉御だった。
最後の一杯を飲み干して豪快に笑うガーナは、実に男前だった。




