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01 始まりの白い部屋

  目が覚めると、俺は知らないベッドの上で、どこまでも白い空を見上げていた。


「……………………? 」


  知らない天井とかならまだ納得も出来たが、そこに天井は無い。ただただ白い空間だ。目がおかしくなったのかと右手を目の前に上げてみる。


  手を握ったり開いたりして見てみる。うん、おかしくはなってないようだ。じゃあ、何だコレ? 視線を左右に向けて見てもただ白い空間が広がっている。意味が解らない。


  ふと、背中のゴリゴリした痛みに気づく。布団を少し捲って見ると、俺は濃紺のスーツとトレンチコートを着たまま布団に入っていた。それで、背中にゴリゴリとあたっているモノが、トレンチコートに隠し持っている三節棍だと分かった。


  いや待て、スーツにコート姿で寝るなんて有り得ない。俺は…………。


「俺は海に………… そうだ、銃で撃たれて!! 」


  布団を蹴り飛ばして跳ね起きる。


  …………おかしい、痛みが無い? そもそも撃たれていない?


  体のどこを触っても穴も開いていなければ濡れてもいない。だが、夢にしては…………!?


「そうだ! セバスニャン! フィギュアはどこだ!? 」


  慌てて布団の上やベッドの周りを探す俺に、背後から声がかけられた。


「少し落ち着きなよ。セバスニャンは無事だから」


  苦笑するような声に振り返ると、そこには白髪に金色の瞳をもつ少年がいた。せんが細く、民族衣装のような物を着た、美少年だった。


  少年が口にした『セバスニャン』の言葉に、詰め寄りそうになるのを必死で抑えた。…………相手は子供だ。俺は一つ深呼吸をすると、声を荒げないように注意しながら少年に話かけた。


「君は、セバスニャンを知っているのかな? 」

「そりゃ知ってるよ。僕が呼んだんだからね。本当はフィギュアのセバスニャンだけを呼んだんだけど、君の執着が強すぎて君も一緒にここに来てしまったんだ」

「呼んだ? どういう意味かな。君は何を………… 」

「僕の事、子供に見えているんだね。僕の姿や声は、相手の信心深さによって変わるんだ。君は、あまり僕を信じていないようだ」


  突如、少年の存在感が増した。少年は変わらずにニコニコとしているのに、まるで、とてつもなく大きな存在に魂でも握られた気分だ。


「初めまして。僕は君達が言うところの神様だよ。正確には世界から生まれたイメージだけど、持っている能力的に神様の方が解りやすいと思うんだ」

「神……様…………? 」


  一概に否定出来ない何かを感じる。オーラというヤツだろうか? そもそも、今いるこの場所が有り得ないからかも知れない。


  どこまでも白い。どこまでも広い。目の前の少年にしても、突然現れたのだ。


  頭の中に、『夢』や『死後の世界』という言葉が浮かんだ。


「死んでないよ、君は。その前にここに来たから、僕が治した。体も服も傷一つ無いよ」


  …………どうやら、頭の中も見えるらしい。俺の中に、本物の神様だと確信が芽生えた。


  何でも見透かすような雰囲気を、目の前の少年から感じたのだ。


「…………神様。命を救っていただき、ありがとうございます」


  俺は姿勢を正し頭を下げた。しかし、下げようとした頭を神様が抑えたため、中途半端な姿勢になってしまう。


「救ってはいないよ。僕は、君を助けていない」

「え? 」

「君はたまたまここに来てしまっただけなんだ。そして、もう君の世界に戻る事は出来ない。地球の常識なら、海中で行方不明になったら死んだものとされるでしょ? 地球に戻れない以上、君は死んだんだ」

「戻れない? ずっと、ここに居るって事ですか? 」


  この、何も無い空間にずっと? 耐えられるとは思えない。きっと、すぐに精神をやられてしまうだろう。


「ここにも居られない。だから君には、彼と同じ場所に行ってもらうよ」


  そう言って神様が振り返る。その視線の先を追うと、今まで何も無かった筈の空間に、部屋が出来ていた。


  壁などがあるわけじゃないので、厳密には部屋ではないが、赤い豪華な模様の入った絨毯が敷いてある上に、大きめの丸テーブルと三組のオシャレな椅子、そして大きめの本棚が二つ並んでいた。丸テーブルの上には、ティーセットとクッキーが入った深皿も並んでいる。


  そして最も目を引くのは、椅子の一つにスラリと長い足を組んで座り、左手で本を開きながら右手に持ったティーカップを口に運ぶ紳士。その顔は、左目に片眼鏡がかけられた猫のものだった。


  クロネコの顔で、その顔にある模様はとても特徴的だ。黒地に、白く細い眉と、カイゼル髭が見える。


「知ってるだろうけど、一応紹介しておくよ。彼は、セバスニャンだ」


  神様に紹介を受けた猫紳士が立ち上り、優雅に一礼をした。


「ただいま神様よりご紹介に預かりましたセバスニャン=イベントリーと申します。星野雄一様とお話できる事、大変に嬉しく思っております」

「……………………」


  猫とは思えない、とても丁寧な挨拶だった。燕尾服を着ている事といい、渋い声といい、執事そのものだ。いや、俺は漫画やアニメの執事しか知らないから、本物がどうかはわからないが。


「…………セ、セバスニャン? …………フィギュアが動いて?………… と、等身大? 」

「混乱してるね。まぁ、確かに彼の体は君の持ってたフィギュアが元になってるね。でも中身は、本物のセバスニャンだよ」

「…………本物? 」


  神様の言葉に首を傾げる。すると、セバスニャンが助け船を出してきた。


「星野様には、旦那様のお葬式でお目にかかっております。私を撫でて頂いた事、覚えてはいませんかな? 」

「…………撫でて? ………………あっ! 」


  頭の中に、葬儀の場で見た猫が浮かんだ。トーマス=イベントリーの愛猫セバスニャンだ。


  俺は、主人の遺体に寄り添うように眠るセバスニャンを、確かに撫でていた。


「そう、彼は本物のセバスニャンだよ。トーマスの後を追うように亡くなった彼の願いが、この体なのさ。トーマスもセバスニャンも、見てて楽しい僕のお気に入りだったからね。その願いを叶えてあげたのさ」

「ええ、ありがとうございます。私、第二の人生…………もとい、猫生が楽しみでなりません」


  笑い合う二人を前に、俺は頭を抱えた。俺の理解を完全に越えている。


「星野雄一君には悪いけれど、君の事は完全にとばっちりなんだよ。でも、死んでしまうよりはいいだろう? 君も、死にたくないと願っていた事だしね」

「…………それはまぁ、確かにありがたい事ではあります。しかし、地球には戻れないのですよね? 」

「うん。今いる神界に来た魂は、僅かだけど神気を帯びてしまう。それがどういう事かと言うと、君達の全ての能力が十倍になる事を意味する。そして、ここから出る事で更に十倍になって、結果として君達は百倍の力を手にする事になる。そんな力を持った人間を地球には帰せない」


  百倍? どういう意味だろう。単純に握力なら、俺の握力は120キロだから、12000キロになるって事か? そんなの、生きるのも難しいだろう。


「え、君握力120もあんの? いや、それもだけどセバスニャンの体では、地球では暮らせない。完全に獣人だからね。獣人のいる世界じゃないとね」

「そ、そんな世界があるのですか? いわゆる、漫画やアニメの世界が…………? 」

「うん。わりと最近できたんだ。まあ、最近と言ってもここは時間の流れが複雑に絡みあってるから、そう言っていいのかは疑問だけどね。…………創ったのは、君達だよ」


  …………? 言われた意味がわからない。創った? 世界を? いくら科学が発展しているとはいえ、そんな事があるはずがない。それこそ、神の領域の話だ。


「まあ、正確に言うと、君達の想像力が世界に影響を与える程になったのさ。異世界の物語が増えすぎて世界が興味をもった。それで新しく創られた世界があるのさ」

「…………それはつまり、人間のせいで出来た世界という事ですか? そんな事が…………? 」

「僕としても初めての事で、新しい世界が出来た原因を突き止めた時は大爆笑だったよ」


  …………笑い事だろうか。


「まあ喜びなよ、剣と魔法の異世界だ。そういうの好きでしょ? 特に君達日本人は」

「…………自分が行くとは考えた事もありませんが、本当ならば、ワクワクしますね。魔法が使えるという事ですよね? 」

「向こうで魔力と呼ばれる力は、君達が言うところの気って力に近いかな。目には見えなくても、あるとされる力だ。君達の中の魔力は向こうの人間にとっては取るに足りないけど、100倍になるなら話は違う。一般的な魔法使いくらいにはなるよ」


  成る程、漫画やアニメのようにチートとはいかないらしい。いや、能力100倍があるなら十分だろうか?


「十分かどうかは君達次第だね。君達なら調整も効くだろうし、野生の勘と格闘家の経験で。ただ、一つ忠告しとくと、あくまでも人間の能力の100倍だからね、過信は禁物だよ」

「肝に銘じておきます」

「うん。じゃあ、君にも能力をあげよう」


  そう言って神様はにっこりと笑った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み始めました。 とても楽しい出だしでこれからも楽しみです。 [気になる点] 10倍の10倍は100億倍の様なwww
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