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024 戦後処理と葬儀

  明くる朝。俺はスーツのズボンに上はシャツ一枚で、セバスニャンはいつも通りの執事姿で、街の外に出ていた。戦後処理の作業をする為である。


  戦後処理。それはとてもとても、めんどくさい仕事が山積みとなる。


  やる事は様々にあるのだろうが、その一つに死体の処理がある。戦場にところ狭しと転がる死体。それをそのままに放置しておくと、死肉を漁るモンスターを呼び寄せたり、瘴気が集まるとアンデッドになる事もあるらしい。


  ただでさえ怨念渦巻く戦場跡なのだ。瘴気とやらが集まるのも早そうだ。なので、迅速に処理する必要がある。


  それに味方の遺体は、なるべくなら家族の元へと返したい。モンスターに漁られたり、アンデッドなんかになる前の、なるべく綺麗な状態で。


「そこで、私達の出番となった訳ですな」


  セバスニャンは達と言ったが、必要なのは主にセバスニャンであり、俺はオマケだ。


  戦場の死体の内、味方のものはそのまま回収し、敵のものは剣や鎧などの有用な物は剥ぎ取り、死体はまとめて焼却して埋める。


  これらの作業効率を、セバスニャンの『ストレージ』を使うことで上げよう。という話なのだ。


  まぁ、リリアナやタリフには、ゆっくり休んでいて良いと言われたのだが、周りが忙しく働いている時に一人休むというのは、精神衛生上良くないと思うのだ。


  とは言え、俺に出来る事など力仕事しか無い。昨日の夜には、召還していたモンスター達も消えたし、セバスニャンを投入した事で人手にも余裕があるため、新たに召還する必要もない。


  なので俺は、死体回収に向かうセバスニャンと別れ、敵陣の解体作業に行く事にした。土木工事など、大学生時代にやって以来なので、なんだか懐かしい気分だ。


  …………まぁ、そうは言っても、一昨年くらいの話な訳だが。


「ええっ!? ホシノ様が一緒に作業するんですか!? 」

「そんな、カルミアの英雄様にこんな事させられませんよ! 」

「タリフ様はご存じなんですか? 」


  何やら盛大に驚かれてしまった。


  にしてもカルミアの英雄か。…………まんざらでもないな。少しこそばゆいが。


「俺は貴族でも何でもないから、遠慮なくこき使ってくれ。あ、土木工事は経験あるけど、天幕の解体は知らないからな、指示を頼む」


  そんな事を言って、俺は強引に作業に加わった。共に作業し汗を流す。昼飯を皆で食べる頃には、俺はすっかり兵士達と打ち解けていたのだった。


「大体片付いたな」

「ええ、後は穴を埋めて仕材を街に運ぶだけです」

「ん? ああ、仕材の方は任せとけ」


  俺はおもむろに立ち上がり、カルミアの街の方に向かって声を上げた。


「セバスニャン! 」


  すると、数秒後にはセバスニャンが音も無く現れる。


「お呼びですか、雄一様」

「う、嘘だろ」

「…………あれが聞こえたのかよ」


  兵士達がザワザワするが、俺は気にしない。セバスニャンは最早、こういう存在なのだ。


「すまないが、ここに纏めてある仕材も『ストレージ』に回収してくれないか? 」

「お安いご用です」


  セバスニャンはその場にあった仕材を『ストレージ』に回収すると、再び死体回収の仕事に戻って行った。


「さ、後は穴を埋めるだけだな! 」

「無茶苦茶ですね。…………助かりましたけど」


  休憩も終わり、皆で天幕や柵を抜いた跡に空いた穴を、スコップを使って埋めていく。


  途中、戦場に漂う血の臭いに誘われたモンスターと何度か戦闘になったが、ここに居るのは全員が兵士。それも、劣勢だった先の戦争を乗りきって、自信をつけた強者達だ。問題など何も無かった。


  ただ、作業中に襲って来て、スコップでタコ殴りにされていたゴブリンには少し同情してしまった。


  後片付けも全て終わった頃。戦場になった広野の片隅で、大きな炎があがっていた。敵兵の火葬が始まったのだ。


「…………俺は、アイツらに故郷の村を焼かれました。これで恨みが消えた訳ではありませんが、少し、…………軽くはなった気がします」


  近くにいた兵士がポツリとそう言った。兵士達の中には、泣いている者もいる。皆それぞれに、思う所があるのだろう。



 ◇



  戦後処理が終わった次の日には、戦争で亡くなった味方の兵士達の合同葬儀が行われた。


  あいにくの雨模様だったが、街に住むほとんどの人が集まった。


  この世界の葬儀は、基本的に火葬らしい。アンデッドがいる世界なのだから、当然と言えばそうなのだろう。祭壇が組まれ、一人づつ、全員の名をリリアナが読み上げて、荼毘に伏していく。


  埋葬する時には、同じ小隊にいた戦友達が穴を掘り、家族が遺骨を置いて、皆で土をかけた。


  あの最後の戦いで、16人亡くなった。それが多いのか少ないのかは分からないが、俺はセバスニャンと共に黙祷を捧げた。


  一日がかりの葬儀を終えて部屋に戻ると、先客が俺を待っていた。貴族の服に身を包んだ、銀髪の美少年だ。


「アイン! 目が覚めたのか!! 」

「心配しておりました。良かったですな」


  俺とセバスニャンが声をかけると、アインは深く頭を下げた。


「ご心配をおかけしました! 」


  突然の行動に面食らいながらも、俺はアインに声をかけ、セバスニャンはいつもの紅茶セットを一式を取り出した。


  いきなりその場に現れた、絨毯や丸テーブルに驚くアインを椅子に座らせて、セバスニャンの淹れた紅茶を飲み、俺はやっと一息ついたのだった。


「改めて。アイン、本当に良かった。なかなか目を覚まさないから心配したぞ」

「ありがとうございます。まさか僕も、三日も寝ていたとは思っていなかったので、驚きました。目が覚めたと思ったら、戦争は一昨日終わったと聞いて、複雑な気分でしたよ」


  アハハ…………と、笑うアイン。その顔に、あの思い詰めた様な陰は見えない。何か、スッキリとした様子だ。


「色々と吹っ切れましたかな? 」

「おい、セバス! 」

「いいんですよユーイチさん。自分でも、これで良いのかと思うくらいに心が軽いんです。…………姉様や両親を思うと、まだ苦しいのですが、僕は、大丈夫です」


  色々ありすぎて、最後には感情が爆発したからな。あの眠り続けた時間も、アインには大切な時間だったのだろう。


  …………しかし、それはそれとしてヨーダルの事が問題だ。アインから全てを奪ったゴミが生きてると知ったら、あの思い詰めた状態に戻ってしまうのではないだろうか?


  俺がアインの立場だったなら、間違い無く殺しに行くだろう。


  しかし、俺の悩んでいる事を見透かしたのか、アインはあっけらかんと言ってのけた。


「ヨーダルの事なら知ってますよ。メルサナさんに教えて貰いました」

「えっ!? …………知ってたのか」

「私は、てっきりご存じ無いのかと思っておりました」


  セバスニャンも驚いている。知っていて、この落ち着きようなのかと。


「ヨーダルの事は、もう良いのです。今さら、何を言われたとしても何も変わりませんし。僕の知らない所で、処刑されたらいいと思ってます」

「…………そうか。アインがそれで良いなら、そうすればいいさ」

「はい」


  念のため、処刑される時には確認だけはしておこう。アインは関わりたく無いと言ったが、俺にとってはケジメでもある。戦争に、関わった者として。


  それから暫く紅茶とクッキーを楽しんだ所で、アインが意を決した様に俺に向き直った。


「ユーイチさん、お願いがあります! 」


  そう、きり出したアインの眼は、とても真剣なものだった。

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