022 始まりの街へ
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戦争が終わり、降伏した敵を味方の兵士が捕らえていく中。俺は戦場で大の字になって倒れていた。
100倍の力を使った代償が思っていたより凄まじく、立ち上がれないのだ。骨がもうバッキバキである。
しかし、『健康EX』のスキルが頑張ってくれているらしく、折れた骨が少しずつ治っていくのが解る。『EX』と付くだけの事はあるようだ。
今まで気づいて無かったが、どうやら前に100倍の力を使って腕に痛みが走った時も、こっそり『健康EX』さんが治してくれていたらしい。
「何をされているのですかな? 」
顔に影がさす。そちらを見るまでもなく、セバスニャンだ。
「空を見ている。…………少年達は無事か? 」
「当然ですな。私は仕事はキッチリと終わらせますので」
「ははっ、耳が痛いな。…………俺はヨーダルを仕留め損なった」
「そのようですな。しかし結果として、これが最良だったのではないですか? 」
セバスニャンの影が少し動いた。へルバンを見ているのだろう。
まぁ確かに、へルバンを放っておいたら、負けないまでも犠牲は多くなっただろう。そう考えるなら、これが最良か。
「おんぶは要りますかな? 」
「冗談だろ。…………へルバンを、その男の遺体を『ストレージ』に入れてくれ」
「かしこまりました」
◇
何とか歩ける程度まで回復するのを待って、セバスニャンに肩を借りながら陣地まで戻ると、そこには人の姿はまばらで、カルミアの街につながる門が解放されていた。
街からの歓声や笑い声が、ここまで聞こえてくる。
街の中はお祭り騒ぎだ。街が滅ぼされる危機から一転、街が無傷で救われたのだから、当然だな。
最初の門をくぐり、二つ目の門との間に広がる田園風景を眺めながら歩いていると、共に戦った兵士達に囲まれた。
「ホシノ様、大丈夫ですか!? 」
「まさか、どこか怪我を? 」
慌てる兵士達に片手を挙げて答える。
「大丈夫だ。予想外の強敵がいて、少し無茶しただけだ」
俺の言葉に安心したのか、次はお礼の言葉と握手攻めにあった。皆本当に嬉しそうだ。
そうこうしていると、今度は貴族の少年達が走って来た。アインの姿こそ無いが、全員元気そうだ。
ただ。何人か、俺に肩を貸しているセバスニャンを見てビクリッ! と体を震わせたのが気にはなったが。
兵士や少年達に囲まれながら、俺とセバスニャンはとうとう街に足を踏み入れた。
「…………はぁ~~」
思わずため息が出る。この世界に来て、一番最初となるこの街に入るだけで、えらい苦労したもんだ。
ふと街に入ってすぐの広場を見ると、俺が召還したモンスター達が歓待を受けていた。俺より先に街に入って、兵士達に食事を振る舞われているらしい。
街の住人達は流石にモンスター達を警戒しているが、兵士達が広場に大勢いてモンスター達を受け入れているからか、大騒ぎする住人はいないようだ。
なにやらモンスター達に先を越された感もあるが、それよりもアイツ等、物を食う事が出来たのか。何気に新発見である。
「ユーイチ殿、どこか怪我をしたのですか? 」
「おお、メルサナ。大丈夫だ、少し無茶しただけだから」
「ユーイチ殿が無茶をするような敵が? いえ、ともかく治癒魔法をかけてもらいましょう。誰か、ヒーラーを呼んで来い!」
心配するメルサナに、大丈夫だと声をかけようとして思い留まった。
…………治癒魔法か。ぜひ体験してみたい。
しばらくして、修道士の様な服を着たおじさんがやって来た。おじさんなんだ…………。と、ちょっとガッカリしたのはナイショだ。
ヒーラーおじさんは、俺の前で祈る様に呪文を唱えた。
「…………ヒール! 」
ヒーラーおじさんが出した両手の前に魔方陣が浮かび、俺の体を暖かい光が包みこむ。これが治癒魔法か。
「………………ん? 」
俺の体の中で、『健康EX』が活発化したのが解った。ヒーラーおじさんの魔法では、わずかにしか治らなかった様だが、その魔法のおかげで活発化した『健康EX』が身体中の折れた骨を全て完治させてくれた様だ。
「どうですか? 」
「ん? あ、ああ。良く効いたよ。凄いな、治癒魔法ってのは」
俺はセバスニャンの体から離れて、少し体を動かして見せた。
「回復したのなら良かったです。…………では、申し訳ないのですが、リリアナ様がお待ちですので、屋敷まで来て下さい」
「ああ。分かった」
「本来であれば馬車を用意する所なのですが。なにぶん、戦争直後ですので、ご容赦を」
「構わないさ」
メルサナの後について、街を中心部に向かって進む。
煉瓦で出来た石畳みに、石材と木材を組み合わせて作られた街並み。窓はあるがガラスではなく、木製の扉が付いていて、今は昼間だからか開け放たれていた。
「楽しそうですな、雄一様」
俺の少し後ろを歩くセバスニャンが、そう声をかけてきた。
「そうだな。何と言うかこう、異世界! って感じがするな。俺はやっぱり日本人だからな、こういう街並みはワクワクしてしまう」
「おや、雄一様は海外に行かれる事も多かった、と聞いていましたが? 」
「そうだな。イギリスやフランスの街並みも好きだぞ。中国はどこの国にもチャイナタウンがあったから、流石に見慣れてしまったが、それでも日本にいるよりはワクワクしていたな」
もちろん一番落ち着くのは日本なんだが、それは言わば、旅行から帰って来た後の自宅の様なものだ。
「セバスはワクワクしないのか? 」
「私は、この視線の高さが、既に新鮮ですので」
「ああ、そうだったな」
元は猫で今は獣人。異世界以前の話だったようだ。
「着きました。ルイツバルト辺境伯爵様のお屋敷です」
カルミアの街を堪能しながら歩くこと一時間。街の中心部にそびえる屋敷は、途轍もなくデカかった。これはアレだ、部屋数が50とかあるヤツだ。
メルサナが門番に声をかけ、鉄製の格子で出来た門が開いてゆく。
庭もやたら広いな。色とりどりの花が咲く花壇に、整然と並んだ植木。その中には彫刻が何体か点在している。
成る程、辺境伯爵か。確か貴族でもかなり上位だったハズだ。そのくらいの貴族ともなれば、このくらいの屋敷は持っていて当然なのだろうか。
屋敷の造りも豪華なものだ。俺のような庶民の感覚では、「デカい」とか「掃除が大変そうだな」とかしか思いつかないが、屋敷の造りが良いのはわかる。
「ホシノ様、ようこそいらっしゃいました」
「「お待ちしておりました」」
屋敷に入ると、執事やメイドさん達が礼をもって出迎えてくれた。
本物の執事にメイドさんだ。と、感動すると同時に、今の自分の姿を思い出す。スーツにトレンチコート姿だ。
刻印装備であるお陰で汚れこそ無いが、場違い感が凄い。
しまった、トレンチコートは屋敷に入る前に脱いでおくべきだった! とか考えても、もう遅いのだ。
しかし、次の瞬間には、俺の体からトレンチコートが消えていた。セバスニャンが『ストレージ』に回収してくれたらしい。
実に気が利く執事である。
まぁ、それでもこの異世界では、スーツ姿も異端ではあるな。と、違和感なく溶け込んでいる執事姿のセバスニャンを見て、俺は思ったのだった。




