表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/171

020 少年達の戦い

「「僕達を連れて行って下さい!! 」」


  リリアナ達との話を終えて天幕を出ると、捕虜になっていた貴族の少年達に囲まれた。アインを除いた八人全員いて、皆、革の鎧を身につけて腰には剣を差していた。


「連れて行けって、戦場にか? 」

「はい! 」

「僕達、アインがあんな事になっているって知らなかったんです! 」

「アインは友達です! アイツの仇は、俺達の仇でもあるんです!」

「アイツのお姉さんにも、俺達はお世話になりました。お姉さんの仇を、俺達も討ちたい! 」


  詰め寄って来る少年達を落ち着かせながら、俺はアインの人望に驚いていた。聞けば皆、貴族学校の同級生だと言う。


  年齢に幅が見えるが、そういうものなんだろう。


「お前らな、戦場を甘く見てないか? ここからの戦いは最悪だぞ。敵も味方も死にまくる、何せ敵も味方も狙っているのは皆殺しだからな」


  この後の戦いは、正に血で血を洗う決戦となる。大人でもトラウマが残りそうな戦いに、普通の少年は耐えられないだろう。


  もし、アインの復讐がこの状況下だったなら、俺は復讐させようなんて考えなかった。


「僕達は貴族です! まだ戦場に立ってはいないけど、覚悟はあります! 」

「侵略者を放って、領民を見捨てて逃げたりしたら、それはもう貴族じゃない!! 」


  しかし、ここにいる少年達は、確かに復讐という思いも持ってはいるが、どうやらその根幹は貴族としての矜持にあるようだ。


  貴族として生きてきたからには、民は必ず守る。そういう強い気持ちが決意としてその眼に宿っている。


  カルミアの街を捨てて、我先に逃げていった貴族共に見せてやりたい。この子達を前にして、恥ずかしくは無いのかと。


  それはともかく、ここにいる若き貴族達は本気の様だ。アインに復讐をさせた俺が言えた事ではないが、本当ならまだ子供と言える年齢の少年達には、戦場に近づいて欲しくない。しかし…………。


「雄一様、私が引き受けましょう」

「セバス…………」

「ご安心下さい。彼らの安全は、私が保証いたします」

「…………わかった。彼らを頼んだぞ」


  俺の了解を得られた事で、セバスニャンは少年達をまとめ始めた。今回の作戦では俺とセバスニャンは別行動なので、セバスニャンに全てお任せだ。


  まぁ、セバスニャンに任せておけば大丈夫だろう。


  100倍の力を自在に使えるセバスニャンなら、極端な話、一人でも十分に敵を皆殺しに出来るのだ。


「…………『サモン』!! 」


  そして俺は自らの任務に集中すべく、スライムを身に纏いその場を離れた。


 ◇


「全軍、突撃!! 」


  ――――両軍は、まるで示し合わせたかの様に同時に動き出し、最後の戦いが始まった。


  ――――数の上では劣るカルミア軍だが、騎馬隊、魔法隊、雄一の召還したモンスター隊と、その質では大きく上を行き、戦いは一方的なものとなっていく。


  ――――その中に置いても、一際異彩を放つ1小隊があった。


  ――――かの小隊は、一人を除いて少年兵で構成されており、その指揮官は、カイゼル髭の様な白い模様が特徴的な、黒猫の獣人だった。


「な、な、た、助け…………。ぎゃあっ! 」

「こんな…………、あぐっ!? 」

「くそっ! くそぉっ! …………がっ!? 」


  一人、また一人と、()()()()()()()()()()()()()兵士が少年達に斬られていく。


「浅いですぞ!! 首を斬り、止めを刺しなさい! 」

「はいっ! 」

「丸腰の敵を恐れるな! 深く斬り込むのです!! 」

「はいっ! 」


  少年達にしっかりと指導をしつつ、私は近くにいる兵士の剣と鎧を盗み、ストレージへと収納していく。


  神様から頂いたスキル『ストレージ』と『神盗』の合わせ技。未だ、『ドロボウ猫』という称号には納得がいきませんが、スキルとしては、これ以上は無い性能の様な気がしますな。


  剣を振り上げ向かって来た兵士が、一瞬で丸腰となり、少年達に斬られていく。


  我ながら、少々酷い戦い方な気もしますな。しかし、雄一様が人間では無いと断じた者共に、配慮など要りませんな。


  敵の中には、矢を放つ者や、剣や盾を投げて来る者もおります、が。


「き、消えた!? 」

「くそぉっ! これもダメか!! 」


  私には関係ありませんな。粛々とストレージに納めていくだけです。


「おやおや、どうしました。私はまだ剣すら抜いていませんよ? それだけの人数がいて、遠巻きに見ているだけとは。…………情けないとは思われませんか? 」

「ぐうぅ…………、くそっ! 化物め! 」

「囲め、囲んで一気に仕留めるんだ!! 」


  扇状に広がっていく敵兵。数が多ければ盗めないと思っているのか、はたまた数で圧せば丸腰でも殺せると思ったのか。まあ、発想としては悪くありませんな。


  しかし…………。


「…………囲めれば、の話ですな」


  私は神様より頂いた100倍の力を使い、走る敵を遥かに凌駕する速さで、敵の首に刃を合わせる。一呼吸で五人、空を飛ぶ首に驚いている間に十人。


  あっと言う間に、私を囲もうとしていた兵士共は、首の無い死体となって、地に倒れ重なった。


「私の相手をするには、いささか遅すぎますな」

「う、うわああぁぁぁーーーーーー!!!! 」

「逃げろ、逃げろーーーー!! 」

「た、助けてくれぇーーーー!! 」


  仕込み杖の刃を振って血を払うと、残った敵兵は恐慌状態となって逃げ始めた。


  こうなっては、後は味方の魔法や弓の的になるだけでしょう。


「…………ふむ。ここ迄ですかな」


  剣を納めて振り返ると、少年達は一人残らず大量の返り血で赤く染まり、青い顔をして肩で息をしていた。


  どうやら全員、心身共に限界の様ですな。少々早い気もしますが、仕方ありませんな。


「貴方達の戦いはここまでです。さ、帰りましょう。 自分で歩けない者はいませんね? 」

「「はあっ、はあっ…………。はい! 」」


  …………おや? てっきりまだ戦えると駄々をこねるかと思っておりましたが、以外に聞き分けが良いですな。


  ――――首を傾げながらも、少年達を率いて陣地へと戻るセバスニャン。


  ――――彼は気がつかなかった。


  ――――少年達の視線が、セバスニャンが斬り殺した兵士や、セバスニャンの背中に注がれている事に。


  ――――初陣で、しかも初めて人を斬った少年達の、疲れきった心にトドメを刺したのは、他の誰でも無い、セバスニャンだったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ