020 少年達の戦い
「「僕達を連れて行って下さい!! 」」
リリアナ達との話を終えて天幕を出ると、捕虜になっていた貴族の少年達に囲まれた。アインを除いた八人全員いて、皆、革の鎧を身につけて腰には剣を差していた。
「連れて行けって、戦場にか? 」
「はい! 」
「僕達、アインがあんな事になっているって知らなかったんです! 」
「アインは友達です! アイツの仇は、俺達の仇でもあるんです!」
「アイツのお姉さんにも、俺達はお世話になりました。お姉さんの仇を、俺達も討ちたい! 」
詰め寄って来る少年達を落ち着かせながら、俺はアインの人望に驚いていた。聞けば皆、貴族学校の同級生だと言う。
年齢に幅が見えるが、そういうものなんだろう。
「お前らな、戦場を甘く見てないか? ここからの戦いは最悪だぞ。敵も味方も死にまくる、何せ敵も味方も狙っているのは皆殺しだからな」
この後の戦いは、正に血で血を洗う決戦となる。大人でもトラウマが残りそうな戦いに、普通の少年は耐えられないだろう。
もし、アインの復讐がこの状況下だったなら、俺は復讐させようなんて考えなかった。
「僕達は貴族です! まだ戦場に立ってはいないけど、覚悟はあります! 」
「侵略者を放って、領民を見捨てて逃げたりしたら、それはもう貴族じゃない!! 」
しかし、ここにいる少年達は、確かに復讐という思いも持ってはいるが、どうやらその根幹は貴族としての矜持にあるようだ。
貴族として生きてきたからには、民は必ず守る。そういう強い気持ちが決意としてその眼に宿っている。
カルミアの街を捨てて、我先に逃げていった貴族共に見せてやりたい。この子達を前にして、恥ずかしくは無いのかと。
それはともかく、ここにいる若き貴族達は本気の様だ。アインに復讐をさせた俺が言えた事ではないが、本当ならまだ子供と言える年齢の少年達には、戦場に近づいて欲しくない。しかし…………。
「雄一様、私が引き受けましょう」
「セバス…………」
「ご安心下さい。彼らの安全は、私が保証いたします」
「…………わかった。彼らを頼んだぞ」
俺の了解を得られた事で、セバスニャンは少年達をまとめ始めた。今回の作戦では俺とセバスニャンは別行動なので、セバスニャンに全てお任せだ。
まぁ、セバスニャンに任せておけば大丈夫だろう。
100倍の力を自在に使えるセバスニャンなら、極端な話、一人でも十分に敵を皆殺しに出来るのだ。
「…………『サモン』!! 」
そして俺は自らの任務に集中すべく、スライムを身に纏いその場を離れた。
◇
「全軍、突撃!! 」
――――両軍は、まるで示し合わせたかの様に同時に動き出し、最後の戦いが始まった。
――――数の上では劣るカルミア軍だが、騎馬隊、魔法隊、雄一の召還したモンスター隊と、その質では大きく上を行き、戦いは一方的なものとなっていく。
――――その中に置いても、一際異彩を放つ1小隊があった。
――――かの小隊は、一人を除いて少年兵で構成されており、その指揮官は、カイゼル髭の様な白い模様が特徴的な、黒猫の獣人だった。
「な、な、た、助け…………。ぎゃあっ! 」
「こんな…………、あぐっ!? 」
「くそっ! くそぉっ! …………がっ!? 」
一人、また一人と、武器も鎧も身に付けていない兵士が少年達に斬られていく。
「浅いですぞ!! 首を斬り、止めを刺しなさい! 」
「はいっ! 」
「丸腰の敵を恐れるな! 深く斬り込むのです!! 」
「はいっ! 」
少年達にしっかりと指導をしつつ、私は近くにいる兵士の剣と鎧を盗み、ストレージへと収納していく。
神様から頂いたスキル『ストレージ』と『神盗』の合わせ技。未だ、『ドロボウ猫』という称号には納得がいきませんが、スキルとしては、これ以上は無い性能の様な気がしますな。
剣を振り上げ向かって来た兵士が、一瞬で丸腰となり、少年達に斬られていく。
我ながら、少々酷い戦い方な気もしますな。しかし、雄一様が人間では無いと断じた者共に、配慮など要りませんな。
敵の中には、矢を放つ者や、剣や盾を投げて来る者もおります、が。
「き、消えた!? 」
「くそぉっ! これもダメか!! 」
私には関係ありませんな。粛々とストレージに納めていくだけです。
「おやおや、どうしました。私はまだ剣すら抜いていませんよ? それだけの人数がいて、遠巻きに見ているだけとは。…………情けないとは思われませんか? 」
「ぐうぅ…………、くそっ! 化物め! 」
「囲め、囲んで一気に仕留めるんだ!! 」
扇状に広がっていく敵兵。数が多ければ盗めないと思っているのか、はたまた数で圧せば丸腰でも殺せると思ったのか。まあ、発想としては悪くありませんな。
しかし…………。
「…………囲めれば、の話ですな」
私は神様より頂いた100倍の力を使い、走る敵を遥かに凌駕する速さで、敵の首に刃を合わせる。一呼吸で五人、空を飛ぶ首に驚いている間に十人。
あっと言う間に、私を囲もうとしていた兵士共は、首の無い死体となって、地に倒れ重なった。
「私の相手をするには、いささか遅すぎますな」
「う、うわああぁぁぁーーーーーー!!!! 」
「逃げろ、逃げろーーーー!! 」
「た、助けてくれぇーーーー!! 」
仕込み杖の刃を振って血を払うと、残った敵兵は恐慌状態となって逃げ始めた。
こうなっては、後は味方の魔法や弓の的になるだけでしょう。
「…………ふむ。ここ迄ですかな」
剣を納めて振り返ると、少年達は一人残らず大量の返り血で赤く染まり、青い顔をして肩で息をしていた。
どうやら全員、心身共に限界の様ですな。少々早い気もしますが、仕方ありませんな。
「貴方達の戦いはここまでです。さ、帰りましょう。 自分で歩けない者はいませんね? 」
「「はあっ、はあっ…………。はい! 」」
…………おや? てっきりまだ戦えると駄々をこねるかと思っておりましたが、以外に聞き分けが良いですな。
――――首を傾げながらも、少年達を率いて陣地へと戻るセバスニャン。
――――彼は気がつかなかった。
――――少年達の視線が、セバスニャンが斬り殺した兵士や、セバスニャンの背中に注がれている事に。
――――初陣で、しかも初めて人を斬った少年達の、疲れきった心にトドメを刺したのは、他の誰でも無い、セバスニャンだったのだ。




