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018 飛んで火に入る

  戦場が闇に包まれた。


  何て格好つけてみたが、要は日が落ちて夜になっただけの事だ。


  空を見れば数えきれない星の海と、青い三日月に黄色の半月が見える。これだけでも、ここが地球では無い事が明白だ。


  わかってはいた事だが、何故か感動してしまう。


「…………さて。街灯なんか無いからな、真っ暗だな」


  当然だが、陣地には松明がある。それも、ただ火を燃やしているのではなく、魔法で松明を再現した物だと言う。魔力がある限り燃え続け消えにくい、そんな便利な代物だと聞いた。


  まあ、作戦の支障にならないように数を減らしているから、暗い事には違いないんだがね。


「雄一様、敵が動き始めましたぞ」


  この暗闇の中で、夜目があり得ない程に利くセバスニャンがそう伝えて来た。なんでも、敵は馬を静かにゆっくりと歩かせながら近付いているらしい。


「余りにもゆっくりで退屈ですな」

「…………ふっ、敵が可哀想になってくるな。バレないように動いているのがバレバレじゃあな」


  見張りをセバスニャンに任せて、俺は兵士達と最後の打ち合わせをして配置に着く。周りの兵士達の手には、弓や長槍が握られている。


「そう緊張するな。俺達の仕事は罠にかかって馬から落ちた奴らに、トドメを刺す事だ。もっと力を抜け」

「…………本当に、こんな罠にかかりますか? 」

「襲撃が上手く行っていると思っている奴ってのは、何故か相手がただ待ってると思い込む。罠が仕掛けてあるなんて考えるのは極少数だ。…………と、俺の師匠が言っていた。大丈夫だろ」

「はぁ、そうですか」


  今、陣の中は馬で走り易いように天幕の間隔を開け、松明もソコに誘導するように置いてある。そして、その道の先には、如何にもお偉いさんが居そうな大きな天幕がある。


  …………怪しい事この上ないが、兵糧すら無く焦っているであろう敵に、これを見抜く余裕があるとは思えない。速さを最も必要とする場面で、わざわざ走りにくい道を選ぶ奴はいないものだ。


  そして当然の事だが、その道にはたっぷりと罠が仕掛けてある。その多くは小さい落とし穴だったりピンッと張ったロープだったりと、馬の脚を絡めとり、馬を潰す為のモノだ。


  小さい落とし穴の中には、森で出してから、まだ消えてないスライム達も入っているし、ゴブリンアーチャー達も俺達と共に潜んでいる。


「雄一様、敵の足が停まりました。いよいよですな」

「そうか」


  俺は軽く手を振って伝令を走らせる。伝令が行く先にいるのはメルサナだ。彼女達には、街と森の間に壁を作らせた。なるだけ派手に音と煙を出す様に注文付きで。


  森にいた敵の別動隊は街を攻める気であり、街を攻める為には閉じた門をこじ開ける必要がある。つまり魔法をぶちかまして門を破壊する訳だ。


  その魔法は投げナイフで敵から回収し、メルサナに渡してある。全ての準備は万端である。


  ―――― ドッゴオオォォーーーーン!!


  森に面した街の南側で、大きな爆発が起こり煙が上がった。それと同時に、メルサナに預けていた投げナイフが俺の手元に戻って来た。どうやらメルサナは上手くやったようだ。


  警鐘が陣地に響き渡り、兵士達が慌てて走り回る。打ち合わせ通りなのだが、兵士達の演技力が結構ある事に驚いた。


  そして、走って行った兵士達が、陣地の端に潜んだ頃。


「敵襲ーーーー!! 敵襲だーーーー!! 」


  更なる警鐘の音と共に、敵の騎馬隊がなだれ込んで来た。


  騎馬隊の足は速い。まあ、そうなる様に邪魔な物は避けてあるわけだが。見張り役として残した兵士も上手く逃げたようだし、敵は松明を倒して天幕を燃やしているが、その天幕は勿論カラである。


  当然、騎馬隊が通った後で速やかに火を消せるように準備もしてある。あの近くには魔法隊も潜ませてあるので、万が一も無いだろう。


  そして、邪魔なモノが無いためにドンドンと勢いを増していく敵の騎馬隊は、そのままの勢いで広場へと突入し、…………総崩れとなった。


「なぁっ!? 」

「うわぁーーーー!! 」

「ま、待て、待てぇーーーー!? 」

「ぎゃあああーーーー!! 」


  それは、まるで車による酷い事故を見ているかの様だった。


  穴やロープにより脚をとられた馬達。


  勢いがつきすぎていて馬から放り出された敵兵は、文字通り空を飛び、地面に叩きつけられた。


  後続の騎馬もそう簡単には止まれず、次々と崩れていく。後方にいた為に止まる事が出来た騎馬も、兵士やゴブリンアーチャーの良い的になり、矢によって落とされていく。


「ぐあっ!? 」

「た、助け…………ぎゃっ! 」


  何とか馬から落ちただけで生きている敵兵も、穴から触手を出したスライムに絡みつかれ、動きを封じられた所を長槍で突かれて命を落とした。


  正に、阿鼻叫喚という光景が目の前に広がっていた。


「これは…………、想像以上に上手く行きましたな」

「ああ、もう大丈夫だろう。こんな事言うとフラグになりそうだが。…………勝ったな」

「ええ」


  セバスニャンとそんな事を話していると、兵士の一人が走って来た。


「ホシノ様、魔法隊の布陣完了しました! 」

「よし、仕上げだな」


  敵は、この夜襲で全てを終わらせようとしている。ならば、騎馬隊がある程度暴れた後には、歩兵部隊が突入して来る。


  だが、そうはさせない。


  陣地の入口まで行くと、そこには何十人かの兵士達と、魔法隊が集まっていた。


  兵士達の手には、まだ火が点いていない松明が握られている。そして魔法使い達は、敵に放つための呪文の詠唱を続けていた。


「雄一様。敵歩兵部隊、射程に入りました」


  セバスニャンが前方の暗闇を見つめて報告してくる。相変わらず俺には全く見えないが、セバスニャンの眼にはハッキリと見えているらしい。


「松明上げーーーー!! 」


  俺の号令で、集まっていた兵士達が一斉に松明に火を点けて頭の上に掲げる。それにより陣地が一気に明るく照らし出され、その中では、魔法使い達の詠唱も終わっている。


  明るくなった事で、僅かに敵の姿が見えた。


  敵はギョッとして進軍を止め、俺は声を張り上げる。


「第一隊、撃てーーーー!! 」


  半分に分けていた魔法隊の片方から、一斉に放たれる魔法の雨。それは敵を燃やし、貫き、凍らせて蹂躙する。


「うわぁーーーー!! 」

「な、何であいつらが!? 」

「下がれ! 下がれーー!!」


  混乱する敵兵を尻目に、俺は更に号令を下す。


「第二隊前へ、…………撃てーーーー!! 」


  詠唱を続けて魔法の威力を上げていた、もう片方の魔法隊を、数メートル前進させてから魔法を放つ。


  敵部隊に大きな火の玉が降り注ぎ、敵は大混乱に陥った。


  その時、背後の陣地の中から歓声が沸き上がった。


「…………どうやら終わった様ですな」

「ああ、これでこっちも終わりだ」


  敵兵が、混乱しながらも逃げ出していく。味方の作戦が全て失敗に終わった事を悟ったのだろう。我先に逃げていく。


  しばらく様子を見て、セバスニャンが敵の姿が見えなくなったと報告してきたので、俺は味方に作戦の終了を告げた。


「良し! お疲れ! お前達、後はゆっくり体を休めとけ。明日にはこの戦いを終わらせるからな!! 」

「「「ははっ!! 」」」


  俺の言葉に、その場にいた魔法兵や兵士達が、一斉に敬礼して応えた。


「ハハハッ、すっかり将軍の様ですな」

「うるさい。俺達も戻るぞ」

「はっ、かしこまりました」


  こうして、この夜の戦いは終わったのだが。


「……………………なぁセバス。何で俺達、この世界に来て一番最初の街に入る前に、戦争してるんだろうな? 」

「…………ふむ。チュートリアルというヤツではないですかな? 」

「いや重すぎる! 」


  …………ふと気づいた事実に戦慄し、俺は眠れぬ夜を過ごすのだった。

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