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017 アインの慟哭

  敵のボスがロングソードを拾って構えると、メルサナがアインをかばう様に一歩前に出た。


  アインの方は見るからに余裕が無さそうだが、メルサナは落ち着いたものだ。まあ、メルサナは騎士だからな、場馴れしていても不思議は無い。


「んん? おいお前、俺達が捕まえていたガキだろう? その顔に見覚えがあるぜ」


  敵のボスがアインを指して下卑た笑いを浮かべた。


「そうだ、思い出したぞ。お前とお前の姉は俺のモノにするつもりだったんだ。揃って綺麗な顔していたからな。姉の方はゲダツの野郎に取られちまったが、取り敢えずはお前を俺のモノにしてやるぜぇ」


  やっぱり俺が殺そうか、などとつい考えてしまう程の外道だった。敵のボスはニヤニヤと笑いながらアインに近づいていく。


「おい、俺が勝ったらコイツは貰っていいよな! 殺さなくても勝てば同じだろうが! 」


  剣をアインに向けながら、俺にそんな事を聞いてくる。俺はその質問に答えたりしない。


  メルサナが移動している事にも気づいていないバカを、黙って見ているだけだ。


  答えてやる必要がないのだ。何故なら、あのバカが喋り終ると同時に、メルサナの剣が、バカの突き出した腕を斬り落としていたからだ。


「は? …………あ、あああああぁぁぁーーーー!! お、俺の腕ぇーーーー!! 」


  先の失くなった右腕を抱えてボスが転げ回る。メルサナは冷たい眼でソレを見ながら、ボスの頭を蹴り飛ばした。


「うるさいぞ。貴様も野盗とはいえ一軍を率いていたのなら、腕の一本で騒ぐな! 」

「…………く、糞が! 殺してやる!! 」


  残った左手で剣を拾い、ボスはメルサナに向かって行ったが、コイツには学習能力が無いらしい。先程はアインに注目するあまりにメルサナから目を離し、今度はメルサナに向かったせいでアインに背中を向けた。


  いや、メルサナがそうなる様に仕込んだのか。


  それを物語るかの様に、メルサナはボスの剣を余裕で受け止め、動きを止めたボスの背中に、ナイフを持ったアインがぶつかった。


「ぐぁ!? …………な、が、ガキィ…………」


  アインを何とかしようとボスが身を捩るが、アインはそこから、何度もナイフを突き入れていく。


「わあぁぁぁーーーー!! 」

「ぐ、ぅがぁ…………、や、やめ……」

「あああああぁぁぁーーーー!! 」


  沈み込むように倒れる敵に、アインは無我夢中でナイフを突き刺し、敵は大量の血を流して、だんだんと動かなくなっていった。


「アイン! 」


  俺は、既に死体となっている敵に跨がるアインの腕をつかみ、暴れるアインから無理やりナイフを奪い取って捨てた。


  身を捩り、地面に転がるナイフに手を伸ばすアイン。俺は、アインの体に腕をまわして抑えつけた。


「…………うぅ!! 」

「アイン! …………もういい、もう終わったんだ」

「ああ、ああぁ! 」

「アイン、お前は仇を討った。もういいんだ」


  厳密には、コイツは敵の一人であって、家族の仇は別にいるかも知れない。だが、そんな事は問題じゃない。


  全てを奪われたアインの心に、一応の決着がつく事が、何よりも大事なのだ。


「ああぁーー!! …………姉さん! 父様……母様ぁ…………!!」


  アインの眼から涙が溢れ出し、アインは俺の胸にしがみついて泣いた。


「うわあぁぁぁーーーー!! みんな、みんなアイツらがぁぁーーーー!! 」


  俺は何も言わずに、ただアインを泣かせてやった。アインは俺の胸をつかみ、叩き、噛みついて、ずっと泣き続けた。


「………………」


  …………やがて、アインは気を失うように眠りについた。


  アインを抱えたまま周りを見てみれば、連れてきた兵士達は敵の死体を始末し終えて、近くに待機していた。


「…………すまなかったな。後始末を任せてしまって」

「いえ。それよりもアイン様は大丈夫ですか? 」

「ああ、眠っているだけだ。肉体的にも精神的にも限界を越えたからな、しばらく眠り続けるだろう。……任せてもいいか? 」

「はい」


  俺は抱きかかえていたアインをメルサナに預けて、兵士達に向きなおった。


「当初の作戦通り、皆には街と森の間に仕掛けを造って貰う。街の扉の代わりに爆破される壁を造るんだ。出来るだけ派手に音と煙を出すモノを頼むぞ!! 」

「「ははっ!! 」」

「メルサナ、コレを」


  俺はメルサナに、敵の魔法を吸収した投げナイフを渡す。これが敵を引っ掛けるキーアイテムだ。


  間違って使ってしまわない様に、コレがどういうモノでどう使うのか説明すると、メルサナは若干引きつった顔で投げナイフを受け取った。


  後ろで聞いていた兵士達も同じ様な反応で、中には「じ、神器……」 などと呟いている者もいた。


  …………神器か。まぁ、大体合ってる。


  そんな事を考えながら、ふと自分の格好を見てみれば、全身が血塗れだった。まぁ、大量の返り血を浴びたアインが腕の中で暴れたんだから当然だ。


  俺はパンパンと埃を払うようにコートを叩く。たったそれだけで、まるで新品のように綺麗になる俺の服を見て、メルサナが絶句していた。


  俺の着ている物も全て刻印装備だからな、汚れようが斬り裂かれようが、一瞬で元に戻るのだ。


  森の中でこの機能に初めて気がついた時は、本気で神様に感謝をしたものだ。


  そして、メルサナ達は街に向かって引き返し、俺は、セバスニャンとゴブリンアーチャー、スライム達と森の奥へと向かった。


  目的は、かなり消費してしまった結晶の補充である。俺の考えが正しければ、かなりの効率で集まる筈だ。


「雄一様、モンスターを発見しました」


  セバスニャンの声に、俺は手を挙げて進軍を止める。


「種類は? 」

「ゴブリンですな。ファイターが三体アーチャーが二体ようです」


  俺には気配も分からない距離で、セバスニャンが断言する。本当に頼りになる。


「よし、丁度いい。お前達、行って仕留めてくれ。結晶の回収を忘れるなよ」

「ギイッ! 」


  俺の指示で三体のゴブリンアーチャーが向かい、暫くして帰って来る。その手には、五個の結晶が握られていた。


「よし! 思った通りだ」


  やはり、俺が指揮するモンスターは俺の仲間としてカウントされ、結晶を手に入れる事が出来るようだ。これで結晶集めが楽になったな。


「よし次だ、セバス」

「はい。『サモン』」

「………………あれ? 」


  俺は次の実験に移るべく、セバスニャンに今ゴブリン達が狩ってきた結晶を渡して召還させたのだが…………、ここで予想外の事が起きた。


  セバスニャンが呪文を唱えて召還したのはゴブリンアーチャーだ。それは間違い無いのだが、装備が元の木の弓に戻っている。


「どういう事だ? 」


  俺は手元に残った結晶を見て、そこにゴブリンアーチャーがまだ二つ残っているのを見て、その内の一つを使ってみた。


  結果、やはり装備が木の弓に戻っていた。


  装備の変化は時間制限付きだったのか? いや、連れていたゴブリンアーチャー達は兵士の弓を装備している。


「ふむ、バインダーではないですか? 」

「バインダー? …………あ、成る程」


  セバスニャンの言葉を聞いて、手持ちの結晶を一旦バインダーに収納し、そこから出した結晶を使ってみる。


  すると、召還したゴブリンアーチャーの手には、兵士の弓が握られていた。


「…………そうか、あくまでバインダーに登録されたモンスターの同一化な訳だ。一度バインダーに入れないと、何の経験も積んで無いまっさらのモンスターが出てくる訳だ」


  また一つ、スキルの特性が分かった。


  この後、セバスニャンの指揮するモンスターにも狩りに行ってもらい、セバスニャンが指揮するモンスターでは結晶は取れない事を確認した。


  どうやら、結晶を取れるのは、俺と俺の仲間。俺の直属の部下までのようだ。仲間の仲間とか、仲間の部下とかは対象外になるらしい。


  そんな実験を繰り返しながら、俺達は森でモンスターを狩りまくり、かなりの量の結晶を集める事に成功した。


  新しくソルジャーマンティスという1メートルサイズのカマキリや、ソナーバットというコウモリなんかも手に入り、俺は少し軽くなった気持ちをもって、陣に戻る事が出来たのだった。




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