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016 伏兵殲滅戦

  敵は森の中の少し開けた所に、天幕を一つだけ張って待機していた。


  見た所、兵士らしい格好をした者は居ない、全員が山賊の類いのようだ。


  これは完全に略奪目的だな、これから支配しようという街に、略奪を仕掛ける気か? 住民の反感をわざわざ高くするなんて、何考えてんだ?


  そんな俺の考えを読んだのか、セバスニャンが小声で話かけて来た。


「どうやらこれは、我々が招いた結果ですな」

「どういう事だ? 」

「敵陣に入った時に、自分の装備品を仲間に自慢している者がおりました。おそらく敵は、略奪品の中から装備品を褒美として山賊どもに与えていたのでしょう」


  …………成程。山賊なんてやからは、自分が得する利益がなければ動かない。なのに今、敵陣には褒美として貰える筈の装備品も無ければ食料も無い。離れていって当然だ。


「そこで、作戦に添って街に奇襲を仕掛ける褒美として、街での略奪を許したのでしょうな」

「未来を考えればアホでしかないが、苦肉の策って訳だ。じゃあ、遠慮無くその策を潰すとするか」


  敵は、夜襲を仕掛ける時に備えて休んでいる。自分達の存在が俺達にばれているとは、考てもいないに違い無い。


  まあ確かに、セバスニャンが気づいていなければ、俺も敵が別動隊を出しているとは考えなかっただろう。そもそも、俺達の刻印装備が無ければ、森の中に潜む敵兵を探し出すのは難しい。


  別動隊がある可能性に気づいたとしても、あの兵力が4倍違うような切羽詰まった状況で、余計な兵を森に出すなんて事はそうそう出来ない。


「お、ゴブリンアーチャー達の準備が終わったな。始めるぞ」

「はい、こちらも準備は出来ております」


  俺が一番近くにいたゴブリンに合図を送ると、ゴブリンアーチャー達が一斉に矢を放ち始めた。


  敵がすっかり油断している上に、ゴブリンアーチャーは『狙撃』スキルを持っている。一度目の掃射で、きれいに30人が死んだ。


「え? 」

「おい、どうした? 」


  突然バタリと倒れた仲間に、何人かが声をかけて近づいた。しかし、何が起きたのかを理解する前に、二度の掃射でまた30人が倒れた。


  そして、すぐに三度目、四度目と掃射が続く。


  ここまでくれば、流石に敵も気づいた。


「て、敵襲だーーーー!! 」

「矢が飛んで来るぞ! 反撃しろーー!! 」


  敵にも弓矢を使う奴はいるが、ゴブリンアーチャー達はスライムで森に溶け込んでいる。


  誰もいない場所から放たれる矢に、敵は大混乱に陥り、次々と矢の餌食になっていく。


「落ち着けバカ共!! 俺の所に集まれ! こっちには矢が来ていない!! 」


  たった一つの天幕から出てきた大柄な男の声が響き、敵の混乱が少し収まった。髭も胸毛もボサボサの大柄な男だ、いかにも山賊のボスって見た目だな。


  不思議なのは、とても太い腕をもつ男が背負っているのが、戦斧と杖だという点だ。…………まさかな?


「お頭ぁ! 魔法で吹っ飛ばしてやってくだせぇ! 」


  山賊の一人の言葉に、一瞬耳を疑った。…………マジか。街の門か壁を壊すのに魔法使いが一人いるとは思っていたが、あのボスがそうなのか。…………どう見ても脳筋なんだが。


「バカ野郎! 俺のは一発っきりの奥の手だ! 簡単に使えるか!! 」


  自分で一発きりとか奥の手とか言っちゃったな。脳筋である事は間違い無いようだ。


「そんな事言わずに使ってくれないかな? 」


  ガサガサと藪をかき分けて出ていくと、山賊達はギョッとして武器を構えた。


「何だてめぇら! たった二人? いや、一人と一匹で出てくるたぁ、良い度胸じゃねぇか!! 」

「お、お頭! コイツら女さらってった奴らだ!! 」


  …………さらう? 良く言えるなコイツら。アイン達を捕虜にしていたのはお前達だろうに。


「ほう。てめぇか、人の女に手を出したのは」

「おい、言葉に気をつけろ。今すぐ死にたいのか? 」

「………………ぐぅ」


  あまりの言動にボスを睨みつけると、ボスがジリッと一歩下がった。


「凄まじい殺気ですな。それだけで気の弱い者は死んでしまいそうです」

「…………む」


  いかん、心が大分荒んでいるな。


  俺はセバスニャンの言葉に、少し気を落ち着かせた。


「まぁしかし、用があるのはお前だけだ。他の奴はいらない」

「ああ!? この人数が見え……!? 」


  俺に反論しようとした所で、セバスニャンの姿がフッと消えた事に、ボスが固まった。


  そして始まる蹂躙。ボスの周りの敵をセバスニャンが見えない速度で斬り捨て、ボスから離れた敵には容赦なく矢の雨が降った。


  こうして、500人もいた敵の伏兵は、ボス一人を残して全滅した。


「バ、バケモノが…………」


  全ての敵を斬り捨てて再び姿を現したセバスニャンに、ボスが恐れのこもった目を向けた。その足は、若干震えている。


「お前にチャンスをやろう」

「…………チ、チャンス? 」

「ああ。まず、俺にお前の魔法を見せろ。そしたら、俺とセバスニャンはお前に手出ししないと約束してやろう」

「み、見逃すってのか? 」

「まさか、それはダメだ。やった事の責任は取れよ。…………セバス、アイン達を呼んで来い」

「かしこまりました」


  一礼をしてフッと姿を消すセバスニャン。少し待つと、待機させていた部隊が森の中からやって来た。


  俺はその中から、アインとメルサナを呼び寄せた。


「この二人がお前の相手だ。お前の魔法さえ見せれば、俺とセバスは手を出さないと約束しよう」

「女とガキじゃねぇか! 」

「…………何か問題か? 」

「いや、いいぜ。もちろん殺してもいいんだよなぁ? 」


  下卑た笑いを見せるボスにイライラしながらも、俺は頷いて見せた。


「ああ。それじゃ魔法を見せて貰おうか」

「へっ、分かってるよ」


  ボスは背中から杖を抜き取ると、杖の先端についている、くすんだ赤色の水晶玉に手をかざして呪文を唱え始めた。


  敵陣や味方の陣地で見た魔法使い達は、長い呪文なんか唱えずに、魔法の名称だけで魔法を撃っていたが、何か違いがあるのだろうか? 今ボスが唱えている呪文はそこそこ長い。


「…………待たせたな、こいつが俺の切り札だ。…………バカが、吹き飛べ! 『クリムゾン・ボム・フレア』!!! 」


  何か凄そうな名前だな!


  ボスの前に二重の魔方陣が現れた!


  …………が、俺はこちらに向けられている魔方陣に投げナイフを投げて、アッサリと魔法を吸収した。


  そして、ボスの魔法を吸収して戻って来たソレを、俺はセバスニャンに渡す。


「…………は? な、何で発動しねぇ!? 」

「採取完了だな」

「ええ、あざやかな手並みです。しかし、『クリムゾン・ボム・フレア』でしたか? 少し見てみたかったですな」

「そんな事したら、俺達の存在が敵にバレるだろうが。…………まぁ、俺も見てみたかったが」


  何せ『クリムゾン・ボム・フレア』だ。詠唱の長さも合わせて考えるに、相当な大魔法だろう。


「陣に帰ったら見せてもらうと良いですよ。単なる中級魔法ですから。本当の名前は、『ファイアボム』ですけどね」


  期待を膨らませる俺達に、メルサナがそんな言葉をかけてきた。


「…………は? 『ファイアボム』? 」

「ええ、魔方陣を見る限り間違いありません。詠唱していたので、覚えたてなのでしょう。ウチの魔法使いの方が、威力も精度も高いですよ」

「おやおや、これはガッカリですな」


  俺達が呆れてボスを見ると、ボスは顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。


「…………ハァ、もういいや。始めようか、セバス」

「はい。では、その戦斧と杖はお預かりします」


  セバスニャンがボスに手を伸ばして、その場から一歩も動くことなくボスが背負う戦斧と、その手にある杖をストレージに回収した。


  セバスニャンの『神盗』スキルか。離れた所からでも特定の物を盗めるってのは便利だよな。敵からしたら堪らないだろうが。


「な!? くそ、何しやがった! 返しやがれ! 」

「何って、これからの戦いに合わせて戦力を整えるのさ」


  セバスニャンに促されて、アインとメルサナが前に出た。アインの手にはナイフが、メルサナの手にはロングソードが握られている。


「素手で戦えってのか、汚ねぇぞ!! 」

「ふん! 安心しろ、武器はやるさ」


  俺のその言葉と共に、セバスニャンがロングソードをボスの前に投げた。


  周りでは、兵士達が敵の死体を引きずって、戦える場所を作っている。


「お前の武器だ、勝敗はどちらかが戦えなくなるまで。アインとメルサナの二人に勝てたら自由にしてやる」

「…………本当だろうな」

「二言は無い。では、始め! 」

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