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012 戦争の根幹

  リリアナ達との話がまとまり、俺達は会議室へと移動した。


  と言っても、同じ天幕の隣の部屋に移動しただけだったりする。大きなテーブルを椅子で囲んであるだけの部屋で、それぞれが決まった席に着いた。俺はセバスニャンと、そのテーブルの端っこに座った。


  集まったのはリリアナお嬢様とタリフ、あとは街に残っていた部隊長が三人程だ。数が少ないのは領主と共に主戦力が不在なのと、逃げ出した貴族に着いて行った者が多かった為だと聞いた。


  会議の司会進行役はタリフが勤め、リリアナはタリフの「よろしいですか」という確認に頷くだけの、簡単なお仕事のようだ。


  そこで俺達はこの戦争の始まり、根幹を説明された。


  まず、この国の名前はハルハナ王国と言うらしい。今いるルイツバルト辺境伯爵領、カルミアはハルハナ王国の東側にあり、ここから更に東にはアインの父であるハックナー男爵が治める城塞都市フェルドがある。


  そして、その先に海に面したケンプ王国という小国があったのだという。そう、()()()だ。


「…………ボルケーノドラゴン? 」


  聞くからに凶悪な名前である。名前の通り火山に棲むドラゴン。熔岩龍、自然龍、災害龍、呼び方はいっぱいあるらしいそのドラゴンは、本来海の向こうの火山島に生息し、人前に姿を見せる事は滅多に無いドラゴンだったらしい。


  それが今から半年前に、突然ケンプ王国に現れた。


  当然というか、熔岩を飲み、熔岩の風呂に浸かるようなドラゴンに勝てるはずもなく、ケンプ王国は滅亡した。


  だが、そこから運良く逃げ切ることが出来た者達もおり、難民となったその多くを、アインの父は城塞都市フェルドへと受け入れた。幸いボルケーノドラゴンはケンプ王国から動く事はなく、近くの山がボルケーノドラゴンの影響で火山に変貌した頃に落ち着いたのだという。


  当初、カルミアに攻めて来た略奪者はケンプ王国からの難民で、フェルドに入れなかった者達が暴走したものだと思われていた。


  しかし、俺達がアイン達を救出した事で、それが間違いであることがわかる。城塞都市フェルドが受け入れた難民には、ケンプ王国の王族、第三王子ヨーダルがおり、それが、敵の総大将の名前だった。


  アインによると、ヨーダルは当初とても真面目に難民達をまとめ、アインの父や街の人達とも友好的だったという。しかし、わずか二週間前に唐突に牙を剥いた。


  共に難民として街に入った兵と、ヨーダルに賛同して裏切ったフェルド兵の一部と組んでクーデターを起こし、アインの両親や重鎮達を殺害、貴族の子弟を捕虜にして街から物資を奪いとり、カルミアに向けて出陣したのだ。


  そして、途中の村や集落を襲っては略奪を繰り返し、あまりの非道に反発した兵達を皆殺しにし、山賊やチンピラで穴埋めをしながらここまで来たらしい。


  不思議な話だ。何を考えているんだコイツらは? そんな事したら完全に孤立するだろう。自分達の国を失って自棄になったわけでもあるまいに。それにフェルド兵すら仲間にいるってのはどういう訳なのか、全く理解できない。


  略奪をしながらカルミアを目指すのは、この街の領主が居ないという情報があればそれほど不思議ではない。領主と跡継ぎが居なければ、護衛として精鋭も居ないというのは想像できる。


  領主の留守を狙い、速さのみ求めた結果が略奪だ。後顧の憂いを残さないために皆殺しにする事もあるだろう。だが、カルミアを取ったその後は?


  カルミアを取られたハルハナ王国が激怒して、全軍で攻めて来るくらいは想像できるはずだ。恩を仇で返されたんだ、戦わない選択肢など無いだろう。


  もし、ハルハナ王国との交渉のために貴族の子弟を捕虜にしたんだとしても、果たしてそれだけで国が交渉に乗って来るだろうか?


  無理だ、確実に裏がある。あいつらには、どうあってもカルミアを落とす理由があるのだろう。


「敵について解っている事は以上ですが、ユーイチ殿、何か聞きたい事はあるかな? 」


  一通り話終えたタリフが聞いてきたので、俺はそれに答えた。


「まず聞いておきたい。俺達はこの地域をまったく知らないんだが、援軍は来るのか? 」


  協力する立場がハッキリしたので、俺は敬語を使うのをやめた。出来るだけ対等な立場に居ないと、使い潰される気がしたからだ。


「援軍は、来ないでしょう。この街は国の端であり、王都からはかなり離れた地にあります。ここから王都まで伝令を飛ばして一週間、王都から援軍が来るのに一月はかかります。とても間に合いません」

「この街の近くに、軍を持った貴族とかはいないのか? 」

「いることはいます。ですが、助けには来ません。助けに来たとしても派閥の違う貴族達が相手になりますので、後々の敵を作る事に成りかねません」


  派閥争い。彼らの国は今、第一王子派と第二王子派で派閥争いをしている真っ最中だそうだ。王様が死にかけており、次の王座を狙って争っていると。


  この地の領主であるムース=ルイツバルト辺境伯と、その後継者であるヒリムス=ルイツバルトが、わざわざ軍を率いて王都に出向いているのも、この辺に理由があるわけだ。


  彼らルイツバルト家は第一王子派で、ここから王都までの間を治める三つの貴族は第二王子派だと言う。孤立してんじゃねーか! と思ったが、貴族家としての大きさが全く違うため問題無かったのだと教えられた。今は大問題なわけだが。


  …………あれ? 敵の目的がこの街なら、黒幕は第二王子で決まりなんじゃないのか? 第一王子派の力を削ぐためとか有りそうだ。敵の大将が密かに第二王子と通じていればあり得るよな。


「……援軍が来ないのはわかった。じゃ外にいるのはなんでだ? なぜ籠城しない」

「容易に突破されてしまうからです。この街を囲う壁は、モンスターの侵入を阻むのが目的で、大魔法には耐えられません。壁を壊されては、モンスターから作物を守れなくなってしまうのです」


  説明によると、カルミアを囲う壁は、領主の力があって初めて機能を発揮する代物なのだという。領主が居ない今は、かろうじて壁として存在しているに過ぎず、ちょっと強い魔法が当たれば、簡単に崩れてしまうらしい。


  そして、この地の西側は険しい岩山が広がっており、王都に行く道はその岩山を貫く渓谷しか無いと言う。


  当然、物流は悪く、この街は食料をほぼ自給自足で賄っている。唯一、隣国のケンプ王国とは取引があったが、ボルケーノドラゴンのおかげで国は滅び、戦争にまで突入している。


  この戦争で壁を壊され、モンスターから畑が守れなくなれば、食料は森の恵みだけになるが、森は危険な上に、街全体を賄える食料を得るのは困難だ。


  つまり、壁が無くなり畑をモンスターから守れなくなったら、将来的に多数の民が飢えて死ぬ。


  普通に戦って勝つのは難しい。籠城しても勝つのは難しい。街ごと逃げても追い討ちされる。だから、街の住民を裏から逃がしつつ、街の外で戦うと。勝てば全てを守れる、負けても住民の大部分を逃がせる。


  負け戦で命をかけるなら、未来がある方にかけたいって事か。


「…………今なら敵に兵糧は無い。ここまで略奪しながら来てる以上、あいつらは補給も出来ない。籠城しちまえば勝ちなんだけどな」

「良いではありませんか雄一様。我々がいる以上、そうそう負ける事はありません」

「お前…………」


  楽観的なセバスニャンに文句を言おうとしたが、慌てた様子の兵士が駆け込んで来たために言えなくなった。


「敵が動き出しました!」

「なに!? 」


  この場いた部隊長達が慌てて外に出て行き、俺達もそれに続いた。


  敵陣が見える位置まで来てみると、遠くの方に僅かに土煙が見えた。


「ふむ、一部隊がゆっくり前進していますな。はて、なんのつもりでしょうか? 」


  セバスニャンには豆粒よりも小さい敵がハッキリ見えているようだ。俺はスマホのカメラを起動し覗きこむ。


  確かにセバスニャンの言う通り、前進しているのは僅かに一部隊だけだ。それも、横一列にならんで前進している。


  カメラの機能を使いズームしていく。性能がただのスマホとは全然違う。デカイ望遠レンズでもつけているかのようだ。


  ハッキリ見えた敵は、全員がローブ姿だった。そしてその手には、杖が握られている。やがて、全員の前に魔方陣が浮かび……。


「あいつら全員魔法使いだ! 魔法が飛んでくるぞ!! 」

「盾部隊! 構えーー!! 」


  俺の言葉に、部隊長の一人が声を張り上げ、大きな盾を持った兵士達が集まって来た。


  敵陣がチカチカと光り、魔法が飛んでくる。遠く離れているからか、威力も速度もない火球や氷が、ギリギリでこちらの陣営まで届いた。


  大きな盾を持った兵士が慌てて防ぐが、いくつかの魔法が近くの天幕に着弾して穴を空ける。火球によって燃える天幕もあった。


「クソ! 天幕の火を消せ! 」

「魔法部隊! 奴らに打ち返せー!! 」


  命令を受けた魔法使い達が魔法を放つが、敵には届いていなかった。敵から少し離れた位置に着弾している。


「魔法を撃った後、すぐに後退していましたな」

「敵の狙い通りって事か」


  それから、時間を置いては同じような小競り合いが繰り返された。


「明らかに消耗狙いだな。それにしても、敵に魔法使いが多すぎないか? それとも、こっちが極端に少ないのか」


  小競り合いとは言え、魔法を使えば魔力は減る。敵側はまだ魔法を元気に放ってきているのに、味方の魔法使いには魔力切れが目立ってきている。


  魔力回復のポーションで凌いではいるが、何時まで持つのやら。


  これは魔力の差と言うよりも魔法兵の数の差だろう。


「ケンプ王国の第三王子ヨーダルは、魔法使いを集めた部隊を持つという噂がありました。敵の大将がヨーダルだとすれば、敵の一割が魔法使いでも不思議はありません」


  いつの間にか後ろに居たメルサナが解説をしてくれた。つまり、敵兵の内200~300人が魔法使いって事もあるのか、厄介な事だ。


  俺は、まず敵の魔法使いの数を減らす事に決めた。

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