新月が視えたのだから、いってみたいことがある
どうけⅡ(呼びかけ)
《目に見えない
愛はたしかに募りだし
瞳を光らせてるんじゃないかな》
うつむくと、
「もう、元気を出して」と肩を叩かれ
光の加減ではなく
ほんとうに輝く瞳が濡れている、
あなたの濡れてる瞳をみると
照れてしまってなんだかへんな笑みがこぼれる。
長い時間をかけて
隠してきた想いが僕の目に浮かんでいないか、
気になってしまってろくな会話もできないよ。
小さな唇がひらく瞬間、
それは花のような美しさなんだけど
思わずついてしまう、ためいき。
いや。
奪いたいわけではないのです。
ピエロのままで、いいのです。
貴女のおそばに置いていただける、しあわせ。
けと。貴女は、
ずーっと、月をさがしている。
けっして視えない、
新月を。
僕は道化として、貴女を笑わせるのがしごと、
笑わせられないのなら、ここにいる意味もない。
野獣を王と仰ぎ、
その妻たる「美女」へ
それは胸に秘めたほんとうの気持ちを
けっして告げてはならない、誓いを
出会ったときからみずからに課した、
お二方への罪をおかしてはならない。
聖女の心をを穢すことだけは、
しない、誓いだ。
秘めている
そして、秘めたままでいるから
ここにいられる、きっと。
生前、一度、野獣と名のる王に
わたしが死んだら、あの人は
世界のすべての人をひざまずかせるだろうと
きいたことがある、
僕だけにいってくれた言葉。
その通りだと思う。
そして、世界は、そうなっているよ。
見上げると、
夜空に新月がみえる。
あゝ、そうか。
光の星々の海を、真っ黒な闇が進めば
その円環は、
新月のすがただったんだ、知らなかった。
雲も流れ過ぎて、晴れ渡り
黒い円環が、もっとも清らかな吐息を
寂しげに吹きかけて来る。
だから、僕は、あの王のいうことだけを、
いつまでも守る
守りつづける、たとえば、ピエロとして。
そして、だけど、あの王だけが許されていた
「エレオノール」という呼びかけを、
聖女に、してみたい
してみたいと、それだけはおもってしまうんだ
今夜は新月が視れたから、
そんな風に勇気を出しても
天の王も許してくれるかもしれない
ねぇ、「エレオノールさま」?
「エレオノールさま、
おやすみなさいませ」