第7話 ダイヤモンド 【挿絵あり】
※挿絵があります。
〈石使い〉のスキルその3。
アイテムや素材の持つ特性を高めることができる。
SSランクで三倍まで。再使用には時間がかかるが、破格の強化倍率だ。
※ただし石(以下略)
マジックアイテムの素材となる鉱石や金属には、細かい『特性』が設定されている。
現実世界――地球に実在する宝石など――をモデルにしていたり、ゲームのオリジナルだったりと様々だ。〈ダイヤモンド〉は最高レア素材だけあって有益な特性を複数持っている。
俺が〈特性強化〉で三倍にした特性は『火属性の威力アップ +2ランク』
つまり、〈ダイヤモンド〉と組み合わせたアンナさんのFランク火魔法を『6ランク』上昇させたことになる。
SS 【S】 ← 【A】 ← B ← C ← D ← E ← 【F】
敵の〈火耐性〉ランクAを撃ち破る攻撃アイテム、Sランクの〈炎の矢〉が完成だ。
グラフハウンドのボスにつきささった矢は、体液の強酸で威力を落とされることなく、その体を内側から焼き尽くした。
「――ふう」
モンスターの絶命を確認し、胸をなでおろす。残っていた子分たちは一目散に逃げ去った。
「よかった。戦えた」
二人の召喚士と岩陰の鉱員たちは神妙な顔で立ち尽くしている。俺は、ファイヤーボールを出した時のポーズで固まっているパートナーに声をかけた。
「アンナさん、サポートありがとう。お疲れ様」
「はっ!!」
彼女はまるで催眠術が解けたかのように我に返った。
「歩さま! おけがはありませんか!?」
「大丈夫。何ともないよ」
思った以上に魔法やスキルを上手く扱えた。
「ああ……、よかったです」
「それよりも君、ちゃんと戦えたじゃないか」
「え?」
「頑張ったな。ここにいるみんなのピンチを救ったのは、君の火魔法だ」
「……!」
大きく見開かれた碧色の瞳がうるみ、大粒の涙があふれ出した。
「違います……! 私じゃありません! 歩さまが、歩さまが……! ううっ、ずびっ」
おいおい鼻水を拭きなさい。
ハンカチでも持っていなかったかとポケットを探っていると、思い切り抱きつかれた。……まあ、いいか。
〈ダイヤモンド〉はめったに手に入らない鉱石素材だ。使い道は、難関ダンジョンの最深部にいるボスと戦うための“とっておき”にするか、俺のようにもったいなくて使えず持っているだけのどちらか。
間違ってもグラフハウンド程度には使用しない。
でも、今の戦闘が使い時だったんだと思う。
アンナさんの髪はファイヤーボールで焦げたのか、少しチリチリになっていた。
◆◆◆
「いやー、やっぱあの家に助けを求めに行って正解だったぜー!」
鉱員たちは清々しい掌返しをかまして仕事場の鉱山へ戻っていった。鉱山の男たちが元気で何よりです。
街道にはグラフハウンドの亡骸がいくつも転がっている。
「それじゃあ素材アイテムを採取するか」
「はい、お手伝いします!」
「ありがたいけど、たぶんそんなにやることないぞ」
俺たちが倒した敵のボスから、質の良い鉱石素材〈石墨〉を選んでバッグにチャージする。〈ダイヤモンド〉は酸には耐性があるが火耐性は持っていない。燃え尽きてかけらも残っていなかった。
ちなみに、採取できるアイテムにもジョブごとに得意分野がある。〈石使い〉は当然、鉱石や砂や化石の選別名人だ。そして石以外の採取はもれなく不得意なので、離れた所で気まずそうにしている少年魔道士と少女剣士に譲る。
「おーいそこの二人、何か必要な素材があったら持っていかないか? まあ、ほとんど炭だけど」
少年の方が「いいのかい?」と顔を輝かせたが、少女が止める。二人は少し話し合ってから近づいてきて、感謝と謝罪の言葉を口にした。
「私たちに使ってくださった回復アイテム、相当に吟味を重ねた逸品と見ました」
「初対面で、しかもけっこう酷いこと言った僕たちのためにあんな良いもの使えるなんてさ。すごいよ石使いくん……」
品質に関してはスキルのおかげでブレがないから、たいした吟味はしてないんだ。かしこまらないでくれ、照れる。
「しかもあの状況なら、グラフハウンドのボスを〈炎の矢〉で貫くだけで討伐は完了した。なのにあなたは私たちの安全確保を優先して手数を増やされましたね」
「ありがとう。なんて優しい奴なんだ君は!」
「正直、〈石使い〉というジョブに偏見がありました。改めます」
「うんうん、アイテムも使い方次第なんだねえ」
「そう思ってもらえるのはすごく嬉しいよ」
二人はアンナさんにも謝罪をすると、自分たちが倒した分の戦利品も放棄して帰っていった。タイプは違うが、根はいい子たちみたいだ。これを機に〈石使い〉に興味を持ってくれたらいいな。
できたら転職してやってみてくれないかな。〈石使い〉って本当に面白いから。生成パターンとか細かくて最初は面倒だけど、スキルSSまで育てきるころには全部頭に入ってるから。
俺の脳内にぎっしり詰まった石使いうんちくが疼きだす――。
『石使いの情報なんて価値ゼロだっつーの』
あ、トラウマ蘇った。やめてください、なんでもしますから。
自分で採取できない素材は回収・配送サービスを頼む。
倒したモンスターに召喚士の登録番号――ゲームだった時のユーザーID――を魔力で焼き付けておくと、専門職の人が採取して保管までしてくれる。手数料を払えば〈ホーム〉に届けてくれたり、売却した金額を振り込んだりしてくれる便利なサービスだ。
ゲームではメニュー画面で依頼ができたのだが、メニュー画面がなくなっているので無理らしい。いちばん近い鉱山の営業所に寄ってから〈ホーム〉へ帰ることにした。
「ごめん、余計に歩かせちゃったな。疲れただろ?」
「いいえ、ちっとも」
ちっともってことはないだろうが、アンナさんは俺の斜め後ろを遅れることなくついてくる。
「それから、いろいろとごめん。ありがとう」
「はい、私こそ。本当にありがとうございました」
何が、とはお互い言わず、そのまま黙って歩き続ける。
ゲームで毎日のように見ていたバルタルークの日が暮れていく。広がる平原、遠くに見える森と山並み、神殿と城のある街、そして近づく〈ホーム〉。
「やっと家についた」
「……ただいま、ですね」
「うん、ただいま」
明日目が覚めたら元の現代日本で、「やっぱり夢だったんかい!」となったとしても、この世界から目を逸らすことはやめよう。そう決めた。




