第58話 不可解な戦法
討伐隊がキャンプを張っていたポイントは、本当に同じ場所かと疑いたくなるほど、様変わりしていた。
森は広範囲にわたって焼き払われていて、山火事が鎮まった後のようだ。
そしてあちこちに、ブラッドに倒されたと思われるランドキッカーが横たわっていた。
ただ、全てが限り同じ有様、というわけではない。
炎で焼かれた亡骸もあれば、刃物による傷が致命傷に見えるものもあるし、関節技を極められたような、不自然な体勢のものもあった。
「ブラッドは今、どんな使い魔を召喚して戦っているんだ」
生存しているモンスターはまだ見当たらないが、鳴き声のような音だけは聞こえてくる。
魔力探知用アイテムは、ざっくりとした結果しか表示しないので、『このポイントのどこかに、モンスターがいる』ということしかわからない。
「アンナ、行けるかい?」
「全然、問題ありません!」
強がりも含んでいるだろうが、隣に立つアンナの声には覇気がある。
彼女に周囲を警戒するよう促し、大声でブラッドに呼びかけた。
返事はなく、姿も見えない。
「ブラッドさん、大丈夫なんでしょうか」
「聞こえているけど、返事をしないだけだと願おう」
その時、焼かれていない樹々の奥で、何かが光った。
「何だ?」
続いて、同じ地点に何本も、細い雷が落ちる。
「ブラッドか?」
ランドキッカーに、雷を操る能力はないはずだ。
数秒間があり、針葉樹の陰から、ひとりの召喚士が飛び出した。
うしろを気にしながら走ってくる。
「歩さま、ブラッドさんです!」
「ああ、よかった」
改めて、ブラッドに大丈夫かと呼びかける。
が、銀髪の魔導士はこちらを見て、急ブレーキをかけた。
まさか、このパターンは……。
「おいこら、ブラッド!」
予感が当たった。
ブラッドは何も答えず、ルートを変えて俺たちから離れていく。
「無視するな! ランドキッカーは? イレギュラーはどれだけ残っているんだ!」
「ブラッドさん! 私たち、加勢に来たんです!」
やっと、ブラッドは足を止め、振り返った。
「加勢なんて、要りません。あなたたちと共闘するなんて、死んでもごめんだ」
言われると思ったよ。
しかし、「じゃあ勝手にしろ、さようなら」とは口にできない。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。君、ぼろぼろじゃないか!」
明け方の薄暗さでもわかるほど、彼の衣服は汚れている。
柄の長いロッドを両手で持ち、地面を突く。
ふらついたのを、支えたようだ。
「君の使い魔はどこに?」
尋ねると、口元をわずかに動かしたが、声は届かない。
多分、「うるさい」か、「鬱陶しい」のどちらかだろう。
ブラッドが出てきた樹々の辺りが、再びざわめき、一目でイレギュラーとわかる大きさのランドキッカーが現れた。
ぞろぞろと、七体も。全員、馬ほどの体長、体高だ。
通常個体はいない。
集まった者が全員倒されたのか、精鋭以外、撤退したのかは、判断できない。
七体は足取りがおぼつかないようで、蛇行しながら、ゆっくりとブラッドの方へ進む。
「え、どうしたんでしょう?」
「さっきの落雷だよ」
あの七体を感電させて、動きを封じていたんだ。
では、その雷を操った使い魔は?
それともアイテムか、魔導士のスキルか。
ブラッドを見ると、召喚のための魔法陣を展開していた。
「追加で誰か喚ぶのか?」
円陣から光の柱が立ち、中から、“水”の体を持った精霊が出現した。
水の精は<水流>を放ち、麻痺から回復していない魔獣たちを、20メートルほど後退させた。
スキルの威力からすると、水の精は、まだ契約して間もない、強化がほとんど進んでいない使い魔だろう。
ブラッドが、バッグから何か取り出して、使い魔に渡した。
何なのか、までは遠くて見えない。
また<贈り物アイテム>かな。
そう思ったのもつかの間、何か受け取った水の精は、そのまま帰還してしまった。
「は? 一発撃たせて、即帰してしまうって何だよ!」
声は聞こえているだろうが、ブラッドは無視して次の召喚に入っている。
「今、どの使い魔と組んでいるかだけ教えろ! ブラッド!」
俺の手持ちアイテム、特に攻撃系には余裕がない。
だから、召喚士側の面子を把握した上で、使い所を見極めたいんだ。
新しく召喚されたのは<ファイアクロウ>。
少年魔導士コールの相棒とは別個体だ。
使い魔は<炎の風>で、魔獣たちの体をわずかに焦がす。
そして召喚者に何か渡され、帰還した。
次は羽虫の大群が召喚された。
この使い魔は、一つの集団で、一体とみなされる。
群れは<羽音>でランドキッカーの足並みを乱し、ブラッドに何かもらって帰還した。
「召喚したまま戦えばいいじゃないか。なぜ、いちいち帰してしまうんだ」
「あの、ちょっといいでしょうか」
アンナが控えめに手を挙げた。
「ブラッドさんのやっていること、歩さまと似ていませんか?」
「え、俺と?」
ブラッドが似ている? まさか。




