第53話 アンナマリーの嫉妬
サポートメンバーと別れた俺は、ブラッドのいる、キャンプを張っていた場所から距離を取り、アンナを召喚した。
「歩さま! お待たせいたしました、ご無事ですか!」
俺のパートナーは、魔法陣煮立った光の柱を、こじ開けるように現れた。
普段は膝下まであるワンピースを着ていることが多いが、今日は動きやすそうな、ショートパンツをはいている。
「落ち着け、アンナ」
「はっ! そうでした。私ったら、はしたない!」
アンナは光に包まれたまま、俺に背を向け、思い切り頭を下げた。
「初めまして、私はアンナマリーです。あゆ……、石使いアルクの元で、使い魔をしております。仕事は主に、備品管理やファイヤーボール作りで、戦闘技術はみなさんより、劣りますが、パートナーのアルクはアイテムを使わせたらそれはもう――」
「アンナ、いいから。前を向いてくれ」
「え? はい」
ランタンで、周囲を照らしてやる。
やっと、彼女は周りに誰もいないことに気づいた。
「へ? あの、なんで……、まさか、歩さま以外、全滅……」
「してないよ」
「はあ、では一体?」
「うん、俺、討伐隊を、クビになってしまったんだ」
「ええっ! クビですか? 戦力外通告ですか? そんなのおかしいです、節穴です。ちょっと責任者の方……あ」
彼女にはホームで、この探索を率いるのが、首席召喚士のブラッドであると伝えている。
「ブラッドは、韮澤悠里さんだった。知ってるだろ?」
「……はい。すみません、私」
「謝らなくていいさ」
女神の時に知った、プレイヤーの個人情報を、今の彼女が口にすることはできないのだろう。
誓約違反になるというのは、充分、理解できる。
「でも私、お伝えしようと思えば、できました」
「あれ、そうなの?」
「はい。多少の罰は受けますけど」
「だろ? だから、言わなくてよかったんだよ」
罰といえば、俺やバルバラさんがやられた、あの雷撃だろう。
あんなもの、絶対に受けるべきではない。
「もっと早く、知りたくはなかったですか?」
「韮澤さんのことを?」
「はい。同じ会社で、仲良くされていた方ではないのですか?」
仲良く……。
「いやいやいやいや! 仲良くしていた方じゃないし、今も仲良し度ゼロだから! だってほら俺、こんな夜中に部隊を放り出されてるし! 仲良しな人間のやり方だと思うか?」
俺はアンナに、討伐隊を離れた経緯を話した。
現代日本での情けない失恋と、他の召喚士が、俺たちの関係をいかがわしいと責めたことを省略すると、非常に短く説明できた。
つまり、単なる方向性の違い。
それで彼女は納得してくれた。
「そういうわけなんだけど、仕事は仕事だ。ここからブラッドを援護する」
「はい!」
俺はバッグから、魔力探知用のアイテムを取り出し、起動させた。
「南西の方角に、魔力の集合体がある。キャンプの場所とも一致するし、ブラッドは、ここで戦っているんだろう」
反応を注意深く見ていると、集合体は、しわじわと大きくなっているようだ。
モンスターが倒される数<増援の数ってことになるぞ。
「うーん、これは、何がしたいんだ? この場所に、モンスターを集めるだけ集めて、大技で一網打尽にしたいのかな? ブラッドが好きそうな戦法だ」
「……そうですね」
アンナも考え込む。
「けど、そんな余裕があるのに、サポートメンバーを先に帰したりするかな?」
「ええと、私には、よく……」
まさか、余裕ではなく、苦戦?
「――んなわけないか。大丈夫だろう。最強火力と、魔力タンクの使い魔がついてるんだから」
「三柱の戦女神さん、エンペラーワームさん」
「そうそう。あのメンバーで、負けるってことはないから。俺たちは念のため、ランドキッカーの一部を引き付ければオッケーだ」
「わかりました」
俺の胸に貼っていた、<ナナカマドシール>が効力を失い、消えていく。
「……あの、歩さま」
アンナがつぶやいた。
表情が、少しだけ暗いように見える。
「歩さまも、ゲームだった時は、戦女神さんや、エンペラーワームさんと、よくご一緒に冒険されたんですか?」
「ああ、そうだな。ここぞという時には欠かせない使い魔だった」
あと、シルフィードも。あらゆるクエストに連れまわした。
「そう、ですよね。じゃあ、もし歩さまが、ギフトを選べていたら――」
「アンナ、危ない!」
俺はアンナの手を引き、背に庇った。
彼女の後ろに、何本もの植物の蔦が、だらりと下りてくる。
見上げると、食虫植物を巨大化させたようなモンスターが、四体、樹の幹に絡みついていた。




