第51話 首席召喚士、使い魔に総スカンを食らう(下)
くだらない絆ごっこより、強さと報酬を重要視する魔女。
自分の求める、大当たりの使い魔に、ブラッドは興奮を隠して話しかける。
「大変好ましい条件です。俺は、あなたのような方をお待ちしていました」
「そういうセリフも、要らないのよ」
「失礼。では、早速、契約を交わしましょう」
「ええ、いつか、あなたが強くなれた時、私が、誰のものでもなければ、ぜひ」
「は?」
魔女が、ほほ、と小さく笑う。
「金品の香りは、とてもよいのだけれど、あなたの魔力、なんともまあ、心もとない。エンペラーワームクラスの駒を、持っていないのでしょう?」
「それは……」
「私は、強い同僚も、求めます」
「――今後、そのクラスを、手に入れるあては、ある」
ブラッドの拠点、<ホーム>には、強力な使い魔を召喚する確率が上がる、<触媒>というアイテムが大量に保管してある。
各種触媒は、ゲームのプレイ過程ではめったに手に入らないが、リアルマネーさえ払えば、好きな時に補充できた。
韮澤悠里が、稼いだ金で、集めておいたものである。
「残念だけれど、今、条件がそろっていなければ。当てはまらない者はみな、私にとって、最低ランクの召喚士なのです」
他人に言われる日が来るとは思いもよらなかった言葉が、ブラッドの体を熱くした。
「持っていた……! 持っていたんだ。エンペラーワームも、三柱の戦女神も!」
口にして、激しく後悔する。
完全なる、負け犬のセリフを吐いてしまった。
「ほほほ、すごいわ。その時に、お会いできれば、よかったわ」
魔女は、全く信じていない様子で、「ごきげんよう」と笑って消えた。
ランドキッカーが、しつこく湧いてくる。
ダンジョン内の個体が、一体残らずテレパシーで繋がってでもいるようだ。
まだ、強い使い魔は引けない。
ブラッドは、最後の魔力補給を行った。
最低限のコストで召喚用の魔法陣を作っても、ブラッドが求めるクラスは、絶対に出現しない。
しかし今の魔力量で、しかも、ルール違反をする使い魔を引いてしまう可能性もある状態で、一か八かのコスト投入はできない。
では、どうするか。
「使い魔の吟味は、一旦やめだ」
魔法陣を展開する。
使用魔力は、最低限で。
力の弱い者でいいから、次々に契約して、補助魔力を得る。
使用できる魔力の上限をある程度上げたら、コストを少し増やし、強い使い魔を狙う。
そうやって、戦力を増強する。
「ゲームと同じだ」
初心者だったころと、同じだ。
魔法陣に、小さな反応が見え、現れたのは、蝶の羽を持った妖精だった。
ブラッドは心の中で、「弱すぎる」と、ため息をつく。
この妖精は、強化していない今の段階では、通常攻撃と、<石化の鱗粉>という、成功率の低いスキルしか使えない。
ただの補助魔力要員だ。
雀の涙ほどでも、ないよりまし。
そう割り切り、契約を結ぶべく、紳士的に声をかけた。
「誰よ、アンタ!」
ところが、なぜか妖精は怒っている。
「一瞬、アイツのニオイがしたと思ったのに、いないんですけど? はあ、もー、貴重なバイトの休憩時間なのにー!」
使い魔は、それ以上ブラッドと言葉を交わすことなく、帰還した。
召喚の光が消えると同時に、視界の左端に、一体のランドキッカーが映る。
続いて、右わき腹に、鈍い衝撃。
「うぐっ!」
右腕と、胴の間に、大きな獣の頭。
左半身は、樹の幹に押し付けられた。
ブラッドは、どうにか手放さなかった長いロッドを、地面に突き刺し、体を捻り、獣の体を蹴って飛びのく――。
「えっ?」
はずが、空中で、ぐいと引きとめられた。
「マントが……!」
バランスの悪い体勢で、地面に落下する。
足元まであるマントが、ランドキッカーのあごに、捉えられていたのだ。
「くっ……、魔脈、発破!」
獣の足元から、風の刃が噴出し、その体を何度も切りつけた。
<魔脈発破>とは、地中を流れる、魔力の細い流れに、魔導士自身の魔力で働きかけ、様々な効果を起こすものである。
今、使用したのは、風属性の魔脈だ。
スキルのランクが低いうちは、なかなか、使用できる流れを見つけられないが、SSのブラッドならば、常に二、三本は確保していられる。
貴重な魔力を消費して戦闘不能にしたランドキッカーは、通常より、一回り大きい。
獣の口から解放されたマントをたぐり寄せようと、手を伸ばしたブラッドは、あることに気づいた。
「戦法が、変わった」




