第50話 首席召喚士、使い魔に総スカンを食らう(中)
光の中から現れたのは、岩と砂でできた体の、巨大なゴーレムだ、
体高は、ブラッドの倍ほどもある。
「サンドゴーレム」
まずまずの引きだ。召喚士は口の端を上げる。
ゴーレムは召喚者の支持も待たず、大声を上げながら、ランドキッカーの群れに突進した。
「うおおおお! 召喚士殿、我らが一族の勇姿、とくとご覧あれえー!」
そして獣たちの前で止まり、拳を地面につけ、相撲の立ち合いのような体勢を取る。
そのまま両腕で、土を掬い上げる動作をすると、金色の砂が舞い上がり、大きな竜巻を作って群れの全てを飲み込んだ。
「そんでもって、熱砂じゃあーっ!」
砂はたちまち赤く輝き、高温を発する。
やがて、どこへともなく砂が消えてなくなると、解放された獣が次々に倒れた。
踏みとどまれたのは、イレギュラー一体だけだったが、ゴーレムの角ばった腕に捕らえられ、すぐに仲間のあとを追った。
「やった! 我輩、やったぞい!」
両の拳を打ち鳴らしながら、ゴーレムが召喚者の方へ振り返る。
ブラッドはモンスターの残存反応を確認してから、使い魔に近づき、挨拶した。
「まだ契約前だというのに、よくやってくれた」
ゴーレムは、声の主を視認すると、なぜかあごを大きく開いた。
口の中には砂が流れている。
「あ、あれ? お前さん……」
「初めまして。俺は魔導士のブラッドだ。あなたを、このバルタルークへ招いた召喚士――」
「何が初めましてじゃい!」
ゴーレムは突然、すごい剣幕で怒鳴り出した。
「お前さんに会うのは、二度目じゃ! 首席の魔導士!」
「え、二度目? い、いつ、だっただろうか」
「あれは、よくわからんが、仲間連中、軒並み召喚士と縁が切れてしもうて、新しい出稼ぎ先を探しとった時よ」
ということは、<契約破壊>の後、転移してきてからの話だ。
「なんとまあ、我輩、神殿の首席から声がかかったっつーことで、こいつは名誉なこと、いざバルタルーク! と、魔法陣に下り立ったわけよ。故郷に錦を飾る時が来た、なんて思いつつ」
召喚される使い魔は、ある程度、召喚士の情報を感じ取れるようだ。
「ところがじゃい、ところがよ! おっとり刀で、はせ参じた我輩を見るなり、お前さん、何と言った?」
全く憶えていないブラッドは、無言で見つめ返すしかなかった。
「舌打ちしてからの、『要らない、帰還してくれ』じゃい、このもやしっ子がー!」
錦だの、もやしだの、石の体に似つかわしくない言葉でまくし立てられながらも、召喚士は冷静に考える。
あの時点では、サンドゴーレム程度の使い魔は要らなかったのだから、しょうがない。
手軽に召喚できる者の中では強い方、というレベルでは、首席の戦列に加えられないだろう。
ギフトで残した使い魔たちのように、最強クラスかつ、入手率が恐ろしく低いのであれば、いずれ強化して使おうと思えたが。
「しかし、サンドゴーレム。今はあなたが必要だ。改めて、契約をしよう」
「はあぁ?」
ゴーレムの口から、砂がこぼれた。
「なぜに、この流れで、契約すると思える!」
「何だと?」
「するかい、そんなもん! 即、おさらばじゃ!」
「ならば、なぜ現れた! いかにも喚ばれて光栄だという風に、パフォーマンスをして」
「相手がお前さんとわかっとったらな、そもそも応えてないわ! 勘違いに決まっとんじゃろ」
「何を勘違いすることがある」
「そりゃあな」
ゴーレムが自慢げに胸を張る。
「伝説の、最高レア召喚士、石使い様じゃい!」
「……石使い、サマ」
ブラッドは、目が半開きになった。
「五年前、我らの長老が、幸運にも石使い様に召喚され、契約することができた。その日からことあるごとに、かのお方の素晴らしさを聞かされたんじゃ。そんで! 今日、話にあった石使い様の特徴と、よーく似た魔力が、かすかに魔法陣から漂った! 我輩、確かに感じ取った! その興奮で、お前さんの存在に気づけんかった。我輩の馬鹿!」
頭上から、ぱらぱらと砂が降ってくる。
「この近くに、絶対いらっしゃる! 石使い様は、どこじゃい。首席の!」
「知らない。会ったこともない」
「おおう……。首席の魔導士でも、会うことが叶わぬ、幻の存在。石を愛し、石に愛された――」
「うるさい。即、帰還しろ。戦わない使い魔に、用はない」
「言われんでも! あ、もし石使い様に会えたら、我輩のことを宣伝しておくように」
「するか、馬鹿馬鹿しい」
騒々しいゴーレムは、まき散らした砂とともに消えた。
「なんて無意味な時間だ」
次に首席召喚士の前に現れたのは、シースルーの布を多用した装いの、魔女だ。
妖しげな笑みを浮かべた魔女は、召喚者を見て、「あら、美しい人間だこと」と言った。
「けれど、私は、美しさも、人柄も、どうでもいいの。ただ、ひたすら強く、報酬を惜しまない主に使われたいわ」
ブラッドは、やっと、まともな使い魔を引いた。




