第44話 討伐隊、追放
「使い魔を、恋人に?」
「マジかよ!」
「都市伝説かと思ってたけど、本当に、そんなことやるやつがいるんだなあ」
俺を奇異の目が取り囲む。
ブラッドが、まさかそんなことまで、この場で言うとは思わなかった。
心に据え付けたばかりの冷静さが、ばらばらになって飛んでいきそうだ。
「ち、違……」
そうじゃない。俺とアンナの関係には、特別な事情があるんだ。
「やだー、気持ち悪ーい! あんな人に助けられたなんて、恥ずかしい!」
「リタちゃん!」
すっかり本調子の少女は、友人がきつく諫めようとお構いなしだ。
新しいネタを得て、他のメンバーの勘ぐりも再加速した。
「すげー強いとか、難しいクエストこなしてる使い魔に憧れる、ってことならあるけどさ」
「うん、わかるよ。知り合いもなんとかってファンクラブ入ってる」
「でもギフトファイアじゃん? 戦えねえじゃん?」
それは、かりそめの種族だ。<妻>だって、本来のものじゃない。
「使い魔と知らずに好きになったってわけでもないしね。自分で召喚したんだから」
「完全に、そのための相手として契約してるよ、これは」
違うんだ。
現代日本で勧誘されて、ギフトがあれで、誓約がそれで……。
だめだ、彼らに何ひとつ説明できない。
「よっぽど人間の女にもてないのか?」
それはその通り。
「モンスターと渡り合うために、使い魔の力を借りるのが召喚術だろ」
「女漁りの手段にするなよ」
「プライドないの?」
「違う……。俺は、そんな目的で使い魔を召喚したことはない――」
いつの間にか下を向いていた顔を上げると、ブラッドの後ろ姿が目に入った。
座ったまま、上半身をひねって、俺たちから顔が見えないようにしている。
しかし、その肩がぶるぶると震えていて、どんな表情をしているのかは、確認するまでもない。
――そうかい。
よかったな、ご所望の展開に辿り着けて。
「おい、石使い。反論はないのかよ」
「首席の話は、本当なんだな」
随行メンバーの……、もう誰でもいいや。
誰でもいいが、うるさいんだよ。
「だったらどうした」
立ち上がり、どなりはしないが、できる限り音量を大にして言った。
「ちなみに彼女は恋人じゃない。妻だ」
全員が、完全に黙った。
ブラッドもゆっくりとこちらを向く。
「使い魔を、家族だと思って何が悪い」
そうだ、俺はなんて馬鹿なことを考えていたんだ。
否定も言い訳も、アンナの捨て身の誓約に対する、侮辱だ。
「金貨を入れれば動く道具と思うより、千倍マシだろ」
近くの小川で、何かが跳ねる音がする。
「金貨を、ですか」
ブラッドが、立ち上がってわずかに首を傾げ、口角を上げた。
直立して向かい合っているというのに、見下ろされているように感じる。
「それはもしかして、俺のことを言っているのでしょうか」
「はは、なんだ。ブラッド、あんた自分でわかってなかったのか」
銀の髪、マント、焚火の炎が風で揺れた。
ブラッドの、貼り付けたような、余裕の笑みはそのままだ。
「アルクさんの考えは、よくわかりました」
賛成9、無投票1。
俺の、討伐隊離脱が決まった。
◆◆◆
賛成多数で追放が決定すると、そのあとの流れは実にスムーズだった。
朝を待たずにキャンプから追い出され、俺は今、暗い森をひとり歩いている。
左手に、自前のランタン。
右手には、帰還ゲートまでの地図。狩人が描いたものの写しだ。
胸には<ナナカマドシール>。貼っていると敵とエンカウントしにくくなるアイテムで、忍術士がくれた。
いくら首席に反抗的な者でも、離脱させたあとにもしものことがあっては、任務の成果に傷がつくのだろう。
数歩先の岩陰に、清水が湧いていて、そこから細い流れができている。
「この流れの先に、ゲートがあるみたいだな」
帰還ゲートを使えば、一瞬でダンジョンの入口へ出られる。
モンスターも使用できるのかは、まだわかっていない。
「はあ、このまま、何もせずに帰ることになるのか」
アンナの出番がなくて、申し訳ないな。
俺を選んでくれたアキヅキさんにも。やることがないどころか、途中退場なんて、情けない。
それから――。
「うっ……」
韮澤悠里。
「うぐあああっ!」
湧き水に両手を突っ込み、何度も顔にぶっかける。
かれこれ二時間の道中、モンスターにはほとんど出会わなかったが、この事実は繰り返し俺に襲いかかり、致命傷を負わせ、行動不能にした。
ランタンを地面に置き、水たまりのそばにうずくまる。
頭の中のもやもやを振り払うように、俺は手近に落ちている枝を、水面に叩きつけた。
すると、夜の色をしていた水が突然、金色に輝きだした。
「うわっ、なんだ? モンスターか?」
右腕のマジックボウに意識をやりつつ、あとずさる。
しかし、水中から何者かが出現することはなく、声だけが俺に呼びかけた。
「待て待て、石使いよ。待ってくれ」
「ん? この声は……」
「わしだ。わしわし」
「……エンペラーワームか?」
直径50センチほどの、輝く水たまりに、エンペラーワームの顔が映し出されている。
「あんた、なんでこんなところに?」




