第41話 予知夢でした
俺の放ったアイテムの一発はリタちゃんに当たり、もう一発は、タマキさんの使い魔ひとかたまりに命中した。
発動した<霧のカーテン>が、召喚士と魚の群れを包み込んで、両者の気配を消し去る。
アイテム<霧のカーテン>
・わずかな時間、味方一体の気配を消し、攻撃の対象にならない状態にする。
・気配が消えている間は、移動以外の行動をとることができない。
ターゲットを捉えられないランドキッカーは、混乱して首を左右に振っている。
俺は再度装填した五本の矢を、無防備な獣の体に撃ち込んだ。
イノシシのような、サイのような魔獣がどうと倒れる。
モンスターの体液なのか、一瞬鼻をつく異臭がしたが、すぐに収まった。
座り込んだままのタマキさんが、肩で息をしながらこちらへ振り向く。
「い……石使いさん……」
「もう大丈夫だよ」
彼女はまるで土下座のように頭を下げてから、よろよろ立ち上がると、友人とパートナーのもとへ急いだ。
泥と苔まみれのリタちゃんを抱き起こして、背中をさすりながら、そばで待機している使い魔を労う。
「みんな、ありがとう。もう戻っていいよ」
魚たちは一列に並んだかと思うと、隊列を変え、人文字ならぬ魚文字で『ピース』の形を作ってから消えた。
なかなか芸達者だ。
「ランドキッカー十五体、全ての絶命を確認。周囲に敵の気配はなし」
「……そうですか」
忍術士の報告を受けたブラッドの目には、怒りの色がはっきりと見て取れる。
ここでようやくタマキさんは、自分のしたことに気づいたようだ。
怯えるリタちゃんを支えながら、半泣きで謝罪するが、ブラッドは二人を見もしない。
縮こまるヒーラーコンビが気の毒になり、俺はまた口を挟んでしまう。
「タマキさんの使い魔が攻撃行動をしたのは、ほんの十秒程度だろう。作戦の範囲内だと思うが」
俺の発言に、「だからあのアイテムを」と反応したのは忍術士だ。
「治癒術士を敵のターゲットから外し、使い魔は攻撃不可能な状態にする。そしてその間に、ランドキッカーをしとめた。……ふむ、賢明かと」
戦闘に関することは、よくしゃべるらしい忍術士を横目で見ていると、突然、エンペラーワームが笑い出した。
「はっはっは。これは興味深い。石使いとは道具の射手か」
ずいぶんご機嫌な様子だ。
「攻撃を外したおかげで面白いものが見られた。たまには討ち漏らすのも、悪くないのではないか? なあ、首席召喚士殿?」
「エンペラーワーム、帰還だ」
ブラッドが使い魔の言葉をきつく遮った。
「これはこれは。恐ろしい顔をしておる」
「何度も言わせるな」
「ふむ、まあよい。目的は果たせたでな」
満足げなドラゴンの体が下から徐々に透け始める。
さっきから、人様のパートナーにちょっかいを出して申し訳ないが、この使い魔が去る前にひとこと、言わなければならないことがある。
「なあ、エンペラーワーム」
彼の言葉には、聞き捨てならない部分があったからだ。
「さっきの討ち漏らし、俺のスキルを見定めるためだとしたら許さないぞ」
「うっ……、むむむ」
ドラゴンはばつが悪そうに唸って消えた。
こちらも気まずいが、次に召喚された際にも、同じようなやり方はされたくない。
ブラッドがソロで探索しているならともかく、今回の作戦では、お世辞にも猛者とは言えない召喚士が複数名、同行しているんだからな。
そして、予期していたことだが、首席の怒りはもう、頂点に達してしまったようだ。
彼のやり方に口を出してしまった理由を、説明してわかってもらえるだろうか。
冷めた目をして、ゆっくりと近づいてきたブラッドは、俺の目の前まで来ると、薄く笑って、ごく小さな声で言った。
「講釈は不要です」
「えっ?」
「何か解説してやろうって、顔に書いてありますよ」
その表情に、俺は総毛立った。この笑顔、この雰囲気は、既視感がある。
「正直、驚きました。ランカー相手でも教えたがりなんですね」
「……なっ、それ……は」
もう、脳が考えを、せき止めておけなくなった。
「本当、鬱陶しいです。Fランクの元プレイヤー、藤江歩さん」
ゲーム内ランキング、十位以内常連。
一位になることも珍しくなかった、憧れのプレイヤー。
ブラッド・P・ハンター。
彼は間違いなく、俺が現代日本で手ひどく振られた相手。
もう二度とお目にかかりたくない相手。
韮澤悠里だ。
「また、バルタルークで会いましょう」
今朝の夢でそう言った、彼女の姿がゆらゆらと変化し、銀髪の見目麗しい青年になった。




