第40話 ゲームと同じではない
使い魔が一掃したはずのモンスターに、生き残りがいた。
そのことに誰より驚いたのは、パートナーだったようだ。
「どういうことだエンペラーワーム! あの技は〝全体攻撃”だろう!」
ブラッドが使い魔に抗議する。
恥ずかしながら俺もそう思ってしまった。
エンペラーワームクラスの使い魔が、ランドキッカー程度を討ち漏らすなんて、ありえない現象だ。
ただし、ゲームだった時には、だが。
「はて、わしも年ゆえな。調子が悪い日もあるわなあ」
「ああ、そういうことか。まったく……」
すっとぼける使い魔に呆れたように、ブラッドはアイテムバッグを漁った。
「出すなブラッド!」
俺は思わず彼の腕をつかむ。
「もう、ゲームと同じじゃないんだぞ……!」
俺の言葉に、ブラッドは目を見開いた。
――やはりそうか。
彼には、ゲームだったという概念がある。
「ああ、気づきました?」
転移した元プレイヤー、ブラッド・P・ハンターは挑発的な笑みを浮かべ、俺の手を振りほどいた。
「もっと鈍感かと思ってましたよ、藤枝さん」
「え」
心臓が大きく脈打ったが、理由を考えてはいけないと脳が判断する。
「なんじゃ、召喚士よ。いつものアレはくれぬのか?」
使い魔はしつこく煽り、ブラッドが眉をしかめて言い返す。
今、この状況で何をしているんだ。
「あとでやれ!」
最強ランクだろうが一位だろうがかまわない。
痴話喧嘩を始めた両者を黙らせた。
エンペラーワームはともかく、ブラッドの苛立ちは相当増幅されただろう。
「で、出てきた……! 生き残りが来るぞ!」
重戦士が叫ぶ。
ランドキッカーが死体の山から這い出し、前足で地面を引っ掻いた。
険悪な二人に気を取られた俺も悪いが、モンスターが自由に動けるようになるまで、サポートは誰も何もしなかったのか?
この随行メンバー、どんな基準で選ばれたんだよ!
魔獣が、仲間の死体と湿った土をえぐるように蹴って、突っ込んでくる。
俺はすぐさま固有武器マジックボウを起動。
「アイテム装填!」
硬度レベルの高い<柘榴石>を素材にした矢をセットする。
いくら鎧のような皮膚を持っていても、至近距離で撃ち込めば一瞬で終わる。
「来い……!」
ところが、こっちへ向かってきていた獣が、急に進行方向を変えた。
「まずい!」
みんなから少し離れて王子の尊さを噛みしめていたリタちゃんに、狙いを定めたのだ。
今から<標的マーカー>を使っても間に合わない。
「や、やだなんで! 助けて!」
「リタちゃん!」
タマキさんの叫びと同時に、リタちゃんはモンスターの体当たりを受けて吹っ飛んだ。
ぬかるんだ地面を滑り、転がる少女を獣が追いかける。
仲間を葬った召喚士の誰かに、確実に報復しようとでもいうような気迫だ。
「くそっ、距離が開いた……!」
俺は矢の本数を増やし構え直す。
が、射出直前、マジックボウの前にタマキさんが飛び出し、友人のもとへと駆け出した。
「タマキさん危ない! どいてくれ!」
「リタちゃーん!」
ランドキッカーが、倒れたリタちゃんの背中にのしかかり、蹄を食い込ませる。
「ぐうっ、た、助け……」
体当たり自体のダメージは少ないだろう。
あのモンスターの一番の武器は、なんでも噛み砕くあごだ。
魔獣が、少女の頭の上で大きな口を開ける。
「リタちゃんを、放せぇー!」
タマキさんが地面に召喚用魔方陣を作り出した。
随行メンバーが大きく動揺したのが伝わる。
いつの間にか、使い魔を喚び出していいのはブラッドだけ、という雰囲気になっていたからだ。
起動した魔方陣から低い水しぶきが上がり、中から20センチほどの魚が大量に現れた。
彼らはひとつの群れで一体の使い魔なのだ。
「治癒術士タマキさん! どういうつもりですか!」
ブラッドがいささか慌てたように指示を出すが、彼女の耳には届かない。
「お願い、みんな! リタちゃんを守って!」
魚たちは一直線に、契約者の友人のもとへ向かっていく。
「使い魔を戦わせてはいけません! 命令違反ですよ!」
少女に食らいつく寸前の魔物に、魚たちが一斉にまとわりついて動きを封じた。
しびれを切らした首席は大股でタマキさんに近寄り、その肩を強く引く。
「ヒーラー、使い魔を下がらせろ」
友達のピンチしか目に入っていなかった彼女は、思わぬ衝撃でよろめき、しりもちをついた。
ブラッド、わめくより先にやることがあるだろう。
俺はアイテムを入れ替え、二発同時にリタちゃんの倒れているポイントに放った。
「な、なんだあれ? あいつ今、アイテムを二個同時に使わなかったか?」
随行メンバーの誰かが言った。




