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第39話 一位派 VS 十位派

 先ほどブラッドがパートナーたちに渡したアイテムは、“使い魔の士気を上げる”ためのものだ。


 何度も戦闘に参加し、疲労やストレスをためた使い魔は、能力が低下したり、召喚に応じなくなったりする。

 そんな時に便利なのが、あれらのアイテム。

 使い魔の好きなものをプレゼントして機嫌をとれば、再び全力で戦ってもらえる。


 ――そう。そういうゲームのシステム、だった。


「タマキさん、大丈夫かい?」


 首席と友人、ダブルで咎められた治癒術士は青ざめている。


「は、はい。すみません、私ごときが、あんな……」

「いや、俺は君の言うことが正しいと思う」

「えっ……、あっ、でも本当に、すみません……」


 指示を聞かない使い魔に好物を与える。

 相手はそれを受け取り、指示に従う。

 事実だけを見れば、ゲームと同じだ。


『ゲームと同じだ』


 この言葉をもって、俺は失態を犯している。

 助けを求めるため家に来た鉱員を、居留守を使い見捨ててしまった。


「首席、十時の方向に<ランドキッカー>十五体を確認。全て通常個体」


 ここまであまり喋ることのなかった、気配探知のプロ、忍術士が敵の出現を知らせた。

 同じくダンジョン内の変化に敏感な狩人(ハンター)が舌打ちする。


 ランドキッカーは、固い鎧のような皮膚を持った魔獣で、姿もサイズもイノシシに似ている。

 このモンスターが異常成長した、イレギュラー個体が今回のターゲットなのだ。


「そろそろターゲットのなわばりに近づいてきたのかもしれませんね」


 ブラッドが右手をかざし、大きな魔法陣を展開する。


「では、手早く片づけましょう」


 苔むした倒木の陰から、複数の獣が飛び出してきた。

 迎えうつブラッドが召喚したのは、<三柱(みはしら)の戦女神>ではなく巨大なドラゴンだ。

 随行メンバーに新たな驚きがもたらされる。


「うおー! マジかよすげぇ!」

「エンペラーワームだ! まさかこの目で拝めるなんて!」

「王子! 尊い!」


 <エンペラーワーム>は竜族だが、手足と翼はない。

 屏風絵に描かれるような、蛇に近い姿だ。

 もちろんこちらも最強の使い魔として挙げられる一体で、破壊力は戦女神に及ばないが、膨大な魔力を保持している。

 そのため受けられる補助魔力も破格である。


『エンペラーワームと契約して、魔力残量の不安から解放されました!』


 バルタルークのプレイヤーあるあるのひとつだったな。

 そして恐ろしいことに、アンナの使い道のない魔力量がそれを上回っている。


 ドラゴンが空中を噛むような動作をすると、地面から太く長い牙が何十本とつき出し、獣たちを貫いた。

 強力な全体攻撃により、決着は一瞬だ。


 随行メンバーが、わっと首席を取り囲む。

 合体可能な戦女神三体に加え、魔力のかたまりエンペラーワームまで行使するなんて、次元が違う。

 ブラッドを称える言葉が乱れ飛んだ。


 実際に攻撃を行った使い魔そっちのけではしゃぐのはどうかと思う。

 せめて帰還してからにすべきではないか。

 浮遊しているドラゴンを見上げると、モンスターの死体が転がる前方をじっと見つめている。

 何かあるのだろうか。積みあがった獣から異臭は漂ってくるが、特に気になる点はない。

 一応、近づいて確認してみようかな。


「さっき偉そうに意見した石使いがいたけど、余計なお世話だったみたいねー!」


 踏み出そうとした俺の背中を、リタちゃんが撃つ。

 彼女はそのままふらふら近くの樹に寄りかかり、両手で顔を覆った。


「王子を信じてよかった……。ありがとうございます……」


 ただ酔いしれていらっしゃるだけだ。放っておこう。

 改めて確認に向かおうとするが、今度は吟遊詩人が俺の足を止める。


「おい、石使い。あんたさっき、『この遠征、無事には終わらない』とか言ってたよな?」


 そこまで怪しい言い方はしていないが、確かにそんな予感はしているよ。

 ざわついたメンバーを、ブラッドが「いいんです」と落ち着かせた。


「石使いアルクさんが俺を信じられなくても無理のないことです。話すつもりはありませんでしたが、彼は、俺が選んだサポートメンバーではないのです」


 ……今、それを言うか。

 随行の九名はより強く、俺に懐疑の目を向けてくる。


「アルクさんは、十位召喚士の強い推薦でこの討伐隊に入ったのです。俺たちの働きぶりを、監視しなくてはいけない立場なのでしょう」

「そんなことは頼まれていない」


 むしろ「(あゆみ)くんのやることはないよ!」と宣言されたんだぞ。


「嘘つけ!」

「見張られてるって、やりずらいよ」

「このあとが不安になるな」


 俺と、俺以外の十人の間に、目に見えない分厚い壁ができたのを感じる。

 タマキさんはひたすら戸惑っている様子だ。

 いまだ動かないエンペラーワームは、十一人のくだらない会話に何を思っているのだろう。


「用心せいよ」


 ドラゴンがやっと口を開いた。

 全員が声の主を見上げる。


「見慣れぬ技を持つ召喚士よ」

「えっ?」


 ん? 見慣れぬ技って、まさか石使いのことか?


「用心て何のことだ」


 答えが返ってくる前に、忍術士が声を上げた。


「首席、敵の残存反応が」

「なんだって?」


 折り重なったランドキッカーの死体が盛り上がり、その隙間に二つの目が光った。

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