表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/59

第35話 行く

 神殿召喚士と行く、イレギュラーモンスター討伐遠征。

 ただし特にやることはない。


 この任務、俺は――。


「受けるに決まってる」



 ◆◆◆



 遠征に関する詳細を聞き、地図や書類を受け取り、執務室を後にする。

 アキヅキさんと志乃さんが、一般召喚士であふれる一階フロアの手前まで送ってくれた。


「また遊びにきてね!」


 再び全身ウサギの姿になったアキヅキさんが両手を振る。

 俺から神殿召喚士にコンタクトを取ることは難しそうだが、できればまた来たい。


「今度はパートナーのギフトファイアも連れてきてくれ」


 志乃さんが口にした<ギフトファイア>は使い魔の種族名で、アンナのことだ。


 なんと、アンナの種族名を<妻>と認識するのは俺だけらしい。

 他の召喚士にとっては、<ギフトファイア>という既存の種族に分類される。

 どうりで、誰にもつっこまれないわけだ!


 ギフトファイアは特殊な使い魔で、召喚に成功すると、何かしらアイテムをくれて、去っていく。

 契約して、ダンジョンに連れていくこともできるが、戦闘能力はほとんどない。


「必ずアンナも連れてきます」


 アキヅキさんも志乃さんも、飾ったところがない、気さくな女性だ。

 アンナにまた、いい友達ができる。

 心の中で喜んでいると、志乃さんが俺の耳元に顔を寄せてきた。


「いまいち礼に欠けるヤツで悪かったね。でも、よかったら時々かまってやってくれ」


 そう小声で頼まれる。パートナーの対人スキルを心配しているようだ。

 志乃さんは何かと保護者っぽいな。

 俺は笑いをこらえて何度か頷いた。


「ちょっとー、内緒話やめてー!」


 ウサギがポカポカ殴ってくる。その手を志乃さんが制した。


「たいしたことじゃないよ。またあの『やたら美味いトマト』を出荷してくれって、頼んだだけさ」

「えっ!?」


 ここにきて、意外な話が浮上した。

 アキヅキさんが「あー、あのヤバいヤツー!」と、両手を合わせる。


 トマトってあれか。チート肥料<大豊作>で実りまくった……。

 爆発的な成長はすぐにおさまり、俺もアンナも、実を食べても異常はなかった。

 問題なしと判断して、採れ過ぎた分は売ってしまったんだが。

 何かやばかったか? ウサギの顔をちらりとうかがう。


「あんなに美味しくて粒ぞろいのトマトを、野菜出荷経験のない石使いが突然出してきたらねえ……」


 ああ、そういう意味のやばさか。

 今、アキヅキさんは着ぐるみの中でニヤニヤしているだろう。


「気になるよねー。むふふふふふ」


 そんなところまで、彼女のアンテナが張られていたということか。

 一体、俺のことをどこまで調べているのやら。



 ◆◆◆



 アンナと落ち合うべく、広場に戻った。

 俺の方が早く着いたようだ。


 討伐隊参加の任務について、アキヅキさんに「何もやることはない」と言われたが、それでも俺は期待で胸がいっぱいだ。

 神殿召喚士と仕事をすることに、ステータスを求める人もいる。

 そして、神殿召喚士の戦闘をこの目で見ることに意義を見出す人間もいる。


 俺ははっきり言って、後者である。


 バルタルークのランカーというのは、プレイ時間の長さ以上に巧さが必要なのだ。

 一回のバトルにかけたターン数や、最大ダメージなどで戦果ボーナスが決まるクエストが複数あるからだ。

 あとは育成と探索に役立つアイテムを、ゲームへの課金で購入するのは必須かな。


 そう、愛するバルタルークを、ゲームでもリアルマネーでも盛り上げてきた主力メンバーってことだ。

 尊敬に値するだろ? どう考えても。


「歩さまー! お待たせいたしましたー!」


 バスケットを抱えたアンナが走ってきた。


「おかえり。楽しかったかい?」

「はいとっても!」


 アンナは、お土産がとても喜ばれたこと、コールも老婦人も俺に会いたがっていたことを話してくれた。


「ああ、やっぱり歩さまにも来ていただけばよかった」


 次の機会にはぜひ、と約束して歩き出す。

 続いて、俺が神殿に行ってきたことを報告した。

 機密事項とは言われていないが、ここは街中だし、固有名詞や役職名は伏せておく。


「そうですか。ダンジョンエリアの異常を調査するお仕事に、歩さまが指名されたんですね。すごいです」

「でもまあ、俺はサポートだから。後方支援」

「歩さまが腕利きの石使いだって、わかる方にはわかるんですよ!」


 アンナが自分のことのように喜んでくれる。


「私も、微力ですが精一杯頑張りますから!」


 そんな彼女に、伝えなければならないことがあるのだ。

 ものすごく、心苦しいが……。


「アンナ。今回の討伐なんだけど、君は、俺が召喚するまでホームに待機ということになった」

「え?」


 パートナーは、気合に満ちた表情のまま固まった。


「すまん。とりあえず、当日は留守番を頼む」

「え……? えっ、ええぇーっ!?」


 首都リンドンホルンの夕焼け空に、アンナの悲鳴が吸い込まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ