第35話 行く
神殿召喚士と行く、イレギュラーモンスター討伐遠征。
ただし特にやることはない。
この任務、俺は――。
「受けるに決まってる」
◆◆◆
遠征に関する詳細を聞き、地図や書類を受け取り、執務室を後にする。
アキヅキさんと志乃さんが、一般召喚士であふれる一階フロアの手前まで送ってくれた。
「また遊びにきてね!」
再び全身ウサギの姿になったアキヅキさんが両手を振る。
俺から神殿召喚士にコンタクトを取ることは難しそうだが、できればまた来たい。
「今度はパートナーのギフトファイアも連れてきてくれ」
志乃さんが口にした<ギフトファイア>は使い魔の種族名で、アンナのことだ。
なんと、アンナの種族名を<妻>と認識するのは俺だけらしい。
他の召喚士にとっては、<ギフトファイア>という既存の種族に分類される。
どうりで、誰にもつっこまれないわけだ!
ギフトファイアは特殊な使い魔で、召喚に成功すると、何かしらアイテムをくれて、去っていく。
契約して、ダンジョンに連れていくこともできるが、戦闘能力はほとんどない。
「必ずアンナも連れてきます」
アキヅキさんも志乃さんも、飾ったところがない、気さくな女性だ。
アンナにまた、いい友達ができる。
心の中で喜んでいると、志乃さんが俺の耳元に顔を寄せてきた。
「いまいち礼に欠けるヤツで悪かったね。でも、よかったら時々かまってやってくれ」
そう小声で頼まれる。パートナーの対人スキルを心配しているようだ。
志乃さんは何かと保護者っぽいな。
俺は笑いをこらえて何度か頷いた。
「ちょっとー、内緒話やめてー!」
ウサギがポカポカ殴ってくる。その手を志乃さんが制した。
「たいしたことじゃないよ。またあの『やたら美味いトマト』を出荷してくれって、頼んだだけさ」
「えっ!?」
ここにきて、意外な話が浮上した。
アキヅキさんが「あー、あのヤバいヤツー!」と、両手を合わせる。
トマトってあれか。チート肥料<大豊作>で実りまくった……。
爆発的な成長はすぐにおさまり、俺もアンナも、実を食べても異常はなかった。
問題なしと判断して、採れ過ぎた分は売ってしまったんだが。
何かやばかったか? ウサギの顔をちらりとうかがう。
「あんなに美味しくて粒ぞろいのトマトを、野菜出荷経験のない石使いが突然出してきたらねえ……」
ああ、そういう意味のやばさか。
今、アキヅキさんは着ぐるみの中でニヤニヤしているだろう。
「気になるよねー。むふふふふふ」
そんなところまで、彼女のアンテナが張られていたということか。
一体、俺のことをどこまで調べているのやら。
◆◆◆
アンナと落ち合うべく、広場に戻った。
俺の方が早く着いたようだ。
討伐隊参加の任務について、アキヅキさんに「何もやることはない」と言われたが、それでも俺は期待で胸がいっぱいだ。
神殿召喚士と仕事をすることに、ステータスを求める人もいる。
そして、神殿召喚士の戦闘をこの目で見ることに意義を見出す人間もいる。
俺ははっきり言って、後者である。
バルタルークのランカーというのは、プレイ時間の長さ以上に巧さが必要なのだ。
一回のバトルにかけたターン数や、最大ダメージなどで戦果ボーナスが決まるクエストが複数あるからだ。
あとは育成と探索に役立つアイテムを、ゲームへの課金で購入するのは必須かな。
そう、愛するバルタルークを、ゲームでもリアルマネーでも盛り上げてきた主力メンバーってことだ。
尊敬に値するだろ? どう考えても。
「歩さまー! お待たせいたしましたー!」
バスケットを抱えたアンナが走ってきた。
「おかえり。楽しかったかい?」
「はいとっても!」
アンナは、お土産がとても喜ばれたこと、コールも老婦人も俺に会いたがっていたことを話してくれた。
「ああ、やっぱり歩さまにも来ていただけばよかった」
次の機会にはぜひ、と約束して歩き出す。
続いて、俺が神殿に行ってきたことを報告した。
機密事項とは言われていないが、ここは街中だし、固有名詞や役職名は伏せておく。
「そうですか。ダンジョンエリアの異常を調査するお仕事に、歩さまが指名されたんですね。すごいです」
「でもまあ、俺はサポートだから。後方支援」
「歩さまが腕利きの石使いだって、わかる方にはわかるんですよ!」
アンナが自分のことのように喜んでくれる。
「私も、微力ですが精一杯頑張りますから!」
そんな彼女に、伝えなければならないことがあるのだ。
ものすごく、心苦しいが……。
「アンナ。今回の討伐なんだけど、君は、俺が召喚するまでホームに待機ということになった」
「え?」
パートナーは、気合に満ちた表情のまま固まった。
「すまん。とりあえず、当日は留守番を頼む」
「え……? えっ、ええぇーっ!?」
首都リンドンホルンの夕焼け空に、アンナの悲鳴が吸い込まれていった。




