表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/59

第33話 ウサギと俺 【挿絵あり】

※挿絵があります。

 神殿は、屋内はもちろん、外からすでに召喚士でごった返していた。


「今の魔力じゃ、ろくなクエスト受けられないわ」

「やっとレンタル工房の予約が取れた……。まあ、ずーっと先だけど」

「召喚相談の担当者、毎回おんなじことしか言わねえ。ふざけんな」


 すれ違う人々は一様に、不満や焦りを口にしている。

 団長たち三人は、今ごろどうしているだろうか。


 ホールには長い待機列がいくつもできていて、白い制服の職員が誘導を行っている。

 職員の中で、『総合案内』の腕章をつけた男性に俺は声をかけた。


「すみません」

「はい、本日はどのような? あ、召喚相談の受付でしたら、本日中の対応が難しいので、整理券を……」

「いえ、相談じゃないです」


 俺は招待状を出して職員に見せた。


「あっ、これは! すみませんが、身分証をお願いいたします。」


 役人は俺の召喚士カードを別のカードで読み取り、ゆっくりと頷いた。

 そのまま職員用の通路へ促され、上の階層へと通される。

 このフロアにいるのは白い服の職員ばかりで、一般召喚士の姿は見当たらない。一階ホールの混雑が嘘のようだ。


「少々、お待ちください」


 職員は立ち去り、俺は片すみに設置された上品な椅子に腰かけた。

 もう一度、招待状の差出人を確認し、深く息を吐いて顔を上げる。

 と、ついさっきまでとはフロアの様子が変わっていた。


「あれは……」


 職員たちの中に、ウサギの着ぐるみを身につけた何者かが交じっている。

 しかも、手を振りながらこちらへ近づいてきた。


「間違いない。あの人が『アキヅキ』だ」


 俺は興奮とおかしさをこらえて立ち上がる。


「へい、こんちはー。初めましてー。“アルク”くんだね? 今日は来てくれてありがとう。私がアキヅキです」


 バルタルーク召喚士協会、第十位召喚士。

 拳闘士(けんとうし)アキヅキは召喚士カードを提示し、挨拶をした。快活な、女性の声だ。


「え、ア、アルクですか。ええと、はいそうです。初めまして」


 召喚士名で呼ばれると気恥ずかしいな。


「本名は、藤江(ふじえ) (あゆみ)くんだよね? そっちも知っているよ。渋くていい名前だね。本名で呼ぼうか?」

「渋いなんて初めて言われましたが……。確かにその方が落ち着きます」

「おっけー。そんじゃ歩くんよろしくー」

「こちらこそ」


 差し出されたもふもふの手を握ると、アキヅキさんは重そうな頭をぐらりとかしげた。


「んー、怪しくない?」

「え?」

「私、怪しくない?」

「アキヅキさんが?」

「こんなかっこだよ?」


 そりゃあ、すごく、怪しいです。


「でも有名ですから。『ネタ装備コレクター、アキヅキ』は」

「ふぎゃー、そんな風に呼ばれてんの私? うわあ、むずむずするー!」


 アキヅキというプレーヤーは、ゲームのプレイ動画を録り、ネットに投稿していた。

 動画では、必ずインパクトのある装備を使っていたため、上記のニックネームが他プレイヤーの間に広まった。

 しかも、見た目重視で弱い武器を持っても、呪われた防具をつけても、ゲームの巧さと、根性、時々運で、どんなクエストも完遂できてしまうため、かなりの人気を博していたのだ。


 だからウサギが目の前に現れても驚かなかったし、むしろ期待通りで嬉しい。


「さあさあ。ようこそ私の執務室へー」

「失礼します」


 本題はアキヅキさんの執務室で、ということになった。


「適当に座って座って。実家のようにくつろいで」

「それはちょっと……」


 革張りのソファーにやや浅めに座り、室内を見回す。


「うお……」


 通された部屋には、重厚なしつらえの机、どん帳のようなカーテンといった、偉い人の仕事場という感じの家具がそろっていた。

 高位の召喚士が使うものにふさわしい、厳重な耐魔力(たいまりょく)加工がされた品だ。

 しかし、それらに交じって、ウサギ以外の着ぐるみや謎のお面、札が大量に貼られた篭手(こて)などもたくさん置かれている。


「あ、気になっちゃう?」

「そりゃそうですよ。呪われてるものもありますよね? あの篭手と、そっちの髪飾り」

「そうそう、気づくの早いねー! ちょっとつけてみなよ。ぎょわわわ~ってなるから」

「いやですよ」


 アキヅキさんはさらに「ぞわわ~っ」となるものや、「かゆい……かゆい……」となるものを進めてきた。

 押しに負ける前に、俺から仕事の話を切り出そう。


「こちらが、直接納品するように指示のあった鉱石素材です」


 梱包した品物を、ずいっとテーブルに押し出す。

 先日、相当な量の素材を選別する仕事を請け負った。

 その依頼書に、彼女からの招待状が同封されていたのだ。


「はーい、確かに。本当に、わざわざありがとう。じゃ、これは置いといて――」

「え?」


 依頼人は、商品を数秒見ただけで、少し離れたスペースに置いてしまった。

 なんだ? 重要な案件じゃないのか?


「ほら、これは口実だから」

「口実?」

「君と直接話したかったんだよ! 言わせんなよ!」


 アキヅキさんは白い毛の生えた手で、テーブルをぽんぽん叩いた。


「は、はあ……。そうですか」


 神殿召喚士が、一般の召喚士を呼び出すのには、何か面倒なことがつきまとうのかもしれない。


「うん。他から声がかかる前に、マブダチになれてよかった」


 そして親友認定されたんだが。

 アンナ、俺にも友達ができたぞ。ウサギの神殿召喚士だ。


「でね、歩くんをマブダチと見込んで、頼みたいことがあるんだ」

「はい、追加の依頼ですか?」


 それはすごくありがたい。


「仕事は仕事だけど、素材選別や、採取の依頼じゃないんだよね」

「では、どういった……?」


 ウサギの大きな目が、俺を真っ直ぐにとらえた。


「とある討伐隊のメンバーに、加わってもらいたい」


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ