第33話 ウサギと俺 【挿絵あり】
※挿絵があります。
神殿は、屋内はもちろん、外からすでに召喚士でごった返していた。
「今の魔力じゃ、ろくなクエスト受けられないわ」
「やっとレンタル工房の予約が取れた……。まあ、ずーっと先だけど」
「召喚相談の担当者、毎回おんなじことしか言わねえ。ふざけんな」
すれ違う人々は一様に、不満や焦りを口にしている。
団長たち三人は、今ごろどうしているだろうか。
ホールには長い待機列がいくつもできていて、白い制服の職員が誘導を行っている。
職員の中で、『総合案内』の腕章をつけた男性に俺は声をかけた。
「すみません」
「はい、本日はどのような? あ、召喚相談の受付でしたら、本日中の対応が難しいので、整理券を……」
「いえ、相談じゃないです」
俺は招待状を出して職員に見せた。
「あっ、これは! すみませんが、身分証をお願いいたします。」
役人は俺の召喚士カードを別のカードで読み取り、ゆっくりと頷いた。
そのまま職員用の通路へ促され、上の階層へと通される。
このフロアにいるのは白い服の職員ばかりで、一般召喚士の姿は見当たらない。一階ホールの混雑が嘘のようだ。
「少々、お待ちください」
職員は立ち去り、俺は片すみに設置された上品な椅子に腰かけた。
もう一度、招待状の差出人を確認し、深く息を吐いて顔を上げる。
と、ついさっきまでとはフロアの様子が変わっていた。
「あれは……」
職員たちの中に、ウサギの着ぐるみを身につけた何者かが交じっている。
しかも、手を振りながらこちらへ近づいてきた。
「間違いない。あの人が『アキヅキ』だ」
俺は興奮とおかしさをこらえて立ち上がる。
「へい、こんちはー。初めましてー。“アルク”くんだね? 今日は来てくれてありがとう。私がアキヅキです」
バルタルーク召喚士協会、第十位召喚士。
拳闘士アキヅキは召喚士カードを提示し、挨拶をした。快活な、女性の声だ。
「え、ア、アルクですか。ええと、はいそうです。初めまして」
召喚士名で呼ばれると気恥ずかしいな。
「本名は、藤江 歩くんだよね? そっちも知っているよ。渋くていい名前だね。本名で呼ぼうか?」
「渋いなんて初めて言われましたが……。確かにその方が落ち着きます」
「おっけー。そんじゃ歩くんよろしくー」
「こちらこそ」
差し出されたもふもふの手を握ると、アキヅキさんは重そうな頭をぐらりとかしげた。
「んー、怪しくない?」
「え?」
「私、怪しくない?」
「アキヅキさんが?」
「こんなかっこだよ?」
そりゃあ、すごく、怪しいです。
「でも有名ですから。『ネタ装備コレクター、アキヅキ』は」
「ふぎゃー、そんな風に呼ばれてんの私? うわあ、むずむずするー!」
アキヅキというプレーヤーは、ゲームのプレイ動画を録り、ネットに投稿していた。
動画では、必ずインパクトのある装備を使っていたため、上記のニックネームが他プレイヤーの間に広まった。
しかも、見た目重視で弱い武器を持っても、呪われた防具をつけても、ゲームの巧さと、根性、時々運で、どんなクエストも完遂できてしまうため、かなりの人気を博していたのだ。
だからウサギが目の前に現れても驚かなかったし、むしろ期待通りで嬉しい。
「さあさあ。ようこそ私の執務室へー」
「失礼します」
本題はアキヅキさんの執務室で、ということになった。
「適当に座って座って。実家のようにくつろいで」
「それはちょっと……」
革張りのソファーにやや浅めに座り、室内を見回す。
「うお……」
通された部屋には、重厚なしつらえの机、どん帳のようなカーテンといった、偉い人の仕事場という感じの家具がそろっていた。
高位の召喚士が使うものにふさわしい、厳重な耐魔力加工がされた品だ。
しかし、それらに交じって、ウサギ以外の着ぐるみや謎のお面、札が大量に貼られた篭手などもたくさん置かれている。
「あ、気になっちゃう?」
「そりゃそうですよ。呪われてるものもありますよね? あの篭手と、そっちの髪飾り」
「そうそう、気づくの早いねー! ちょっとつけてみなよ。ぎょわわわ~ってなるから」
「いやですよ」
アキヅキさんはさらに「ぞわわ~っ」となるものや、「かゆい……かゆい……」となるものを進めてきた。
押しに負ける前に、俺から仕事の話を切り出そう。
「こちらが、直接納品するように指示のあった鉱石素材です」
梱包した品物を、ずいっとテーブルに押し出す。
先日、相当な量の素材を選別する仕事を請け負った。
その依頼書に、彼女からの招待状が同封されていたのだ。
「はーい、確かに。本当に、わざわざありがとう。じゃ、これは置いといて――」
「え?」
依頼人は、商品を数秒見ただけで、少し離れたスペースに置いてしまった。
なんだ? 重要な案件じゃないのか?
「ほら、これは口実だから」
「口実?」
「君と直接話したかったんだよ! 言わせんなよ!」
アキヅキさんは白い毛の生えた手で、テーブルをぽんぽん叩いた。
「は、はあ……。そうですか」
神殿召喚士が、一般の召喚士を呼び出すのには、何か面倒なことがつきまとうのかもしれない。
「うん。他から声がかかる前に、マブダチになれてよかった」
そして親友認定されたんだが。
アンナ、俺にも友達ができたぞ。ウサギの神殿召喚士だ。
「でね、歩くんをマブダチと見込んで、頼みたいことがあるんだ」
「はい、追加の依頼ですか?」
それはすごくありがたい。
「仕事は仕事だけど、素材選別や、採取の依頼じゃないんだよね」
「では、どういった……?」
ウサギの大きな目が、俺を真っ直ぐにとらえた。
「とある討伐隊のメンバーに、加わってもらいたい」




