第32話 二通の招待状
首都でのお守り捜しが解決してから、十日が経った。
俺は仕事を終え、家と融合している、意思疎通が可能な樹の上で本を読んでいた。
「歩さまー。歩さまー」
アンナが呼んでいる。
「はーい。樹の上にいるよー」
俺は縄ばしごをつたって庭へ下りていく。
「こちらにおいででしたか。ご休憩中にすみません」
「いいよ。休憩っていうか、仕事が終わったからダラダラしてただけ」
「あ、本日分はもう終わっていたんですね」
「うん、今日の分というか、受注分」
「えっ……じゃあ、全部ですか。納期は五日後だったと思いますが……」
「そうなんだけど、終わってしまった」
「それは、お疲れさまでした……」
「ありがとう。ところで君の用事は?」
「はっ! そうでした! 招待状が、届いたんです!」
それはお茶会の誘いだった。
宛先はアンナ。
差出人は、少年魔道士コール。
◆◆◆
そういうわけで、俺たちはまた首都リンドンホルンにやってきた。
「あの、歩さま。本当に、不貞行為じゃありませんから!」
「うん、アンナ。本当に、そんなこと思ってないから」
招待状が届いてから、何度も交わしたやりとりだ。
そして俺が「疑うわけがない」と答えるたびに、アンナは「ならいいです……」とテンションを下げる。
わからん。答え方に、何か間違いでもあるっていうのか?
「ううぅ、やっぱり、歩さまも一緒に行きませんか?」
「いやいや、行かないって。俺は当事者じゃないんだから。気を使わせるし、気まずいよ」
「……そうですよね。わかりました」
「それじゃあここで。お茶会、楽しんできてくれ」
「はい。お言葉に甘えます」
コールとの待ち合わせは、宿舎の辺りだそうだ。広場でアンナと別行動になる。
「お土産、渡し忘れないようにな」
「はい必ず」
アンナが抱えているバスケットには、ドライフルーツを使った焼き菓子が入っている。
ほとんど俺が作ったものだが、「家で焼いてきました!」と言って差し出すといい。
「では、行ってまいります」
「いってらっしゃい。コールと、“新しい友達”にもよろしく」
「はい! 次は、歩さまに紹介しますので」
「ああ、そうしてくれ」
何度か振り返りながら、お茶会へ向かうアンナを見送る。
彼女の姿が見えなくなったところで、俺は逆方向に歩き出した。
コールのお守りを捜して街を奔走した日のこと。
宿舎方面の捜索をしていたアンナとコールは、同じように捜し物をする老婦人に出会ったそうだ。
その女性が失くしたものをネコババしていたのが、あの団長で、二人は見事、取り返して持ち主に返した。
なんでも、団長のしかけてきた『鉱石の目利き対決』にアンナが勝利したらしい
毎日、倉庫の在庫チェックをしているだけはある。
今回のお茶会の主催者が、その老婦人なのだ。
アンナの家がわからなかったので、コールを通して招待状を送ってきた、というわけだ。
恩人の二人のために、おいしいお茶とお菓子を用意して待っていることだろう。
「うん、よかったよかった」
アンナに友人ができたことを、とても嬉しく思う。
きっと彼女には、神界に親しい友達や仕事仲間がいたことだろう。
そういった人たち、いや神様たちと離れ、この世界にきてくれたのだから。
ひとりになった俺はまず、先日行ったレストランを訪れた。
シルフィードの様子を見るためだ。
「うおぉっ?」
ところが、数名の客――おそらく『シルちゃんファンクラブ』の会員――が、睨みをきかせていて、とても入店できる雰囲気ではない。
まるで俺がストーカーみたいじゃないか。
レストランは諦め、商店で備品と食料を買い、配送サービスを頼んだ。
次にやってきたのは、神殿。
召喚士協会の本部。俺たちにとっての役所、もしくはハローワーク。
ここが、本日のメインとなる目的地だ。
俺はバッグから一通の手紙を取り出した。差出人の名前を見て、ごくりと喉が鳴る。
『神殿召喚士 アキヅキ』
招待状は、俺にも来ていた。
それも、呼び出した相手は神殿召喚士。
全ての召喚士の中で、トップクラスの実力を持つ十人の内のひとり。
ゲームにおいては、戦果に応じて毎月発表されるランキングの上位者にあたる。
高難度のダンジョンをいち早く踏破し、最強クラスのモンスターを片手でひねり、依頼されるクエストをひとつ残らず高評価で片付ける。
そういうプレイヤーの中でも、十位以内は抜きん出た存在だ。
つけ加えておくと、アイテム生成の検証ばかりやっているプレイヤーには、百位入賞すら難しい。
ええ、俺のことです。
その神殿召喚士から、仕事の依頼があったのだ。
俺は招待状を折れないよう、丁寧にしまい、神殿に足を踏み入れた。
「神殿召喚士に、会えるのか……」




