第28話 契約モンスター
「どうだ! 俺様の持ち弾がさらに増えたぞ!」
団長のスキルにより、十五個の石墨が一部分ずつ割れる。その欠片が集まって、新たに三つの毒つぶてになった。
足して、合計十八個だ。
「へ?」
「え?」
ちらりと後ろのアンナとコールを確認すると、二人ともぽかんとした顔をしていた。『?』マークでも浮かんでいるようだ。
「団長のスキルランクはまだFか」
スキルランクが低ければ、〈特性強化〉の強化倍率も当然低い。
三個しかアイテムの個数が増えなかったということは、〈分裂〉の効果は1.2倍上昇したわけだ。
「Aランクまで上がれば、かなり使えるんだけどな」
そこまで育てるのが大変なんだ。自分の育成過程を思い出してため息が出た。
十八個の毒つぶてに囲まれた団長が、嘆息した俺を見て得意げに笑う。
「さっきまでの態度はどこ行った! 負けを覚悟したのか!? ぐはは、驚いただろう。なんと、〈特性強化〉は、同じ種類で同じ品質の素材なら、一度にまとめて効き目が出るのだ!」
「え!?」
新米石使いの言葉に、俺は衝撃を受けた。
「偉そうな石使い! 貴様、さては知らなかったな! 俺様なんて二日前に気づいた――」
「わかってるじゃないか!」
「はいぃっ?」
「すまん、適当に〈特性強化〉を使っていると思った。ちゃんとスキルを理解しているんじゃないか!」
「なっ……!?」
団長が二歩、あとずさった。
「何のつもりだ……。いきなり、ほ、褒め……」
「歩さまは、小さな成果だって評価してくださるんです! 私も先日――」
「まあまあまあまあ!」
キリッとした顔で前に出てきたアンナを、コールが連れ戻してくれた。
「くそっ、わけわかんねえ奴らめ! コイツで全員ぶち抜いてやる!」
団長は、のけぞった体を前のめりに直した。「やっとうんちく終わりか……」さんざん石使い講座を聞かされた商人は、げっそりしている。
「おら、おら、おらぁ!」
二秒間隔で、三発弾が発射される。
しかしアイテムの質が悪いため、三発とも見当違いの方向へ飛んでしまう。
「い、威嚇射撃だ!」
そういうことにしておく。
「どんどんいくぞ! 俺様のマジックボウは、連続使用スピードを速める効果があるからな!」
団長が四発目、五発目と毒つぶてを放つ。
「いい装備の選択だ!」
俺は五本の〈炎の矢〉を同時に射出した。
一本目は、向かってきた二つのつぶてを炎の勢いで霧散させた。
二本目から五本目は、団長の周りに浮いていた、残り十三個の弾を粉々にした。
「何いぃ!?」
「う……っそ、でしょ」
口を開けて棒立ちになった団長と商人に、火の粉が降りかかった。
俺はもちろん、装備についての説明を添える。
「今はその、連射スピード上昇型マジックボウが団長に合っている。そして、生成スキルと使用スピードが上がったら、命中率の上がる武器に切り替えてみるといい」
「まだ、講釈たれんのかい……」
商人は疲れ切り、「もう無理……」と、降参の色を見せる。が、団長はまだ戦うつもりのようだ。舞い散る火の粉を乱暴に払った。
「くそったれ……。“持っている”ヤツに、やられてたまるか!」
「あんたがその気なら、俺はいくらでもつき合うぞ」
まだまだ、教えられることはいくらでもある。
「出てこいブラックスライム! 俺様に、力をよこせぇ!」
団長が大声で叫んだ。
すると、今まで静かだった沼の水面が盛り上がり、中から、一つ目の大きなスライムがぬらりと顔を出した。
「使い魔の代わりに契約したのは、ブラックスライムだったか。確かにあのモンスターなら〈強酸ジェル〉を使える」
半透明の黒い体が、ずるずると沼から這い出てくる。
スライムとは言っても、家の周りに現れる、草原スライムのように小さくはない。体高は、長身の団長を超えている。
モンスターの口が、裂けるように開いた。
「気ヤスク 命令スルナ 人間」
人間の言葉を、喋った。ゲームでは、この種族はうめき声しか上げなかったが。
「対価ダ 力ヲ 求メルナラバ」
目の前でうごめく粘液に、団長はわずかに怯んで体を引いた。
「あ、ああ。そうだったな。対価だ、わかってる。おい参謀!」
「えっ、は、はい。今……」
商人は焦った様子で小屋に戻り、たくさんの袋を抱えて出てきた。その腕から、アクセサリー付きの、忍術士のアイテムバッグが落ちる。
しかし青年はそのバッグを拾わず、急いでスライムの前にひとつの袋の中身をぶちまけた。
様々な種類の鉱石が地面に散らばる。
「あの石は、素材屋の商品だな」
店の物は全てスキャンしたので憶えている。
ブラックスライムが、それらの鉱石に体を乗せて吸い込んでいく。二、三個の石は粘液に溶かされて消えるが、ほとんどが大きな口からすぐに吐き出された。
「不味イ」
粘液を手のように使い、出した石を全てなぎ払ってしまう。沼に複数の小さなしぶきが上がった。
「フザケルナ 石ヲヨコセ ウマイ ウマイ 石ダ」
「いいい、今、出しますよ!」
あのモンスター、鉱石を食うのか。もしくは、石が自然に蓄えた魔力を摂取するのかもしれない。
次に差し出された石も、お気に召さなかったようで、まとめて遠くへ吹き飛ばされる。
ブラックスライムは、暗い穴のような一つ目を、ずいと商人に近づけた。
「不味イ 不味イ」
「ひっ……」
「ウマイ石ガ ナイナラ オ前ラノ 骨 喰ワセロ」
商人はあわてているからか、なかなか次の袋が開けられない。
これが、契約を交わした者同士?
どう見ても関係は破綻している。ならば俺が今すぐに、あのモンスターを討伐してもかまわないよな。
マジックボウに新しい弾を装填しようとした時、団長が「そうだ!」と声を上げた。
「参謀! 金鉱石があっただろ! ありゃあ良い物だった。舌の肥えたブラックスライムも大満足だ!」
「え……」
指示を受けた商人の動きが、止まった。
「……いや、ないすよ。金鉱石」




