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第26話 三人騎士団の事情

 バルバラさんの言っていたことを思い出す。


『契約破壊によって、全ての使い魔を失った召喚士もたくさん存在する』


 そして、工房でアイテム生成に協力してくれた、妖精とのやりとりでわかったこと。


『異世界の存在が、召喚に応じて姿を現したからと言って、契約が成り立つとは限らない』


 俺はできるだけ、感情を差し挟まずに、相手を刺激しないように口にする。


「団長、商人、忍術士。君たち三人とも、力を貸してくれる使い魔が、いないんだな」


 団長の前に浮かぶ、作りかけの毒つぶてが不安定に揺れた。


「ああ、いねえな。協会が勝手に決めた、使い魔リストに載ってるヤツらなら、の話だが?」

「召喚と契約が上手くいかず、モンスターの力を頼ったのか? どんなリスクがあるかもわからないのに」

「うるせぇ! こうしてアイテムが作れてんだからいいだろーが!」


 よくない。

 俺に言わせれば、彼の仕事はアイテム生成の域に達していない。


「そんないい加減なアイテムは、認められない」

「何言ってんだ。貴様に認められなくても、痛くも痒くもないわ」

「経験の浅い石使いが、考えなしに〈高速生成〉に手を出すんじゃない」

「おい聞いてんのか!」

「アイテム用の魔法陣を展開できる工房は持っているのか? ないなら協会に申請して、貸しスペースを使わせてもらうといい」


 俺がアイテム作りの初歩をかいつまんで話すと、しばらく黙っていた商人が口を開いた。


「アンタ、ここ最近、神殿行きました? 行ってないでしょ」

「神殿に? 確かに、行っていないが」


 首都リンドンホルンにある神殿は、召喚士協会の総本山だ。


「行けばわかるんで」


 痩せた青年は詳しく語らず、それだけ吐き捨てた。代わりにコールが協会の状況を教えてくれる。


「石使いくん、今、神殿はね、転職の手続きや、召喚の相談に来る人たちでいっぱいなんだよ。特に召喚相談は、使い魔を失った人より、残っている人と新しく獲得できた人が優先されるらしい」


 少年の話に、はっとする。彼ら三人の言動が、一本につながった。

 俺は視線を団長に戻す。


「そうか、すまない。すでに、教会に支援を求めに行っていたとは知らずに」

「何度行っても、職ごとの相性リストしかよこさなかったけどな!」


 相性リストか。

 特定の職業についた者にしか召喚できない使い魔は、今のところ確認されていない。しかし、職業ごとに“現れやすい使い魔”というのはある。

 例えば石使いの場合、体が岩でできたゴーレムや、石化スキルを持った使い魔と相性が良い。召喚に応じてくれる確率が少し上がるのだ。


「団長、あんたはもしかして、そのリストにならって、職を変えながらパートナー探しを――」

「んなことするか、ふざけんな! 俺様は、えーと……アレよ。そうそう、全職極めちゃう系のヤツで……、あとは石使いだけっつーか。そういうわけだ!」


 俺の思った通りみたいだ。


「思った通りだ、みたいな顔すんじゃねえ! くだらねえ話は終わりだ。こんなの、ただの時間稼ぎだからな」


 くだらない話だっただろうか。俺には、心からの叫びに聞こえた。


「なんと、こっそりアイテム作りを進めていたのだ! 鉱石に魔力を吸収し終わったぞ!」


 団長が得意げにマジックボウを構え直し、出来上がった三つの毒つぶてを見せつけてきた。


「この出来なら、何の文句もねえだろ!」

「いや、ある」

「ごふっ」

「全然だめだ」

「なんだよ、どの辺が……じゃなくて、まあいい。ここからが、俺様の腕の見せ所!」


 団長は商人を「おい参謀」と呼びつけ、あごでクイクイと指示を出す。

 参謀の青年は「その呼び方やめてくれっつってるじゃないすか」と言いながら、斜めがけのバッグから薄っぺらい本を取り出した。


 表紙の文字は遠くて読めないが、デザインは見覚えがある。職業別の、技術書シリーズだ。

 リンドン市の古本屋に、魔道士と、ヒーラーのバージョンが売っていた。どちらも図鑑みたいな厚さだったっけ。


 商人が開いたページを団長に見せて、小声で読み上げている。


「あの、歩さま……」

「い、石使いくん……、えーと、今のうちに、ジャンをこっちへ呼び戻しておこうか?」


 二人の気持ちはよくわかる。もう力ずくで、盗まれたものを取り返しちゃえばいいんじゃないか、と。

 しかし俺は今、思うところあって彼らの戦闘準備を待っているのだ。


「いや、ファイアクロウには、道案内の糸を維持してもらってくれ。ここは、どうか俺に任せてくれないか」


 たびたび提案を却下してしまって気が咎めるが、少年は素直に受け入れてくれた。


「アンナは俺に魔力を提供できる範囲で後退」

「はい!」

「それと、彼らに力を貸しているモンスターが潜んでいるだろうから、コール、アンナを頼む」

「わかったよ! 警戒しておく。ジャンの力が必要になったらいつでも言ってくれたまえ」

「ああ、ありがとう」


 契約破壊で全ての使い魔が去ってしまい、新しい戦力も見つからない。

 召喚士として、仕事を得ることや、店の仕入れが難しくなってしまった。

 だから、人の物に手を出した。

 許されないことだ。しっかり罰を受けてこい、と思う。


 しかし、彼らの境遇に、どうしても同情してしまう自分がいる。


 もし俺がこの世界に転移してきた時、アンナがおらず、契約の書にシルフィードが残ってくれていなかったら、どうなっていただろう。

 協会に駆け込んでも、紙切れ一枚渡されるだけで「はい次の方どうぞ」なんて言われたら。


「よっしゃあー! 特性はバッチリ把握した!」


 団長の準備が終わった。

 俺も、自分のマジックボウを起動する。


 彼らに対して、俺がすべきことは一つしか思いつかない。


「覚悟しろ、団長。厳しめにいくぞ」

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