第22話 団長は石使い
「へっへっへー、やっと気づいたか」
取り押さえられ、地面にぺたりと座った忍術士が俺たちを嘲笑った。腰に下げられていた、アクセサリー付きのアイテムバッグは消えている。
「そうか、あの時……。団長ってヤツに体当たりされた時に渡したんだな」
「はーいその通り」
そして、こいつは団長が逃げる時間を稼いでいたわけか。
「団長っていうのは、僕たちが追いかけてきた、大きくてムキムキな石使いのことかい?」
コールの問いに忍術士は「そうそう」と答える。……ん? 石使い?
「歩さま、逃げていったあの男性は、石使いの召喚士です」
「なっ……!」
やっとおでましか、専属石使い!
「石使いがあんなにパワフルでいいのか? 俺には〈拳闘士〉にしか見えなかったぞ」
「うーん、団長はとにかく体格に恵まれてっから。何に転職してもあの勢いだね」
「ああ、なるほど」
「歩さん、犯人と普通に語り合わないでください」
「うっ」
ダリアに怒られてしまった。
「うはははは! アンタ、変なやつだな!」
「うるさい」
ナンパ忍者に言われたくない。
「まずい! みなさん気をつけて!」
再度ダリアが何かに気づいた。
後ろにまわされている忍術士の指先から小さな玉が落ち、次の瞬間には辺り一面が白い煙に包まれた。
「くそっ、忍術士のスキルだ!」
本来は、モンスターから逃げるために使用する。誰がモンスターだ。
「ふー、危ない危ない。どうよ! オレの忍術!」
目を細め、どうにか声の方を見ると、だいぶ消耗した様子の忍術士が街灯のてっぺんに体を預けている。黙って逃げてしまえば、その忍術が活きたんじゃないかな、と思わなくもない。
男はのっそりと起き上がり、飛距離の落ちたジャンプで去っていく。
一刻も早く団長を追いかけなければならないが、コールの石を盗んだ犯人も逃がすわけにはいかない。
「コールとお二人は、あの大男を追ってください。忍術士は私にお任せを」
ダリアが申し出るが、コールは反対した。
「ダリア、ひとりじゃ危険だよ!」
「大丈夫です。コール、歩さんの言うことをよく聞くように」
「もう、なんだよそれ……」
「必ず、取り返してください。あなたならできます」
「……うん、わかったよ。任せたまえ!」
コールが真剣に、俺、アンナの顔を見た。
「石使いくん、ファイヤーボーラ―くん、巻き込んでしまってすまない。あと少しだけ、力を貸してくれないか」
「少しと言わず、最後までつき合うさ」
「はい、喜んで!」
少年少女はお互い何も言わず、うなずき合った。俺は団長追跡の前に、念のためダリアに声をかける。
「ダリア、ほどほどにね。深追いは禁物だよ」
「はい、ほどほどに」
物分かりの良い少女は返事をすると、犯人が逃げた方へ駆け出した。
「そして完膚なきまでに懲らしめ、衛兵に引き渡し、その罪を詳細に告発します」
「おいおい!」
心配だが、彼女の判断に任せるしかないだろう。俺たちも役割を果たさなくては。
アンナ、コールとともに、団長が去ったリンドン市の通りへと向かった。
◆◆◆
人を避けながら進んでいくと、不安げな声がいくつも耳に入ってくる。「なんだったの、あれ」「ああ、怖かった……」団長が、買い物客を乱暴に押しのけながら通って行ったのだろう。衛兵に事情を聴かれている人もいる。
通行人のひとりに尋ねると、「男は脇目も振らず、通りをまっすぐに駆けていった」と教えてくれた。
リンドン市の終点でありスタート地点でもある、交差点まで来た。人はばらけて見通しは少々良くなるが、団長が逃げ去ってから時間が経っているので、姿を捉えられるはずもない。
道は、北、南、西に続いている。東は今俺たちが走ってきたリンドン市。
「歩さま、どうしましょう」
「ここで三方向に分かれるかい?」
コールの提案に俺は首を横に振る。
「いや、それは危険だ」
特にアンナには単独行動をさせたくない。
衛兵が捜査を始めているので、いくら猛牛のような奴でも、様子を見たり隠れたりしながら逃げているはずだ。すんなり遠くへは行けないだろう。だからと言って、三人一緒にあちこち捜し回っては効率が悪い。
できるだけ早く、正確に、今、団長がどこにいるのか知りたい。
俺はポケットから、預かったままのダリアのお守りを取り出す。
「……だめだ。この石で、コールの石を追うことはできない」
反応を探知するべきものが、マジックバッグに収納されているからだ。
「何か……他にないか。あの男の行方に繋がる手がかり……!」
素材屋で犯人の忍術士を見つけてから、この瞬間までに、何かなかったか?
思い出せ!
「――あった」
俺になら、使えるかもしれない手がかりが。




