第20話 あなたは石使いですか? いいえ、忍術士です。
石使いは、強化するのが面倒なうえに、強さを実感できるようになるまでが、とても長い。だから辞める人が多いし、人口が少なく、この職業ならではの話ができる友人もできない。
ひとりでコツコツ研鑽を積む中で、イライラすること、つまらなくなることもあるだろう。
「君の気持ちはわかるよ。でも、人様の石に手を出してはいけない」
「は、はぁ!?」
俺に肩をつかまれた青年は、後ろに下がろうとしてカウンターにぶつかる。木の箱を置いただけのカウンターがカタカタ鳴った。「あのー、ここでやらないでもらえません?」商人がまた何か言っている。
「何言ってんだテメェは! 盗んでねぇよ、元からオレのもんだ! じゃなかった、そんな石持ってねぇし!」
石使いは俺の手を振り払った。完全にボロが出ている。なげかわしい、やっぱり盗ったのか。
もう一度、彼の肩に指を食い込ませる。
「まだ間に合う。石を持ち主に返して、謝るんだ。安心しろ、俺も一緒に行く」
「だ、だーかーらー!」
「召喚士教会から、ペナルティがあるかもしれない。でも、ちゃんと謝罪して罪を償えばいい。そしたらまた、石使いとして再出発できるさ!」
「いやいやいや、なんで!」
店のラインナップを見た時から、専属石使いはまだ未熟なのだと感じていた。確実に、俺の方が先輩だろう。初めてできた後輩を、正しい道に導いてやらねば!
「伸び悩んでいるんだろ? そのモヤモヤした気持ちを、俺が全部聞いてやる。朝まで語り明かそうじゃないか!」
「やだ、男らし……くねぇよ! やめろ気持ちわりぃ!!」
後輩は叫んで身を屈め、俺の手から逃れた。そのまま腕の下をすり抜けられてしまう。
「待て! いま逃げたら後悔するぞ!」
「うるせぇ! ヤローからそんな情熱向けられたくねえから!」
「歩さん、この方がどうかしたのですか」
テントの外に出た所で、ダリアが青年を捕まえ、腕をひねり上げた。
「いでででで! 何すんだコノヤロー……って、やべ、超カワイイ。オレと結婚してくださいででででで!」
「ダリア、そいつだ! その石使いがコールの石を持ってる!」
「石使い、ですか?」
俺が駆けつけると、石使いはぽっちゃりした体型に似合わぬ柔軟さと素早さで、ダリアの拘束から抜け出した。そして周囲の人を巧みに避け、なんと街灯の上に登ったのだ。
「あいつ、なんて身のこなしだ。石使いとは思えない」
「あの、歩さん」
ダリアがわずかに首をひねって言った。
「彼は、石使いではありません。装束の間から、苦無が見えました。忍術士でしょう」
「……え」
石使いではない?
それなら、この動きも、コールの石をかすめ取れたのも納得できる。〈忍術師〉は、素早さと隠密行動が売りの、はっきり言えば忍者だからな。
しかし、だったら専属石使いの件はどうなる!
『専属石使いおりマス』の看板が、視界の端で空しく揺れる。怒りがふつふつと沸いてきた。
「だ、騙したな……! 許せん」
「ええっ? オレ何も言ってなくね?」
うろたえる忍術士を、ダリアもきっ、と見上げた。
「私も彼が騙したようには見えませんが、許せないことには同意します」
必ずひっとらえましょう。その言葉にしっかりとうなずく。
「お? なんだその通じ合ってる感。まさかテメェあれか? つり目美少女の男かよ!」
「無視しましょう」
「賛成」
まったく、何を勘違いして怒っているんだ、見苦しい!
「降りてこい、盗んだものを返すんだ!」
「るせぇ! ぜってぇ返さねーから!」
忍術師は、露店の商品が入った箱に飛び降り、さらに店先の樽や建物の壁を、ひょいひょい跳ねて渡っていく。
俺はすぐさま、素早さアップのアイテムを取り出して発動させる。
「窃盗犯が逃走中です!」
ダリアが声を上げると、買い物客たちは「なんだ、なんだ」と道を譲ってくれた。おかげで30メートルも離されずに、広場まで追跡できた。
犯人は、立ち並んでいる街灯やベンチ、通行人も障害物に使って、俺とダリアを翻弄する。
「おかしい。忍術士なら、脇道の多い路地にでも入ってしまえば、俺たちをまくことくらい簡単だろう」
「ええ、私もそう思います」
なぜこんな開けた場所で逃げ回る?
誰かを待っているのか。
誰かを逃がそうとしているのか。
「――わからん」
それを考えても、ヤツが捕まるわけではない。マジックボウを使うか? いや、命中させる自信はあるが、周りの人たちが混乱するだろう。
「おろおろしちゃって、ダッセェー!」
ぽっちゃり忍者は街灯の上から俺たちを煽ると、別の足場に向かって勢いよくジャンプした。
その瞬間だった。
なぜか突風が吹き、宙に浮いた丸い体を直撃した。
「のほっ!?」
忍術士は大きくバランスを崩して落下、ベンチの背もたれに背中を強打した。
「うぐーっ、いってえぇー!」
追いかけっこを興味深げに見ていた人たちは、地面を転がる犯人からさっと離れた。
「今だ!」
プルプルしながら立ち上がった窃盗犯に飛びかかる。しかし、弾力のある体に軽くはね返され、押し倒すまではできない。そのかわり、ダリアがもう一度腕をしめあげてくれた。
拘束成功、コールの石を取り返さなくては。




