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第18話 少年魔道士の落とし物

「なんだこのガキ! こんな腕輪、武器なわけあるか!」


 マジックボウが武器であることを、少女剣士に指摘された召喚士が大声を上げる。

少女にひるむ様子はなく、毅然と中年男性を見返した。これでは相手を煽るだけだ。


 俺は男性の前で、自分のマジックボウを起動して見せる。


「必要なら、500ルーク均一の腕輪も、クロスボウにして見せましょうか?」


 男性はむむむと口をとがらせ、周りの客は変形した腕輪を珍しがった。


「あ、あなたは石使いの!」


 少女が俺とアンナに気付いた。


「やあ、また会ったね」

「剣士さん、先日はお世話になりました」

「とんでもない、それはこちらのセリフです。あの時は、本当に失礼をいたしました」


 剣士はぴしっと姿勢を正し、礼をした。もう、気にしてないって。



 ◆◆◆



 リンドン市の通りを進み、俺たち三人は広場に出た。

 円形の広場は、外周に植物が植えられ、街灯と、木製のベンチが等間隔に設置されている。たくさんの人が話をしたり、軽食を摂ったりして楽しげに過ごしている。

 しかし、ひとつのベンチに座っている少年だけは、真逆の様子である。

 少女剣士が近づいて、声をかけた。


「コール、そちらはどうでしたか?」

「うう、ダリア、なかった。僕はもうだめだ。もう故郷には帰れない」


 深くかぶったローブのフードを上げたのは、少女剣士の相棒、少年魔道士だった。


「あれ、君たちは……。石使いくんと、ファイヤーボーラ―くんじゃないか」


 ファイヤーボーラ―くんて誰だ。


「私、ファイヤーボーラ―くんじゃありません。アンナマリーと申します」

「俺は藤江 歩だよ」

「そうかそうか。あの時は、お互い名乗れなかったよね。僕はコール。魔道士をやっているよ」


 コールは力なく笑った。


「元気を出しなさい、コール。あなたの唯一のとりえでしょう」


 そして、彼を励ました……と思われる少女の名前が、ダリアだ。


 二人は、養成所を卒業して間もない召喚士で、三年前に首都へやってきたそうだ。故郷を離れる際、ずっと指導を受けてきた師匠から、おそろいのお守りをもらった。

 旅立ちから今日まで、心の支えにしてきたそのお守りを、コールは失くしてしまったという。


「師匠にばれたら、終わりだ。夜通し説教されたのち、マニアック修行のフルコースで決まりだ」

「諦めてはいけません。歩さんと、アンナマリーさんも一緒に捜してくださるそうです。心強いでしょう」

「え、そんな、二人ともいいのかい?」

「もちろん。手伝うよ」

「はい、頑張ります!」


 青白かったコールの頬に、赤みが差した。


「君たち、本当に、なんて優しいんだ!」


 ありがとうありがとうと、コールは俺とアンナの手を順に握った。

 優しい、か。アンナは紛れもなくその通りだ。けれど、俺には少し(よこしま)な気持ちがある。


「じゃあ、失くしてしまったお守りが、どんな石なのか教えてくれるかな?」


 そう頼むと、ダリアは軽装鎧の内側に縫いつけた隠しポケットから、五百円玉くらいの平たい、橙色の石を取り出した。


「私の物をお見せします。ひとつの石を割って、コールと分けたので、ほぼ同じものでしょう」


 同じ石を見られるのは大変ありがたい。俺はそれををすぐさまスキャンする。

〈バルタ(いし)〉に、使い魔でも召喚士でもない、人間の魔力が込められている。

 バルタ石は、『バルタルークの召喚士』オリジナルの素材で、地球上にモチーフとなった鉱石はない。クセがなくて、一般人にも扱いやすい。この広場の街灯も、バルタ石を使った魔鉱灯(まこうとう)だ。


「朝、宿舎を出て、リンドン市で最初の買い物をした時は確かにあったんだよ。この袋の中に」


 コールが片手で掲げたのは、リンゴ大の小さな白い布袋だ。口を縛っている紐を緩めると、お金と、ケースに入れた身分証が見える。お守りの石も、布でくるんで一緒に入れていたそうだ。貴重品の扱い、雑過ぎないか?

 ダリアのつり目がさらに鋭くなった。


「コールは、この袋を無防備にぶら下げて歩くんです。何度もやめなさいと注意しているのに」

「うう、ごめん、ごめんよダリア」

「歩さん、これは落としたと言うより、スリに盗られた可能性が高いのではないでしょうか」


 不安な気持ちをさらにえぐられ、コールはまた(しお)れてしまった。


「まあまあ、お金は無事なんだから、スリとは限らないよ。さあもう一度、今度は四人で捜してみよう」

「コールさん、大丈夫ですよ。絶対に見つかります!」

「ありがとう。ファイヤーボーラ―くん」

「アンナマリーです」


 というわけで、お守り捜しスタートだ。


「ダリア、君のお守りを触らせてもらってもいいかい?」

「かまいません。どうぞ」


 手のひらにハンカチを乗せて、その上に彼女の石を置いてもらう。捜すべき石は、これとほぼ同じものだ。

 石に触れると、より精細に情報が見える。ゲームにはなかった感覚だ。俺の“現実”になったこのスキルを、これからもっと知っていかなくては。


 石を軽く握ったまま、広場をぐるりと一周スキャンする。手の中のバルタ石と一致、もしくはごく近い反応は、ない。

 判別スキルは、このように条件を指定して、素材をサーチすることもできる。


「うん、この広場には落ちてないな」

「えっ」

「えっ!?」


 俺がスキャン結果を口にすると、ダリアとコールの顔に、戸惑いの色が浮かんだ。

 そうか、何の説明もせずに、スキルを使ってしまったからか。「捜し物を手伝ってあげるよ!」と申し出てきた相手が、さらっと辺りを見ただけで「ないね!」なんて結論を出したら、そいつの人間性を疑う。

 俺は、素材判別スキルを用いて広場中をスキャンし、ダリアのお守りと同じ反応を探したのだと話した。


「歩さまは、先ほどこのスキルで悪徳商法の芽を摘んだのです」


 アンナがありがたい説法でも聞かせるように言う。再度、確認しておくが、リンドン市ならあの小細工はセーフだ。

 少年少女はため息をついて、深く頷いた。


「そんなに便利なことができるのですか。周りを見回したのは、ほんの五秒程度でしたが」

「すごいなあ、石使いくん。こんなスキル初めて知ったよ!」


 初めてか……、養成所で習わなかったのかな。気になるが、今は置いておくことにする。


「そうだな、二手に分かれて捜そうか。四人で固まっていてもしょうがないから」

「では歩さま、私たちは――」

「アンナは、コールと一緒に行ってくれ」

「えええええっ!?」


 アンナの大声に、行きかう人たちが振り返った。「さすがの僕も、ちょっと傷つく」コールがつぶやく。


「俺はダリアの石を持って、スキャンして周りたいんだよ。その方が精度が上がるからね。大切な石を借りるわけだから、持ち主に同行してもらうべきだろ?」

「はい、それは……その通りです。コールさん、一緒に頑張りましょう」

「大丈夫かい? ファイヤーボーラ―くん。君は、彼と――」

「いえいいんです。私、手柄を上げてみせます」


 こうして、俺とダリアはリンドン市を、アンナとコールは念のため、宿舎の方を捜すことになった。


「歩さま、行ってまいります」


 まるで今生の別れと言わんばかりに、アンナは何度も振り返った。


「もしかして、コールに変なニックネームで呼ばれるのがよっぽど嫌なのかな? 仲良くなれそうな感じはするんだけどな」


 実際、シルフィードが名前の件で失踪したし。

 俺の疑問に、ダリアは珍獣でも見るようなまなざしを返した。

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