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第16話 劣勢のひねくれ商人

「待てよ、これも、これもか? なんで」


 商人の青年は、痩せた背を丸め、俺が取り出した石墨(せきぼく)九十個を食い入るように凝視した。ぶつぶつと何か言いながら、一個一個を調べ始める。

 しばらくして、俺とアンナが待っていることを思い出したのか、はっと顔を上げた。


「スイマセン、ちょっとスキルの不具合で」


 はい、言い訳いただきました。


「スキルの不具合だなんて。まさか、異世界化の際に、この方の能力に何かの異常が起こったのでしょうか……」

「絶対、そういうんじゃないよ」


 真に受けてしまったアンナに、気にしないように言った。むしろ、彼の鑑定スキルは正常に機能している。


「待った待った。もいっかい」


 スキルの精度を高めるルーペを取り出し、さらにじっくりと石墨を鑑定しているが、結果は変わらないだろう。


 おそらく、はじき出された石墨の鑑定額が、相場よりもずっと高いんだ。しかも九十個、ひとつ残らず。


 グラフハウンドのボスからは、質の良い石墨を大量に採取できる。

 その採取できる中からさらに、俺の素材判別スキル(SS)で、より高品質のものを選別して集めたのだ。売値に大きくボーナスがつくのは当たり前。


「も、もう一回。これだけの数、出されたんだし、時間かかって当然なんで」


 商人は、また最初から鑑定をやり直している。

 その時、俺の横からひとりの女性客が、彼に声をかけた。


「すみません、金鉱石(きんこうせき)が欲しいんですが……」


「は?」鑑定中の店主は、ルーペを下ろし、気弱そうな女性を一瞥した。あからさまに顔をしかめる。


「見ての通り、鑑定中なんですけど? しかもこんな大量に売りつけられてるっていう」

「あっ、すす、すみません」


 こいつ、誰にでもこんな態度なのか。よく客商売ができるな。

 女性は商人と、俺たちにもぺこぺこと頭を下げ、立ち去ろうとした。


「歩さま……」

「うん、任せて」


 肩を落とした女性の背中に声をかける。


「金鉱石を買いに来たのかい?」

「え? あ、はい。そうですけど……」


 おどおどした女性に、召喚士の身分証を見せる。五年間ずっと、『職業:石使い』と表示されたままのカードだ。


「石使い……さん。えーとすみません、石使いって、どういうアレでしたっけ?」


 くっ、切ない。


「鉱石素材については、一応、専門家なんだ。使用目的と予算を教えてもらえれば、最適な素材を選んであげられるけど」

「ああ、すみません助かります。ありがとうございます、すみません」


 店主は、納得のいかない鑑定に集中している。彼が鑑定額を受け入れるまで、まだ時間がかかりそうだ。

 待っている間に、石使いの持つ固有スキルその4、〈素材判別〉を実演することにしよう。


「わ、私が使っている武器、ロッドなんですけど、それを強化したいんです。鍛冶屋さんが、強化素材に金が必要って言うので……、えーと、言われました」


 彼女も召喚士だった。職業は〈治癒術師(ちゆじゅつし)〉という回復のエキスパートだ。『ちゆじゅつし』は少々言いにくいので、『ヒーラー』と呼ぶプレイヤーが多かった。


「さて、品揃えはどんなものかな?」


 俺はまず、店に並べられている商品を確認する。意識を集中し、〈素材判別〉のスキルを使って、素材屋をすみずみまで“見る”。“見る”と言うより、“スキャンする”と言った方がしっくりくるかもしれない。

 このスキャンで、鉱石素材のラインナップ全てを把握できた。所要時間は五秒。


「うーん……」


 置いてある素材は、一般的な店とあまり変わらない。専属石使いがいるということで、何かしら拘りがあるかと期待したのだが。まだ石使いを初めて間もない召喚士かもしれない。どうか辞めずに続けてほしい。


 そして、品揃えはともかくとして、陳列の仕方はひっかかるところがある。


 俺は、『金鉱石』と書かれた紙の貼ってある木箱を注視した。

 ……いや違った。『金色の鉱石』と書いてある。『色の』の部分がやたら小さい字だった。


「リンドン(いち)ならではの小細工だなあ」


 しかし、この小細工は違反ではない。

 なまくらを高額で買ってしまったり、掘り出し物を安く入手できたり。それがリンドン市の醍醐味のひとつだ。


 箱の中には、様々な鉱石が入っている。

 灰色や茶色の石が雑に敷き詰められた上に、六つの白い皿が載っていて、それぞれに金色の石が入っている。

 皿ごとに石の形は違う。ごつごつと凹凸の激しいもの、立方体で断面が平らなもの、砂金の粒、といった具合だ。

 値段は量り売りで、あたかも木箱の中の鉱石が、全て同程度の品質であるかのように見える。


 この中から、ヒーラーさんの欲しがっている本物の金鉱石を選んであげよう。

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