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第1話 勧誘女神との出会い 【挿絵あり】

※最後に挿絵があります。

 残業を終えてパソコンをシャットダウンする。

 椅子に座ったままぐっと伸びをした。

 

「あ、まずい……」


 仕事から解放された途端、頭の中に次々と浮かび上がってくる映像。

 やめてくれ俺の脳みそ。思い出さないでくれ。

 

 一週間前の失恋のことを!

 

 

 

 俺の名前は藤江(ふじえ) (あゆみ)

 一年前から片思いしていた同じ会社の女の子に手ひどく振られたばかりだ。

 

 俺が振られたことはすぐに会社中に広まり、男性陣には「また一人被害者が……」と憐れまれ、女性陣には「見る目がない男だ」と陰で馬鹿にされているのを聞いてしまった。

 辛くて恥ずかしくて消えてしまいたい。

 

「どこか遠い所へ行きたい……。ここじゃないなら地獄だっていい!」


 両手で顔を覆って「ぐおお」と呻く。

 その時だった。

 

「承りました! 貴方を異世界化するゲームの住人としてお招きします!」

 

 目の前のモニタから突然、金髪の若い女性が勢いよく飛び出してきたのだ。

 

「わああああ!」

 

 キャスター付きの椅子ごと後ずさろうと床を蹴る。

 しかし椅子の脚は滑ることなく床にひっかかり、俺を巻き添えに後ろにぶっ倒れた。

 

「いだっ!」

「きゃああ! 歩さま、大丈夫ですか! 頭は打っていませんか!?」

「だだだ、誰だあんた!」

 

 酷く取り乱した女性がすがりついてくる。なんだどういうことだ。

 白い肌に碧色の瞳。ウエーブした長い髪が、あお向けの俺の体に落ちる。

 シンプルな白のドレスは胸元が広く開いていて、ボリュームに一瞬目を奪われたが今は『豊かさ』なんてどうでもいい!

 

「誰か来てくれ! 不審者だ! 不審者がいる!」

「ひえええっ、不審者だなんて!」

「コスプレの不審者がここに――あれ?」

 

 助けを呼ぼうと周りを見回すが、誰もいないどころか見慣れた会社の風景ではない。

 

「どこ?」

 

 なぜか俺は石材の壁に囲まれた部屋で尻餅をついている。

 デスクもパソコンも消え、座っていたキャスター付きの椅子は木製で四本脚のものに変わっていた。どうりで後ろに滑らないはずだ。

 

「異世界化を明日に控えたゲームの中です」

「……は?」

「ここは歩さまの〈ホーム〉。生活や冒険の拠点となる家です」

 

 女性が上体を起こした俺の背中をさすりながら「痛くないですか」と聞いてくる。

 彼女の手からわずかに熱を感じると、床に打ちつけた痛みはすっかりなくなったのでそう答えた。

 立ち上がって椅子も起こし、女性と向き合う。

 

「申し遅れました。私はアンナマリー。この度、主神様よりゲームの異世界化を任された女神の一柱です」

「ゲームに、異世界に……女神?」

「はい、そうです。不審者じゃありませんよ!」

「はあ……」

 

 うーん、これはもしかして……。

 

「ああ、制限時間の寸前に転移希望者様にお会いできるなんて! 今日までの過酷な勧誘生活への恩賞でしょうか」

 

 女神らしき女性は目を潤ませ、天を仰いでプルプルしている。

 

「歩さま、ありがとうございます! 貴方はまさに私の救世主です!」

 

 そして両手で俺の右手を取って上下にブンブンしたかと思うと、胸元に引き寄せる。俺は右手から意識を逸らすべく木枠の窓から外を見た。

 遠くの森の上を巨大な鳥が飛んでいる。

 

「やけに大きな鳥だな。いや、あれってまさか……」

「はい、森の遺跡を守護するドラゴンですね」

「ドラゴンか! やっぱりな!」

 

 女神の手をほどいて窓に駆け寄ると、家の前の道を荷馬車がガタゴト通り過ぎていく。手綱を持っているのは大きな耳と鼻を持ったゴブリンだった。

 

「はは、そういうことか!」

 

 もっとよく見ようと窓に手をかけるが開かない。鍵がかかっているようには見えないのに。

 

「歩さま、申し訳ありません。今は仮契約中なのでホームのみご覧いただけます」

 

 なんだその設定。まあいいや。

 

「うん、それじゃあ本契約を頼む」

「えええっ? 開始15分で契約!? あ……は、はい承知いたしました! それでは『この世界』と『ギフト』についてご説明いたします!」

「そういうのは要らないよ。大体わかったから」

「ひゃええええっ、一を聞いて十も百も千も知る聡明さ!」

 

 女神の浮かれようがいよいよ極まってきているが放っておこう。

  

 ――そう、俺はわかってしまったのだ。

 

 これは現実から逃れるために俺の脳が見せている夢か幻だ。

 人体の神秘が傷ついた心を守ろうとしているのだ。

 しかも大好きな剣と魔法の世界に入り込んだようなこの状況。

 

「ありがとう女神様」

「えっ」

「君、いい仕事してるな」

「そんな! 仕事で褒められるなんて初めて……。どうしよう、永遠にお仕えしたい」


 俺の脳内人物である女神は、顔を真っ赤にしてテーブルにもたれかかった。小声で何か呟いているがよく聞こえない。

 頼むぞ女神様、この気持ちが紛れるような面白いものを山ほど見せてくれ!

 

 

 しかし30分後、俺はこの選択を激しく後悔することになる。


挿絵(By みてみん)

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