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時山秀樹が叫んだ理由
2039年4月3日、時山秀樹はタクシーで病院に向かっていた。
病院から、妻が外で倒れたため、運ばれたとの電話があった。
妻は妊娠していて、もうすぐ生まれる。
『名前、何する?』
『生まれたら、一緒に考えよう』
不妊治療で、やっとできた子供だった。
運転手にもっと速くできないかとお願いする。
運転手もわかっているようで、速度をあげていた。
病院に着くと、受付まで走った。
「時山花恋の夫です。妻がこちらに運ばれたと聞いてきました」
受付の人は確認すると、案内してくれてた。
途中で、妻の担当医の柴田先生に会った。
「先生、妻は、妻は、大丈夫なんでしょうか」
柴田先生は一呼吸すると、告げた。
「残念ですが」
通された場所で、妻が横になっていた。
手にさわると、冷たかった。
「子供は、子供は」
柴田先生は黙っていた。
それが全てを物語っていた。
「うわぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ」
全てを失った。
これからどうすればいい。
何もわからないまま、叫ぶしかなかった。




